迷宮攻略の裏側で(side元主神)⑤

「おのれ、おのれ、おのれ、おのれっ!」


 迷宮の外に放り出されたワシは、再度、マリエハムン迷宮に突入した。


 このワシの愛馬スレイプニルを縊り殺し、王座を盗られ、それだけではなく、神器グングニルまで奪われるなんてあってはならない事だ。


 これでは、ロキの眼を掻い潜り、王座とスレイプニルを迷宮に転送した意味がなくなる。


 何より、このワシの宝を人間風情が使っているという事に憤りを覚えて仕方がない。


 しかし、これで確信した。

 彼奴らがこのマリエハムン迷宮を攻略した一派に違いない。だが、どうする……。


 必殺必中の神器グングニルは効かず、ワシの持つ武器の大半を奪われてしまった。


 しかし、彼奴らは確実に殺さねばならぬ。

 あれを生かしておけば、これからの計画に支障が出る事は必至。


 何より王座がワシの手を離れている事の方が問題だ。

 あの王座は主神の座を手に入れる為にも、なくてはならないもの。

 万が一、ロキに渡れば、主神として返り咲く事も叶わなくなる。


「ならぬぞっ! そんな事あってはならぬ!」


 先は油断して迷宮の外に追い出されてしまったが、もう油断も慢心もしない。

 最初から本気でいかせて貰おう。


 ワシは第一階層に構える顔を隠した三人の人間を見るや否やルーン文字『呪い返しの法』を黄金の腕輪『ドラウプニル』に刻んだ。

 ワシの事を視界に捉えた人間達は、案の定、影を操りこのワシを再び迷宮の外へと追い出そうとしてきた。しかし、ワシにそれは効かない。


『呪い返しの法』は、相手の魔法や魔術を、倍にして相手に返す魔術だ。


 人間達は自分が放った魔法の効果により、影に縛られ、そのまま迷宮の外に追い出されていく。


「ふん。全く手間を取らせおって……」


 ワシは人間達が自分の魔法により迷宮の外に追い出された事を確認すると、湖に向かっていく。

 今、優先すべきは王座の確保。

 神器グングニルは、王座を手に入れてからゆっくり回収する事にしよう。


 ワシが湖に入水すると、湖の底から何かが向かってくる。

 そんな気配を察知した。


 急いで湖から上がると、湖から複数体の世界魚バハムートが現れる。


「な、なんでこんな所に、バハムートがっ!?」


 世界魚バハムートは、ワシに視線を向けるも、回遊するだけで湖から出る素振りは見られない。

 しかし、困った。

 グングニル無き今、複数のバハムートがいる湖なんて恐ろしくて入る事すらできない。


「くそぉぉぉぉ!」


 どうやらあの者共は、迷宮核を乗っ取り、マリエハムン迷宮を勝手に改装した様だ。

 第一階層に見張りとして三人の人間を配置し、湖にはボスクラスのモンスター、バハムートを複数体設置。神器なくしてそんな迷宮を突破できる訳がない。


 第一階層にボスモンスターを複数体設置する悪辣さを考えれば、第二階層以降もボスモンスターを設置していてもおかしくはない。

 もしかしたら、第二階層以降の全ての階層を水没させている可能性すらある。


 こんな事なら、マリエハムン迷宮に愛馬スレイプニルと王座を転送するんじゃなかった。

 そもそも、第二階層にすら辿り着いた形跡のない迷宮が、いつの間にか攻略されるなんて思いもしないではないか。

 しかし、こうなってしまえば仕方がない。


 愛馬スレイプニルは死んでしまったし、王座はこの迷宮を攻略した者の手の内にある。

 神器グングニルも奪われてしまったが、グングニルが刺さって動ける様な人間相手に、魔術と『宮殿ヴァルハラ』の力のみで戦うのは愚策。


 究極的には現主神ロキの下に王座が渡らなければ問題はない。

 この迷宮を支配しているのは、誰か分からぬが、王座の存在がロキにバレる前に取り戻す。


 それに信仰心が集まれば、使える魔術も『宮殿ヴァルハラ』の力をより開放する事ができる。


「それまでの間、王座とグングニルを預けておこう。手荒く扱うなよ」


 ワシはそう呟くと、マリエハムン迷宮を後にした。

 マリエハムン迷宮から出ると、三人の人間が近付いてくる。


「……むっ、そういえば此奴ら迷宮の外に飛ばされておったのな……。まだ遊び足りぬか、貴様ら」


 ワシがそう問いかけるも、その人間達はワシの事を無視し、そのまま横を通り過ぎると迷宮の中に戻っていく。


「くっ、人間風情が……今に見ておれよ」


 ワシはそう呟くと、オーランド王国の王城へと戻る事にした。


 ◇◆◇



 悠斗がマリエハムン迷宮を改築し、束の間のバカンスを楽しんでいる頃、フェロー王国王都にある悠斗邸宅前では、選挙管理委員会の密偵がロキの事を調べる為、張り込みをしていた。


 選挙管理委員会の仕事は、公正な選挙を執り行う事にある。

 今回は落選した評議員候補者より『Sランク商人としての活動実績がない』と当選無効を訴える異議申出が提出された事で、選挙管理委員会から調査の依頼を受けたが……正直言って気が乗らない。


 それは何故か……そんな事決まっている。

 異議申出が提出されたから一応調査を行うが、評議員選挙の出馬に必要な要件は、Sランク商人であるという事ただそれだけだ。


 そこに活動実績なんて関係ない。

 そもそも、Sランク商人として認められる為には、現役の評議員三名又は商業ギルドのギルドマスター三名以上からSランク商人となる為の承認を受けなければならない。

 評議員選挙に出たいから承認を得ました。

 なんてこと、普通の商人に出来る筈がない。

 もう一つは、これだ……。


 目の前に置かれたお弁当と飲み物に視線を向けると、俺はため息を吐いた。

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