評議員選挙②

「いい忘れておりましたが、評議員選挙には悠斗様の他に、私を含め三柱出馬する予定です」

「えっ、三柱っ?? なんだか人の数え方おかしくない? っていうか鎮守神も評議員選挙に出馬するの!?」

「はい。つい先程、私も悠斗様と同じくSランク商人のギルドカードを手に入れましたから」

「え、Sランク商人のギルドカードを!?」


 正直言って驚きだ。

 仮にも神様の一柱ともあろう者が商業ギルドのギルドカードを作るとは……。

 神様的に大丈夫なのだろうか。


 しかし、まだ分からない。

 評議員選挙は、その名の通り選挙だ。

 商業ギルドに所属するCランク以上の商人達の投票により、次代の評議員が決まる。

 ユートピア商会の従業員全員が投票してくれたからといって、四人(柱)に票が分散されては意味がない。


 俺がその事を指摘しようとすると、まるで俺の心でも読んだかの様に鎮守神が話し出す。


「ご安心下さい。私を含めた三柱は奴隷達の地盤を引き継いでおりますので、当選は確実。それに評議員の仕事は月に一度、又は臨時の会議に出席するだけの簡単なお仕事です。それに実際の業務は私達が管理致しますので、評議会の場では寝ていても、何でしたら読書をして頂いても構いません」

「え、ええっ……」


 いや、評議員になったのに会議の場で寝たり、読書をするのは駄目だろう。

 例え形式的な会議の場だとしても、それは投票してくれた方を裏切る行為だ。

 評議員になって仕事が増える事が嫌で嫌で仕方がない俺でさえ、もし万が一、当選したならば仕事はしっかりやろうと思っている。


 まあ、万が一、当選した場合に限るけど……。

 何とか落選する術はないものだろうか。


 俺が懸命に落選する方法について考えていると、屋敷神が鎮守神に話しかける。


「まあまあ、今その話は置いておきましょう。そう言えば、鎮守神にお土産を持ち帰りました」


 そういうと、屋敷神は影の中から、グッタリとした表情を浮かべているトゥルクさんと、ツカサさんを取り出し鎮守神の前に置く。


「ほう。現評議員と、ユニークスキル持ちの転移者ですか……これは、いいお土産を頂きました」


 すると、それを見た鎮守神は黒い笑みを浮かべる。

 一体、トゥルクさん達をどうするつもりなのだろうか……。

 というより、よくツカサさんの事をユニークスキル持ちだとわかったものだ。

 もしかして、Sランク冒険者であるツカサさんの事をリサーチでもしていたのだろうか。


「ふむ。この愚か者……現評議員という事だけあってLUK値と経営力だけはある様ですね。しかし、借金を抱えたままでは荷物にしかなりません。ここは顔を変えさせ、これからは別人として生きて頂く事に致しましょう。なに、借金の事は心配ありません。借金の帰属は顔を変える前のトゥルク本人に向かいます。トゥルクは借金返済の為にユートピア商会に負債以外の全ての資産を売り渡したかと思えば、その金を持って逃走。その後、トゥルクの死体が見つかり全ては闇の中……。そう言った筋書で物事を進めればよいのです。どの道、割りを食うのは、この愚か者に金を貸しているオーランド王国だけなのですから……」


 鎮守神がそう言うと、トゥルクさんはビクりと震え、怯えた表情を浮かべる。

 当然だ。鎮守神がトゥルクさんにしようとしている事は、強制的に顔や身分まで変えさせられた揚句、整形前のトゥルクさんを社会的に抹殺するというもの。


 怯えない方がおかしい。


「さて、この愚か者は、選挙が終わり次第、その全てを剥奪し、新しい人生を歩んで頂くとして、あとはもう一人の愚か者の処遇についてですね……」


 そういうと鎮守神は、ツカサさんに視線を向ける。


「悠斗様。この愚か者は、確かユニークスキルを持っているのでしたね」

「うん。ツカサさんは『精霊魔法』っていうユニークスキルを持っているよ」


 俺が鎮守神に向かってそう言うと、ツカサさんがとんでもない形相で睨みつけてきた。

 まるで『余計な事を言うんじゃない』とでも言わんばかりに、ギリギリと歯を鳴らし、縛られていなければ今すぐにでも噛みついてきそうな勢いだ。


「ほう。それは素晴らしい。では、そのユニークスキルは後ほど奪わせて頂くとしましょう。奴隷が持つには過分な力です」

「ふっ、ふざけるんじゃないですよっ!!」

「ほう……」


 鎮守神がそう言いながら、ツカサさんに冷たい視線を向けると、ツカサさんが縄を解き掴み掛かった。


「ぐっ……うっ!」


 しかし鎮守神に対してその対応は悪手だ。

 鎮守神は俺と違って容赦は一切しない。


「おやおや……困った奴隷ですね。躾がなっていないようで……前の飼主は随分と甘やかしていたようです」


 鎮守神はツカサさんの首を鷲掴みにすると、ギリギリ足のつま先が着くように持ち上げる。


「しかし、今の飼主は、昔の飼主とは違いますよ? 飼主に噛みつく様な奴隷には躾が必要ですね……」

「ぐっ……かっ、や、うあ……はな……やめっ……」

「さて、どの様な躾が効果的でしょうか……」


 鎮守神はそう言うと、ツカサさんの首を片手で持ちながら考え込む。

 そして、何かを思いついたのか、ツカサさんの首から手を放すと、鎮守神は黒い笑みを浮かべた。


「……ユニークスキルを奪った後は人形として……いえ、あなたにも人間のまま悠斗様の為に働いて頂く事に致しましょう。如何ですかな?」

「…………」


 しかし、ツカサさんからの返事はない。

 当然の事である。鎮守神の考え込む時間が長すぎて、ツカサさんは当の昔に、涎を垂らしながら気絶している。

 鎮守神はそれに気付かないのか、気付かない振りをしているのか問いかけを止める気配はない。


「どうしたのですか? もしかして、私が質問を問いかけているというのに寝てしまっているのですか? 奴隷の分際で、いい度胸をお持ちですね。飼主の質問に答えず眠り耽るとは……」

「…………」


 あれはワザとやっているのだろうか。

 それとも鎮守神が単純にSなだけなのだろうか。

 とても判断に困る所だ。

 気絶をしているツカサさんに返答を求める鎮守神の姿に、どう反応すればいいのか困ってしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る