遭遇(sideトゥルク)③
「やはりね……」
佐藤悠斗の隣に立つ執事が笑う瞬間を目撃した私は、その瞬間、全てを悟った。
ああ、私の考えは間違いなかったのだと……。
執事が笑う瞬間、それを見たツカサもここにきて漸く今、私達が置かれている状況を理解した様だ。
ツカサに視線を向けると、さっきまでの朗らかな雰囲気は何処に行ったのか、Sランク冒険者として、私の護衛として相応しい緊張感を帯びた表情を浮かべている。
腐ってもSランク冒険者、いつも働かないとぐだっているが、やる時はやる女らしい。
「あなたも今置かれた状況をようやく分かってくれた様ね……その上でもう一度だけ聞くわ。あなたのユニークスキルがあれば、彼を……Sランク冒険者である佐藤悠斗を倒す事ができるかしら?」
私がそう問いかけると、ツカサは少し考える様な素振りを見せる。
「う~ん。この世界に召喚されて十年、私より強い人間に遭った事がありませんが、転移者の力は侮れませんからね~まあ、問題ないでしょう。でも、この私に労働を強要するんです。追加報酬は弾んで貰いますよ~」
佐藤悠斗を倒す事ができるのであれば問題ない。
むしろ、必要経費とすらいえる。
「ええ、問題ないわ」
今後の平穏の為にも、私に不幸を運ぶ佐藤悠斗はこの場で殺しておく必要がある。
それに佐藤悠斗は今、商業ギルドに白金貨六百万枚を預けに来たと言っていた。
つまり白金貨六百万枚を収納系の魔道具に収め所持しているという事に他ならない。
どの道、佐藤悠斗を殺さない限り、私に平穏は訪れない訳だし、もしツカサが佐藤悠斗を倒し、白金貨六百万枚を取り返す事ができれば、何も評議員の地位を捨てて逃亡する必要もなくなる。
つまり私に残された選択肢は、全てを失うか、全てを取り戻すのかの二択。
そう考えた私は、即座に行動に移す事にした。
「ツカサ、佐藤悠斗とそこの執事ごと、私達を転移させるのよ! あなたにとって有利な場所に転移しなさい!」
「転移ですか~わかりました。それじゃあ、行きますよ~?」
ツカサがそう呟くと、私達の足元が黒く染まる。
そして、一瞬、浮遊感を感じたかと思えば、次の瞬間には、商業ギルドから場所を変え、まるで迷宮の中にある様な草原へと転移した。
「こ、ここは……」
佐藤悠斗もツカサの使う転移魔法に驚きの表情を浮かべている。白金貨六百万枚を預けに商業ギルドに来たというのに、次の瞬間には草原に転移するとは思いもしなかったのだろう。
背後で控えている執事の顔色に全く変化がないのは気になるが……まあ、主人である佐藤悠斗に不安な思いをさせぬ様、必死に平静を保っているのだろう。健気な事だ。
私は闘いに巻き込まれない様に、ツカサ達から距離を取ると、佐藤悠斗に向かって思いの丈をぶちまけた。
「佐藤悠斗! これまでよくも……よくもやってくれたわねっ! あんたのせいで私は破滅よっ! 私の大切な白金貨六百万枚を掠め取った挙句、泡銭扱いしてっ! 舐めた態度を取るにしても限度ってものがあるでしょ! いい加減にしなさいよっ! どうせバルトの独断専行を私がやったと勘違いしているんでしょうけどね、もう限界よっ! あんたが生きている以上、どの道私の人生に平穏は訪れないわ……ツカサ! あのクソガキを倒すのよっ。そして白金貨六百万枚を取り返しなさい! 報酬として白金貨十万枚を約束するわ!」
「おお~白金貨十万枚ですか! トゥルク様にしては大盤振る舞いですね~。でも私、お金よりも欲しいものがあるんですよね~」
ツカサはそう言うと、佐藤悠斗に視線を向けた。
その獰猛な視線は働かない事を公言しているツカサ・ダズノットワークとは思えない。
まるで別人の様である。
「欲しいもの?」
それにしても白金貨十万枚より欲しいものがあるとは……。
ツカサのいう欲しいものとは一体なんだろうか?
「私、そこにいる悠斗君が欲しいんですよ~。ほらっ、彼がいれば私が聞きたい話が聞けるだろうし、奴隷にすればユートピア商会も付いてくるんでしょ? 白金貨十万枚より、とってもお得じゃないですかぁ~」
「え、ええ……」
「大丈夫、大丈夫。安心して下さい。佐藤悠斗を奴隷にしたら、彼の持つ白金貨六百万枚はトゥルク様に返却しますから、それならいいでしょ~?」
「な、なるほど……」
青天の霹靂とはまさにこの事か……。
まさか私にとっての疫病神、佐藤悠斗を殺そうとは思っても、奴隷にしようとは思いもしなかった。
しかし、言われてみればその通りかもしれない。
ユートピア商会を経営し、教会とも太いパイプのある佐藤悠斗を奴隷に落とし飼い殺しにする。
佐藤悠斗も圧倒的な力を持つツカサの管理下に置けば、制御する事は容易な筈……。
それに教会と太いパイプを持つ佐藤悠斗を奴隷化する事ができれば、オーランド王国の女王フィン様の悩みまで解決する。白金貨六百万枚も戻ってくるし万々歳だ。
「いいでしょう。どの道、私に後はないの、全てあなたに任せるわ!」
私がそう言うと、ツカサは深い笑みを浮かべた。
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