トースハウン領④

「悠斗様、スラム街に住む全員にチラシを配り終えたよ!」

「僕も頑張ったんだ~!」

「私も~誉めて誉めてっ!」


 チラシ配りをお願いしたユートピア商会トースハウン支部初の従業員であるリオ君達がチラシを配り終え戻ってきた。


「うん。ありがとう。リオ君やライン君、ルナちゃんのおかげで助かったよ。それじゃあ、君達に次の仕事をお願いしようかな?」


「「「はい!」」」


 とてもいい返事だ。

 やっぱり採用してよかった。


 そんな事を思いながら、収納指輪から三つの指輪を取り出していく。


「それじゃあ、リオ君とライン君、ルナちゃんは、このスラムを出る準備をして貰おうかな。君達にはユートピア商会の従業員になった証としてこの『収納指輪』を渡しておくね。中には支度金として白金貨三枚が入っているよ。荷物はこの中に入れるように。一応『収納指輪』には護衛として『影精霊』を十体付与してあるけど、まだ君達は幼いからね。白金貨を持っている事は、信頼できる大人以外に言ってはいけないよ? それじゃあ、それを指に嵌めて出発の準備をしておいで」


 そう言いながら三人に『収納指輪』を渡すと、リオ君達は笑顔を浮かべる。


「うん。ありがとう、悠斗様! それじゃあ、いくぞ。ライン、ルナ!」

「うん!」

「ま、待ってよー!」


 俺はリオ君達を見送ると、食事を済ませ、面接の時を今か今かと待ち侘びているスラム街の人達に顔を向けた。


「それではこれから、ユートピア商会トースハウン支部の従業員面接試験を始めます。見ての通り、既に三人の従業員を採用していますが、採用の基準はやる気があるかどうか、人の為に働く事を厭わないかどうかです。それでは、前列に並んでいる人達から自己紹介をお願いします」


 こうして、ユートピア商会トースハウン支部の採用面接が始まった。


 俺は面接中『鑑定』スキルを使い従業員達のスキルを覗いていく。

 すると案の定、大半の人が『鑑定』スキルを持っていた。


 流石はスラム街。

 商会にとって必要となるスキルを持った人財が沢山揃っている。それだけではない。

 片足を失いスラム街に流れ着いた高ランクの冒険者崩れの人や、部下に騙され全てを奪われてしまった商人など、様々な人財もいた。


 スラム街は人財の宝庫だ。

 何故、国はスラム街に住む人達を積極的に雇用しないのだろう?

 本当に不思議だ。


 全ての人達を鑑定すると、一度、屋敷神を呼び出し扉を設置した。

 土地神のスキルを用いた『悪意ある者』を弾く扉だ。

 一人一人、その扉を潜ってもらい、潜れた人全てを合格とした。


 まあ、冒頭の合格基準はフェイク。

 勿論、多少はその点も参考にするけど、基本的に扉を潜る事ができるか否かがものをいう。


 驚く事に全ての人がこの扉を潜る事ができた。

 Bランク冒険者が月に数度、スラム街に顔を出していた様だし、悪意ある者はこのスラム街から去っていったのだろう。


「えーっと、扉を潜る事のできた皆さん。まあ全員ですが……おめでとうございます。全員、ユートピア商会トースハウン支部の従業員として採用となりました。つきましては、皆さん一人一人に影精霊十体が付与された『収納指輪』を手渡していきますので、受け取って下さい。ああ、指輪の中には支度金として白金貨三枚が入っています。トースハウン支部に到着次第、皆さんがこれから住む住居へ案内します。その後、自由時間と致しますので、白金貨三枚で生活に必要なものを取り揃える様にして下さい。それでは一時解散とします。荷物を持ち一時間後にこの場所に集合して下さい」


 そういうと、俺は『影分身』を総動員し、新たに従業員となったスラムの人々に『収納指輪』を配っていく。


 指輪を配り終え、従業員達を待つ事一時間。

 スラム街の入口に集まった従業員達の顔を見渡すと、ユートピア商会トースハウン支部に向かう事にした。


 トースハウン領に入ってみると、そこはカラフルな家が建ち並び旅先に置いてある絵葉書でしか見た事のない様な景色が広がっていた。


 冒険者の質があまりにも残念だった事からもっと荒廃した街並みが広がっているかと思いきやそうでもないらしい。

 街を散策していると屋敷神が用意してくれたユートピア商会トースハウン支部のある建物が見えてきた。


「はーい。皆さん、ここが三日後から働く事になるユートピア商会トースハウン支部です。そして、ここが皆さんに住んでもらう予定の社宅になります」


 俺がそういうも、従業員達は呆然とした表情を浮かべている。

 まあ、無理もない。

 ここ、ユートピア商会トースハウン支部の従業員居住区に建っている箱型の家は、元の世界でいう所のマンション。

 この世界の人が見た事ないのも当たり前の事だ。


「えー、部屋の中には、ユートピア商会で販売中の冷蔵庫や照明器具、風呂やトイレ、ベッド等が予め備え付けられています。量産品ではありますが、服や靴も用意してありますので、買い物に行く際には、風呂に入り身体の汚れを落とし、綺麗な服に着替えてから向かう様にして下さい。また、明日より研修として迷宮に入ります。明日朝八時にここに集合し、ご飯を食べた後、商業ギルドでギルドカードを発行、迷宮に潜りますので今日はゆっくり身体を休めて下さいね」


 俺がそういうと、従業員達は喜びの声を上げながら、マンションへと向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る