迷宮攻略の裏側で(side元主神、時々悠斗)④

「迷宮を改築しなきゃ……」


 レベル99の衝撃からほんの少しだけ立ち直った俺は、迷宮核に手を当てる。

 また一歩、人外に近付いてしまったた事で魔力量は十分。

 ヴォーアル迷宮の様に、迷宮を支配下におく為、数日かかる事もなさそうだ。


 あり余る魔力を迷宮核に注ぎ込むと、迷宮核を支配下においていく。

 この迷宮はボスモンスター以外大した事なかったし、たった三十階層しかなかった為か、迷宮核に魔力を注ぎ込む事、十数分。


 たったそれだけの時間で、マリエハムン迷宮の支配権を奪う事ができた。


 早速、迷宮を改築していこう。


「……とはいえ、どの様に改築すればいいだろうか?」


 中々難しい問題だ。

 理想はこの迷宮に入る事でストレスを取り除く事ができる……そんな迷宮だけど……。


 まあ時間はたっぷりある。

 まずはこの迷宮が誰かに攻略されない様、防御面を整えよう。

 折角、支配下に置いたマリエハムン迷宮。

 この迷宮を誰かに盗られては堪らない。


 と、なれば、まずは第一階層からだ。

 俺は迷宮核に手を当てると、第一階層を変えていく。


 コンセプトは『俺だけの迷宮』

 最初はオーランド王国との交渉に使おうと思っていたが辞めだ。

 そんな事より自分の心の平穏を優先したい。


 迷宮核に手を当てると、まず第二階層に続く扉を閉ざし洞窟を水没させる事から始めた。


 この迷宮に入る事ができるのは、俺だけでいい。

 他の誰にも入らせない。


 しかし、万が一という事もある。

 俺は迷宮核に魔力を注ぎ込むと、頭の中に流れ込む設置可能なモンスターの中から、アンドラ迷宮のボスモンスター。世界魚バハムートを湖の中に放っていく。


 さらに第二階層からリバイアサンに壊されかけた第十階層のボス部屋をまでを完全に水没させると、水没させたボス部屋の中に二体のリバイアサンを設置した。


 そして、第二十階層にコロッサスを設置する。

 第三十階層には……。


「あれ?」


 頭の中に流れ込んでくるボスモンスター一覧の中にスレイプニルがない。

 一体なんで……まあいいか。


 第三十階層までこれる人は多分存在しない。

 この迷宮は第一階層にある湖に入った瞬間、ジ・エンド。

 次に繋がる扉はなく普通の方法でたどり着く事は不可能だ。


 さて、誰にも知られない別荘造りを始めよう。


 俺は迷宮核に魔力を注ぎ込むと、第二十一階層から第三十階層までを、俺の理想とする別荘へと変えていく。


 取り敢えず、第二十一階層から第二十五階層までは、野菜や果物が豊富に取れる農園に、第二十六階層と第二十七階層は燦々と輝く太陽が眩しいビーチに、第二十八階層から第二十九階層までを遊園地に変えた。

 そして第三十階層の環境を自然豊かな森に変えると、一等地にペンションを置いた。


 ここなら素晴らしい休暇を楽しむ事ができそうだ。

 でもその前に……。


 俺は『影分身』を三体作り出すと、顔を隠し第一階層の警備に就かせた。

 何も知らない兵士が、湖に入ったら大変な事になる。

 最低限の見張りは必要だ。

 それに兵士を追い払う位であれば、レベルが上がってしまう心配もない。


「よーし! 暫くの間、のんびりするぞ!」


 俺はそう言うと、遊園地へと向かった。


 ◆◇◆


 悠斗が遊園地で遊んでいる頃、オーディンは憤怒の表情を浮かべながらマリエハムン迷宮の中に入っていく。


「まったく、どこのどいつだっ! このワシの愛馬をよりにもよって、ワシの王座の力を使って縊り殺すなんてっ!」


 愛馬スレイプニルは唯一無二の存在だ。

 リバイアサンやコロッサスの様に複数いる訳ではない。


「む、なんだ……何か様子がおかしい様な……」


 マリエハムン迷宮の第一階層から第九階層までモンスター一匹存在しないそんな迷宮にした筈……。

 それなのに、水中に何やら気配を感じる。


 それに……。


「何者だ、貴様等……」


 後ろを振り向くと、顔を隠した三人の人間がいた。

 体格や服装からしてこの国の兵士ではない事は確か……。


 三人の人間は無言のまま手の平をワシに向ける。


「なんだ? 何をしている?」


 ワシがそう呟くと、影が身体に這う様に蠢いている事に気付く。


 まさか、これは攻撃を受けている!?


 そう判断したワシはその場から飛び退いた。

 すると、影が生き物の様に蠢き、ワシを捕えようと襲ってくる。


「くっ、このワシを舐めるんじゃないっ! 射殺せ、グングニル!」


 人間達に向かってグングニルを投擲する。

 すると人間の一人に深々と突き刺さった。


「はっ! このワシを舐めるからそういうことになるのだっ! さあ残りの人間達も殺してしまえっ!」


 しかし、ここで予想外の事が起きる。

 その人間はグングニルが突き刺さった状態のまま、起き上がると、それをそのまま身体の中に収めてしまったのだ。


「き、貴様っ! ワ、ワシのグングニルをどうした! どこにやったんだっ!」


 グングニルはワシの持つ必殺必中の神器。

 何故、グングニルを腹に受けて生きていられるっ!


「返せっ! このワシにグングニルを返せっ! ぐっ……」


 ワシがそう言いながら詰め寄ると、影が蠢き身体を縛り上げていく。

 人間達は、動けなくなったワシに近寄ると、ワシの身体を影に沈めていく。


「止めろ貴様等っ! このワシに何をする気だっ! グングニルを返せぇぇぇぇ!」


 そう叫んでいる間も、どんどん身体が影に沈んでいく。

 気付けば、ワシは迷宮の外にいた。

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