評議員選挙③

「まあいいでしょう。それでは、夢の世界に浸りながら聞きなさい。あなたの持つユニークスキル『精霊魔法』は奴隷であるあなたにとって過ぎたユニークスキルですので取り上げさせて頂きます。また、あなたには人形ではなく、人間としてユートピア商会の為に働いて頂きます。人間の駒が足りていない所でしたし丁度良い。あなたには馬車馬の様に働いて頂きますよ。よろしいですね?」


 鎮守神がそう言うと、気絶している筈のツカサさんが首を縦に振った。

 多分、偶々、頭が前に倒れたのだろう。


 それを了承したと捉えた鎮守神は、満足気な笑みを浮かべる。


 そしてトゥルクさん達に『奴隷の首輪』を嵌めると、人形達に別室へと運ばれていった。


 もうやっている事がヤクザかマフィアのそれだ。

 鎮守神が敵側にいなくて本当によかった。


 そんな事を考えていると、鎮守神がこちらに顔を向けてくる。


「さて、悠斗様。これからの事について話を詰めたいのですが、今、お時間はよろしいでしょうか?」

「えっ? うん。勿論、大丈夫だけど……」

「そうですか、それはよかった。ではまず、トゥルクを除く奴隷となった三人の評議員の処遇についてですが……あの者達は特別性の『奴隷の首輪』と監視を付け、一度、あの者達の経営する商会へと戻したいと思います」

「えっ?」


 鎮守神にしては珍しい判断だ。

 もっと厳しい裁定を下すと思っていた。


「偶然とはいえ、一度は評議員の地位にいた者達ですからね。LUK値が通常より高く、経営判断を下す力もある程度は持ち合わせている様ですので、今後はユートピア商会の傘下グループの一員として働いて貰おうと考えております」


 なるほど、確かにその方が良さそうだ。


「また、その際、監視役としてユートピア商会の従業員を複数名送り込みたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」

「うん。構わないけど、送り込む従業員の意向は最大限、叶えて上げる様にしてね」


 流石に、ユートピア商会で働く従業員達を慣れない職場で働かせるのは気が引ける。


「はい。ありがとうございます。それでは、その様に話を進めさせて頂きたいと思います。それでは次に、評議員選挙についてです。先程、報告致しました通り、悠斗様にはユートピア商会の代表として、評議員選挙に出馬して頂きます」

「えっと、やっぱりそれ、でなきゃダメかな?」


 正直言って不安だ。

 鎮守神はともかく、俺みたいな経営のけの字も知らない若造が、国の運営に参画して大丈夫だろうか?

 自分で言うのもなんだけど、どう考えても不適格。評議員になるべき人は、他にも色々いると思う。


「はい。必ず出馬して頂きます。というよりも、既に商業ギルドを経由して立候補に必要な届け出を提出してありますので、途中辞退は許されません。というより私が許しません」

「えっ、途中辞退許されないの!?」


 俺がそう言うと、鎮守神はため息を吐く。


「いいですか。そもそも、ユートピア商会はフェロー王国を代表する巨大商会です。それに現評議員四名を傘下に置くのですよ? その商会の会頭たる悠斗様が評議員選挙に出馬しなくてどうするのです」

「ま、まあ、そうかもしれないけど……」


 でもそんな話、この国に来るまでなかったじゃん。

 元々は、偽足場が出回っているという話を聞いて、この国に来た訳で、評議員選挙に出馬するつもりでこの国に来た訳ではない。


 俺は心の中でそう愚痴を零す。


「それに、あの様な愚か者達にでも商人連合国アキンドという大きな国を回す事ができるのです。悠斗様のサポートは我々が万全に行いますし、問題はありません。それに悠斗様は自分の事を過小評価している様ですが、神と教会を味方に付け、複数の迷宮核を保有し王族にも傀儡がいる。長年この世界の事を見てきましたが、そんな人間、悠斗様以外に見た事がありません」

「そ、そう?」


 確かに客観的に聞いて見ると、結構凄いのではないかと思えてくる。

 でもシェトランドの事を傀儡扱いするのは止めてほしい。


「はい。その通りです。もっと自信を持って下さい。それでは、悠斗様の了承を得られた所で、こちらが今回、評議員選挙に出馬予定の候補者達でございます」

「う、うん。ありがとう」


 鎮守神はそう言うと、評議員選挙に出馬予定の候補者名簿を渡してきた。

 候補者名簿に目を通すと、現評議員の名前や、奴隷商人のハメッドさんの名前まである。

 でも……。


「ねえ、トゥルクさん達の名前が名簿に載ってないんだけどどうしたの?」


 そう。その名簿にはトゥルクさんを初めとする四名の現評議員の名前が載っていなかった。

 俺が不思議な表情を浮かべていると、鎮守神が口を開いた。


「ああ、あの者達の出馬はこの私が取り下げました。奴隷に評議員としての地位を与えるのは勿体ないですから……ああ、しかしご安心下さい。奴隷達の票は全て我々に流れてきますので……」

「そ、そうなんだ……」


 まさか、そんな事をしているとは思いもしなかった。

 しかしこれでは……。


「でも、これって選挙の意味があるの? 俺達を含めて十人しか立候補してないし、ユートピア商会の従業員達の票と、トゥルクさん達の票が俺達に流れるなら評議員選挙に出馬したと同時に当確したも同然じゃない」

「確かにその通りですね。しかし、意味はあります。何せ、もっとも得票数が多かった者に『代表』の名を冠するポストが与えられるのですから……」

「なるほど……」


 得票数の多い者に『代表』の地位を与えるのか。

 それならば納得だ。


「それに『代表』を冠するポストを取れなかったとしても問題はございません。何せ、こちらにはロキがおりますから……」

「ああ、やっぱり……」


 どうやら見間違いではなかった様だ。

 候補者名簿に記載されている名前。そこには何故か、俺の知っている神様の名前が載っていた。

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