遭遇
屋敷神と話をする事、十数分。
ショッピングモールや王都の現状について屋敷神から報告を受けていると、扉を開け鎮守神が部屋の中に入ってきた。
どうやら馬車の準備が整った様だ。
「悠斗様、馬車の準備が整いました」
「うん。ありがとう」
俺がそう返事をすると、鎮守神は屋敷神に視線を向ける。
「それでは、屋敷神。悠斗様の事をお願いします」
「はい。悠斗様の事はお任せ下さい。それでは、悠斗様。商業ギルドへと参りましょう」
「うん。そうだね」
俺は屋敷神に差し出された手を取ると、椅子から立ち上がる。そして、馬車の止めてある店の前まで歩いていくと、とんでもないスピードで爆走する馬車が目の前の道を通り過ぎた。
「あ、危なっ!」
爆走する馬車から『ハイヨ―シルバー!』という言葉が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。ああれは『飛ばねぇ豚はただの豚だ』で有名なスタジオゾブリのライバル役が口にしていた言葉だ。
馬車を爆走させながら口にする様な言葉ではない。
それにしても……。
「あの馬車、あんなに速度を出して大丈夫なのかな?」
「全くですね。危険を省みず、あんな速度で走らせるとは……交通ルールを守らない方に馬車を操縦する資格はありません」
「そうだよね……」
元の世界では、馬車は自転車と同じ軽車両扱いとなっていた筈だ。
この世界に道路交通法があるかはわからないけど、少なくともあのスピードで道を爆走するのは頂けない。
「それじゃあ、俺達は安全運転で商業ギルドに向かおうか……」
「はい。馬車の操縦は任せて下さい」
「よろしくね」
そういうと、俺は馬車に乗り込んでいく。
「それでは悠斗様、出発致します」
「うん」
商業ギルドに向けて走る馬車の中から外を眺めると、至る所に『評議員選挙開催』といった垂れ幕や、マスカットさんを初めとした現評議員の似顔絵が貼り出されているのが見えた。
「そっか、もう評議員選挙、始まっているんだ……」
商人連合国アキンドの評議員の席は八つ。
現在は、マスカットさんを始めとする七人のSランク商人が評議員の席に座っている。
実質上のトップ、代表評議員:バグダッド
ギルド運営を担う、執行担当評議員:リマ(現在、トゥルクが兼任)
ギルド内の情報や各国の内情について調べる、情報担当評議員:トゥルク
ギルドの価値を最大限高める、知識担当評議員:カーリナ
ギルドの財務を担う、財務担当評議員:クレディスイス
ギルドの長期的な戦略を担う戦略担当評議員:ナーンタリ
ギルド内の商品開発、統制を担う、技術担当評議員:ライシオ
その全てを監査する、監査担当評議員:マスカット
それぞれの席に役割があり、それを代表評議員が統括する事で商人連合国アキンドの運営、商業ギルドの方針を決定している訳だが、現在、この内、知識担当評議員であるカーリナさん、戦略担当評議員であるナーンタリさん、技術担当評議員であるライシオさんが鎮守神の手の内にあり、情報兼執行担当評議員であるトゥルクさんに至っては鎮守神達によるカジノ襲撃(LUK値の高い神と天使がカジノを楽しむ行為)を受け財政的に致命的なダメージを負っている。
この国、大丈夫だろうか?
現評議員の内、三人が奴隷堕ちしており、返しきれない程の負債を抱えている。
それにSランク商人になっている人は、この世界でも十余人といない。万が一、この三人が評議員選挙に出ないとなると、定員割れもありえる。
いや、もしかしたら鎮守神はそこまで見越した上で、あの三人を捕えたのかもしれない。
Sランク商人になる為のハードルは厳しい。
Sランク商人になる為には、年商百億以上を稼ぎ評議員三名又はギルドマスター三名以上の承認を受ける必要がある。
そして、評議員選挙は、Sランク商人しか立候補する事ができない。
現評議員の内、三人を捕らえ、トゥルクさんが評議員選挙にでないとすれば、あと二人分の評議員席を押さえるだけで実質的にこの国を乗っ取ったも同然の状況における。
それに現評議員三名の身柄を押さえておけば、ユートピア商会の従業員の中から好きな者を、Sランク商人にする事ができる。
ユートピア商会で働く従業員の大半はCランク商人だし、圧倒的な投票数で新たな評議員を誕生させる事も可能だろう。
それに情報担当の評議員になれば、商人連合国アキンドの情報網を利用して様々な情報を集める事もできる。
万が一、代表評議員、監査担当評議員の立場を手に入れる事ができれば、この国の支配だって可能だ。
「あれっ? もしかして商人連合国アキンドって、俺が思っていたより簡単に支配できる?」
ヤバい事に気付いてしまった。
俺が気付いているんだ。当然、鎮守神もその事に気付いているだろう。
もしかして、鎮守神……本気で商人連合国アキンドを支配するつもりじゃ……。
そんな事に頭を悩ませていると、馬車が静かに減速していく。どうやら商業ギルドに着いた様だ。
馬車を道端に寄せると、屋敷神が扉を開け話しかけてきた。
「悠斗様、商業ギルドに到着致しました」
「うん。ありがとう」
俺は屋敷神の手を借りて馬車を降りていく。
そして、商業ギルドの中に入る為、扉に手をかけると、ゆっくりと扉が開いていく。
するとそこには、驚きの表情を浮かべたトゥルクさんの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます