遭遇(sideトゥルク)②
「ツカサ……あなた、マデイラに召喚された転移者だったわよね?」
「トゥルク様の顔、大変な事になっていますね~顔が真っ赤で般若みたいな顔していますよ~?」
「いいからっ、私の質問に答えなさいっ!」
この女、よくこの私の顔を見ておちょくる事ができたものだ。
私が怒りの形相を浮かべながら声を上げると、ツカサはビクリと身体を震わせる。
そして「キレたトゥルク様は怖いなぁ~」と呟くと、佐藤悠斗に視線を向けながら、笑顔を浮かべた。
「そうですよ~私はそこにいる悠斗君と同様、マデイラ王国のクソ国王によって召喚された転移者ですよ?だよね~悠斗君」
「えっ? ああ、そうですね~」
ツカサはそう言うと佐藤悠斗に笑顔を向けながら手を振った。佐藤悠斗もそれにつられて手を振りかえしているが、今はそんな事どうでもいい。
いや、どうでも良くはないか。
というよりも……私を借金地獄に陥れた奴なんかに手を振っているんじゃないわよっ!
あなたは私の護衛でしょうが!
私が怒りを抱いている対象と馴れ馴れしくしないでよっ!
……とはいえ、ここでツカサの機嫌を損ねても何もならない。私は深く息を吸い込み深呼吸を繰り返す。
深呼吸を繰り返していると、途中、何故か、佐藤悠斗が『ああ、この人も苦労しているんだな……』とでも言いたげな、そんな不快な視線を向けてきた。
非常に不愉快である。
怒りのあまり、途中から深呼吸が過呼吸になってしまい、気持ちがかなり削がれたが、そんな事もどうでもいい。私は何とか気持ちを落ち着かせると、ツカサに声をかけた。
「あなた冒険者歴が長かったわよね? あなたのユニークスキルがあれば、彼を……Sランク冒険者である佐藤悠斗を倒す事ができるんじゃないかしら?」
「えっ? 私、悠斗君と闘うんですか?」
他に誰が佐藤悠斗と闘うと?
まさか、この私に闘えとでもいうのだろうか。
「ええ、その通りよ。勿論、報酬は弾むわ」
私がコクリと首を前に傾けると、ツカサは心の底から面倒臭そうな、そんな表情を浮かべた。
「でも私、悠斗君には聞きたい事があるし、何より同郷だし? あまり闘いたくはないな~」
「あなたね……」
この女は……今の状況を理解しているのだろうか。眠たげなその目をよく開き前を見てほしい。
今、私達の目の前には、ユートピア商会の会頭、佐藤悠斗がいるんだよ!
何故、今このタイミングで佐藤悠斗が私の目の前に現れたのか、そんな事は決まっている。
こいつは私の資産の大半を掠め取り、追加で白金貨六百万枚を奪い去った揚句、それだけではまだ足りないと……どこで知ったのかは分からないが、目敏くも私の持つ最後の資産、白金貨二百万枚に目を付けやってきたに決まっている。
先刻までは、例え佐藤悠斗が目の前にいたとしても、プライドを捨て地面に這いつくばり、謝り倒せば、白金貨二百万枚を持ったまま、セカンドライフを送る事ができると錯覚していた。
だがしかし、私は気付いたのだ。
こいつは……佐藤悠斗は鬼畜外道の側にいる悪魔なのだと……!
こいつは私が……Sランク商人にして商人連合国アキンドの評議員であるこの私が、その地位の全てを投げ出し、セカンドライフ資金である白金貨二百万枚を守る為にプライドまで捨て去り地面に這いつくばった所で、一度敵対した者の事を絶対に赦さない男だ。
地面に這いつくばり、誠心誠意謝った所で、それでもまだ足りないと足蹴にするに決まっている。
そして、散々、私の事を足蹴にした後、耳元でこう呟くのだ。『誠意が足りない、その魔法の鞄の中には、白金貨二百万枚が収められているだろう』と……。
少なくとも私が相手を追い詰める時は必ずそうする。
佐藤悠斗はSランク商人にして、Sランク冒険者。
非力な私でさえ、そうなのだ。力を持った佐藤悠斗がそういう行動に出ない理由がない。
私は悔しげな表情を浮かべながら、佐藤悠斗を睨みつける。
私の表情を見た佐藤悠斗は、ギョッとした表情を浮かべているが、私は騙されない。
何故なら、その背後で老齢の執事がこんな事は日常茶飯事とでも言わんばかりに、落ち着いた表情をしているからだ。
身の回りのお世話をする執事を見れば、その者がどんな環境で生きてきたのか垣間見る事ができる。
そう身の回りの世話をする執事は、主人を映す鏡といっても過言ではない。
あの執事の落ち着き様……間違いない。
こいつは、佐藤悠斗はこういった状況に慣れている。
「ツカサ、あなたは分かっていないようね。よく考えて見なさい。佐藤悠斗が何故、商業ギルドに現れたのか……その理由を」
「理由ですか~? そこにいる執事さんがさっき白金貨六百万枚を預けに来たと言っていたじゃありませんか」
ツカサ・ダズノットワーク……。
彼女は本当にSランク冒険者なのだろうか?
全然、危機察知能力がまるで足りていない。
いや、もしかしたらユニークスキルが強力過ぎて、危機感というものが鈍ってしまったのかもしれない。全くもって困ったものだ。
私はため息を吐くと、ツカサに対して諭す様に呟いた。
「それは違うわ。佐藤悠斗の目的はただ一つ。私の持つ白金貨二百万枚を奪いに来たのよ」
私がそう呟くと、佐藤悠斗の隣に立つ執事がそっと笑みを浮かべた。
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