その後③

「ねえ、もしかして、神になれば元の世界に戻る事ができるの? この世界に帰ってくる事も?」


 俺がそう質問すると屋敷神は頷いた。


「ええ、現状、悠斗様が何を司る神になるのかはわかりませんが、私の様に土地や建物を司る神になれば、その可能性は十分あります」

「そ、そうなんだ」

「もしや、漸くその気になって頂けましたかな?」

「い、いや、ちょっと聞いてみただけだけど……少しだけ興味が湧いてきたかな?」


 とはいえ、やっぱり、人という概念から外れるのには抵抗がある。それに神になったら信仰心とかいうよくわからない不確かなエネルギー?でその存在を保たなくてはならない。

 うーん。不安だ。

 正直言って超不安だ。


「そうですか、それは良かった。悠斗様は神になる事にあまり乗り気ではなかった様でしたので……これで、これまでやってきた事が無駄にならず済みそうです」

「えっ? これまでやってきた事?」


 屋敷神のいう、これまでやってきた事とは一体なんだろうか?

 俺が普通の生活を送る中で一体何を……。


「……まあ、その話は良いではありませんか。そんな事より悠斗様、これからどうされますか?」

「これから?」

「はい。あとレベルを一つ上げる事で神と呼ばれる存在に昇華する事は先ほど、お話した通りです。早速、レベル上げに向かいますか? それとも、もう少しだけ人としての人生を謳歌致しますか?」


 人としての人生を謳歌って……まあいいや。


「うーん。神に昇華すると言われてもピンとこないし、レベル上げは当分いいかな?」

「そうですか……まあ、いいでしょう。私共と致しましては、悠斗様がいつ神に昇華してもいい様に準備を進めさせて頂く事と致しましょう」

「う、うん。ありがとう……」


 これ程、複雑な気分で『ありがとう』というのは初めてだ。

 しかし、それも仕方のない事。

 あと一つレベルが上れば、俺は人間としての枠組みから外れてしまう。


 こんな事になるなら、ヴォーアル迷宮攻略時に手に入れたスキルブックを読むんじゃなかった。

『限界突破』とかいう訳の分からないユニークスキルさえなければ、こんなに悩む事もなかったのに……。


「ああ、そういえば、悠斗様にお伝えする事がございます」

「えっ? なに??」

「いえ、大した事ではないのですが……、オーランド王国が近隣諸国に宣戦布告し、疫病に犯されたモンスターを放っている事はもうご存知だと思います」


 いや、それ大した事だよね? どう考えてもそうだよね??

 っていうか、オーランド王国。そんな事やってたのっ!?


 屋敷神の問いに俺は首を振る。

 オーランド王国が近隣諸国に宣戦布告している事は聞いたが、疫病に犯されたモンスターを放っている事については初耳だ。

 というより、どうやったらそんな事ができるのだろうか?


「おや? 鎮守神から聞いておりませんでしたか……まあいいでしょう。そのオーランド王国がフェロー王国に対し宣戦布告致しました」

「せ、宣戦布告……」

「はい。オーランド王国がフェロー王国に対して戦争行為を開始する意思を表明したのです。現在、その件について話し合いがしたいと、シェトランド様より面会を求められております」

「えっ? 話し合い? シェトランドが俺に?」

「はい。シェトランド様は悠斗様に対して面会を求めておいでです」

「ええっ……」


 一体、何の相談を持ち掛けられるのだろうか?

 間違いなくオーランド王国との戦争関連なんだろうけど、正直言って、俺にできる事は少ないと思う。

 そもそも、その戦争に従業員達を巻き込む気もないし、俺と面会するよりもこのフェロー王国を実質的に支配している屋敷神と話をした方が建設的のような気がしてならない。


「ご安心下さい。話し合いには私も参加致します」

「うん。ありがとう。そうしてくれると助かるよ」


 シェトランドが相手とはいえ、一人で話を聞くには少し重そうだ。


「それでは、一週間後の午前十時。シェトランド様との面会を予定に入れておきます」

「一週間後の午前十時だね。わかったよ」


 俺がそう返事をすると、屋敷神が呟いた。


「はい。しかし、オーランド王国が悠斗様の支配するフェロー王国に戦争をしかけてくるとあれば冒険者ギルドの掌握を速めなければなりませんね」


 なんていうか……うん。

 屋敷神、冒険者ギルドを完全に掌握する気でいるらしい。


「私はこれから冒険者ギルドに送り込む従業員の選定を行います。悠斗様は暫くの間、ゆっくりお寛ぎ下さい」

「うん。ありがとう」


 そういえば、この一ヶ月間、ずーっと、各領を周り従業員達のレベリングをしていた気がする。

 それはそれで楽しかったんだけど、どう考えても働き詰めだ。

 多分、屋敷神はその事を考えて、シェトランドとの話し合いを一週間後に設定してくれたのだろう。


 オーランド王国に宣戦布告されているというのに、それでいいのだろうか? という気持ちもなくはないが、屋敷神がいればフェロー王国の守りは万全。

 冒険者ギルドの件についても、屋敷神に任せて、俺はゆっくり休みを満喫させて貰おう。


「それじゃあ、久しぶりにポーション風呂に浸かって、ベッドでゴロゴロしていようかな?」


 そういうと俺は身体の疲れを癒す為、浴場へと向かった。

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