その後(キルギスの場合)

「えっ? エストゥロイ領に新たにできる総合ギルドのギルドマスターに就任? 私がですか??」


 フェロー王国王都支部からエストゥロイ支部に異動となったギルドマスター、キルギスはグランドマスターからの吉報に面食らった表情を浮かべる。


「で、ですが、総合ギルドは商業ギルドと冒険者ギルドが統合する事で出来上がった新たな組織と聞いておりますが……」

『うむ。その通りだ。先日、商人連合国アキンドの評議員と話し合いをした結果、フェロー王国の各領に新設される総合ギルドの三割に、こちら側の指定するギルドマスターを置く事で話が付いた。今、思えばあの時、君を異動させなければ、違った未来があったのかも知れないな……』

「そう……かも知れません」


 フェロー王国王都支部にモルトバを異動させた結果、Sランク冒険者である悠斗君と、悠斗君の経営する商会の従業員であるAランク冒険者の多くが冒険者ギルドを脱退。

 その際、モルトバは冒険者ギルドに何の報告もなく、悠斗君から白金貨百万枚という途方もない白金貨を賠償金?として受け取り、王都で活動する子飼いの冒険者を中心にばら撒いた。

 どうやらその時、モルトバは白金貨百万枚と引き換えに、合意書を結んでいた様で、その合意書が冒険者ギルドを苦しめる事になる。


 事態はそれだけでは終わらなかった。


 どうやら、フェロー王国の国王シェトランド陛下から国内における迷宮での活動許可を得た商人連合国アキンドの評議員である悠斗君が、フェロー王国の商業ギルド内における討伐部門と護衛部門の設置を評議会にかけたらしい。

 実際、フェロー王国の王都支部、そしてエストゥロイ支部で冒険者の大量脱退があった事や疫病を振り撒くモンスター討伐に各国の高ランク冒険者を動員した事もあって、ギルド運営に支障をきたしていた。


 シェトランド陛下がそれを危惧し、商業ギルドにも迷宮内での活動を認めるのもなんとなくわかる。

 しかし、凋落する冒険者ギルドに対し、商業ギルドの躍進は止まらない。

『冒険者』に代わる『収穫人』という称号を、商業ギルドの討伐部門で活動する者に与え、迷宮内での活動の幅を広げていく。


 モルトバが合意書の存在を隠していたのも痛かった。

 もう少し早くグランドマスターがその存在に気付いていれば、まだ何とかなったものを、グランドマスターが仲裁に走った時には、時すでに遅く、モルトバによって王都支部で活動してくれていた冒険者二百人以上が奴隷商人に借金奴隷として売られ、その後の消息は不明。

 グランドマスターとユートピア商会の話し合いの流れで、モルトバは犯罪奴隷に堕ちる事になった。


「もしモルトバが見当違いな事でユートピア商会に賠償を求めなければ、冒険者ギルドと商業ギルドが統合する事もなかったでしょうな」


 しかも、冒険者ギルドの経営にユートピア商会の従業員を参画させた結果、僅か一週間足らずで、冒険者ギルドの決定権を奪われてしまった。もはやグランドマスターはお飾り。

 グランドマスターに付き従う冒険者達を纏める為に残された存在といっても過言ではない。


『全くだ。しかし、良かった点もある』

「良かった点ですか?」

『ああ、それはフェロー王国における冒険者ギルドの不正を雪ぐ事ができた点だ。フェロー王国内の冒険者ギルドの殆どで、ギルドマスターが不正にランクを上げたり、スラム街に住む人々への暴行が認められた。多くの冒険者に罰を与える事になったが、結果的に、冒険者ギルド内の風通しも良くなった』

「そうですか……」

『代わりに多くのものを失う事になったがな……まあ、これも時代の流れだ』

「そういえば、ヴォーアル迷宮が攻略されてしまった件はどうなったんですか? 王都支部を離れてからというものの、中々、情報が入って来なくてですね……」

『ああ、その件か……その件に関して調べる事は、シェトランド陛下より禁じられた。これ以上の調査をしてはならん』

「調査を禁じられた!? 何故です! ヴォーアル迷宮は王都の要ですよ? 攻略者を探しておかねば……万が一、迷宮核が取られれば、王都はお終いですよ!?」


 それなのに何故、調査をする事自体を禁止に……。

 シェトランド陛下は事の重大さをわかっていないのか!?


『……そんな事はわかっている。しかし、シェトランド陛下がそう仰るのだ。仕方があるまい』

「で、ですが、王都に住む者はどうなるのです! 王都に住む者は、今、王都が危険な状態にある事を何も知らないんですよ!」

『君の言いたい事もわかる。しかし、何度も言わせて貰うが、あのシェトランド陛下が調べる事を禁止したのだぞ? 前国王がある商会を敵に回し、王都を崩壊寸前まで陥れられた経験を持つ、あのシェトランド陛下がだ』

「そんな経験を持っているのであれば、尚更の事でしょう……ま、まさか、ユート……」

『……ああ、それ以上は決して口にするなよ。誰が聞いているとも限らないからな』

「そういう事ですか……それならば納得です」

『まだ憶測の域は出ないが、まず間違いあるまい……もうこんな時間か。ワシはこれから打ち合わせがあるのでな、先ほどの事、他言するでないぞ』

「はい……」


 グランドマスターとの通信を終えた私は、窓からユートピア商会の建物に視線を向ける。


「全く。とんでもない商会があったものだ」


 フェロー王国から冒険者ギルドが無くなり、商業ギルドと統合の末、総合ギルドが出来上がる。

 これはもう止める事のできない時代の流れだ。


 私はそう呟くと、荷造りを始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る