その頃の屋敷神はというと……
「さて、悠斗様も他領に移りましたし、そろそろ良いでしょう」
そう呟くと、私は『影精霊』の力を借り二人の人間を影の中から解放する。
一人はユニークスキルをロキ様によって奪われたSランク冒険者ツカサ・ダズノットワーク(本名:不働司)、そしてもう一人は、商人連合国アキンドの元評議員にして、この世界では死んだ事になっている借金まみれの憐れな女、トゥルクだ。
「さあ、シャキッとしなさい。これからあなた方には、冒険者ギルドフェロー王国王都支部のギルドマスター、モルトバの命令により『影精霊』を付した魔道具の回収をする為、各国を回らなければならないのですから……」
私がそう言うと、ロキ様のスキル『変身者』により強制的に悠斗様の姿へと声帯ごと変えさせられたトゥルクが叫く。
「むむむむむむむ、無理ですー! 私に悠斗様の真似ができる訳ないじゃありませんかっ!」
トゥルクと悠斗の年齢差は二十歳、それに真似をする相手が悠斗様とあって、トゥルクも不安に思っているのだろう。しかし、そんな戯言は許されない。
「『できる』『できない』は、あなたが決める事ではありません。私が『やれ』と言ったら、あなたはそれを『実行する』それ以外に選択肢はないのです」
「で、ですが、しかし……王侯貴族の元を回って一度販売した商品を強制的に回収するなんて、下手を打てば私の命が……」
「問題ありません。あなたの身は『影精霊』により守られています。それにユニークスキルを失ったとはいえ、Sランク冒険者のツカサ・ダズノットワークを護衛に就けるのです。問題はありませんよね、ツカサ?」
私がそう問いかけると、ツカサは直立姿勢のまま呟いた。
「は、はい! 問題ありません!」
「ほら、ツカサもこう言っています。それにあなたが行う仕事といえば、冒険者ギルドのギルドマスター、モルトバと結ばされた一方的な内容が書かれた合意書の写しを見せながら魔道具の回収をするだけ……数少ないSランク冒険者を態々、あなたの護衛に就けて差し上げるのです。一体、何が不満なのです?」
「ふ、不満も何も、私のカジノは取り上げられるし、いつの間にか死んだ事になっているし、朝、目が覚めて見れば、悠斗様の姿にさせられているし、今の所、不満しかありませんよー!」
ふむ。悠斗様の命を狙っておいて不満を口にするとはおこがましい……。
「人として生きる事ができるだけ、ありがたいと思って頂きたいのですが……それとも、人形としての生をお望みですか?」
私は心の底から困った表情を浮かべ、ボソりと呟く。
すると、トゥルクとツカサは汗をダラダラと流し始めた。
「ふ、不満なんて、ありません……ねえ、トゥルク様?」
「え、ええっ……い、今のは言葉の綾ですわ……そ、それにこの身体でもなんだか良い気がしてきました。若い男の姿に……悠斗様に一度なって見たかったんですよね、私……」
「そうですか。それは良かった。では、問題ありませんね?」
「「は、はい……」」
私が笑顔を浮かべると、トゥルクとツカサは渋々、声を上げた。
何をするにしても納得してやって頂くのと、納得せずにやって頂くのでは大違いだ。
「さて、これからあなた方には『影精霊の付与されたペンダント』の回収を行って頂きますが、一点、これだけは守って頂きたい点があります。特にトゥルクはよく聞く様にして下さい」
「「は、はい!」」
「あなた達に科す至上の命題は、悠斗様の評価を落とさず無事帰る事。それに尽きます」
「「は、はいっ?」」
私がそう言うと、トゥルクとツカサは意外そうな表情を浮かべた。
まるで、私がそんな事をいうとは思わなかったのだろう。失礼な人間達だ。
「意外そうな表情を浮かべていますね」
「い、いえ、そういう訳ではっ!」
「当然の事です。今のあなたは、ユートピア商会の会頭である悠斗様の姿となっております。万が一、あなた方の行いにより、悠斗様に悪い噂や実害が起こった場合、死よりも苦しい罰を与える用意がございますのでそのつもりで……ああ、ちなみに悠斗様はこれからフェロー王国中を回る予定です。あなた方には、悠斗様が帰って来る前にフェロー王国中の魔道具の回収をして貰う予定です」
「ええっ!? 悠斗様が帰って来る前に魔道具の回収をするのですかっ!?」
「はい。この国以外に流れた魔道具の回収は、あなたと同じ様に、悠斗様に顔を変えた元評議員やあなたの元部下にお願いしております。さあ、時間がありませんよ」
そういうと、私は地図と買取用の白金貨の入った収納指輪をトゥルクに渡す。
「ちなみに、分かっているとは思いますが、もし万が一、これを持ち逃げしようとしたり、ノルマを達成できない場合は、死よりも苦しい罰を受けて頂く予定です……例えば、人形化とか、人形化とか、人形化とかね? まあ、あなた方には『影精霊』を憑けてあります。あなた方の行動は全て私に筒抜けだとそう思いながら行動するのですよ?」
「「……は、はい」」
「よろしい。地図に魔道具を購入した者の住所と名前を書き込んであります。それでは行きなさい」
「「い、はい!」」
私が手を叩くと、収納指輪と地図を片手にトゥルクとツカサは走り出した。
正直、フェロー王国を支配した私がそれを行えば一番早い。
しかし、それでは冒険者ギルドに責任を押し付ける事ができない。魔道具を買い戻される側に証言して貰わねばならない為だ。
走り出したトゥルクとツカサに視線を向けると、私は手を振り彼女等を送り出した。
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