元バルト商会での一幕③

 まあ起こってしまった事は仕方がない。

 それに事の始まりはトゥルクさんが、ユートピア商会の評判を下げ倒産に追い込もうとしていた事にある。


 やったらやり返される。

 今回の一件は、マシュマロ一つぶつけたら、マグナムで眉間を撃ち抜かれた位、やり返し方が過激だったけど、これについては仕方がない。相手が悪かっただけだ。


 それに折角、鎮守神達がカジノ賭博で稼いで来てくれたんだ。

 トゥルクさんには悪いけど鎮守神から受け取った白金貨は、ユートピア商会の為に使わせて貰おう。


 俺は目を閉じると、心の中でトゥルクさんに合掌した。


 運転資金を失い、もう評議員選挙どころじゃないだろうけど、こんな事でめげずトゥルクさんには強く生きて欲しい。


 トゥルクさんに向け心の底から冥福をお祈りした俺はが顔を前に向けると、怪訝そうな表情を浮かべた鎮守神の姿が目に映る。


「鎮守神、どうかしたの?」

「いえ……トゥルクの見張りにつけていた人形が何者かにより破壊されました」

「えっ? トゥルクさんに見張りをつけていたの?」


 それに人形が何者かに破壊されたって……鎮守神、そんな事まで分かるんだ。


「はい。トゥルク傘下の者を人形化し、監視につけていたのですが、どうやら破壊されてしまった様です」

「そ、そうなんだ……」


 人形って元は人間だった様な気がするんだけど。


 俺は目を閉じると、深く息を吸い深呼吸をする。

 今日だけで何度、深呼吸をしたか分からない。


 もうあれだ。

 そろそろ、新しいストレス発散方法を考えてみた方がいいかもしれない。

 流石に深呼吸だけでストレスを解消するには限界がある。


「とはいえ、トゥルクにつけている人形はまだまだ沢山おります……おや?」

「どうかしたの?」

「いえ、大した事ではございません。大した事ではございませんが……やはり回収するべきでしょうね……悠斗様、申し訳ございませんが、少しお使いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「えっ、お使い? 別に良いけど……」

「ありがとうございます。それではこれから屋敷神と共に商業ギルドに向かって頂けますか?」

「うん。それで商業ギルドには何をしに行けばいいの?」


 それに『回収するべき』とは、一体何の事を言っているのだろうか?


「ふむ。そうですね……先程渡しました白金貨六百万枚を悠斗様のギルドカードに預けてきて頂きたいのが一つ。もう一つは取立でしょうか?」

「えっ? 今、なんて言ったの? 取立てとか言わなかった?」


 取立てとはなんとも物騒な……。

 平和な世界を生きてきた俺にとって、全く馴染みのないパワーワードが出てきたものだ。


 生まれてこの方、取立てなんてした事は一度たりともない。

 まあカツアゲされた事はあるけれども……。


 それより大丈夫だろうか。

 俺はただ鎮守神に商業ギルドに行く理由について尋ねただけだったんだけど、その言い方だと、何か裏がある様にしか聞こえない。


「まあ、屋敷神もついておりますし、問題はないでしょう。取立て云々の事は屋敷神に任せ、悠斗様はその付き添いとして商業ギルドに向かって頂けると助かります」

「えっ? 俺が付き添いなの?? 普通逆じゃない?」

「悠斗様のいう普通が何を指しているのか分りませんが……少なくとも悠斗様は既に普通ではありませんよ?」

「そ、そう?」


 言われてみれば、この世界では十五歳を以って成人扱いされている。

 しかし、主人に付き添う執事なら分かるが、執事に付き添う主人なんて聞いた事がない

 これは……俺がおかしいのだろうか??


 なんだかよく分からなくなってきた。

 とはいえ、白金貨六百万枚を商業ギルドに預け入れるのは賛成だ。

 商業ギルドに預け入れておけば、ユートピア商会の運営を任せている屋敷神や土地神も必要な時に必要な資金を引き出す事ができる。


「ま、まあいいや……。それじゃあ、鎮守神の言う通り商業ギルドに向かおうか」

「はい。それでは、馬車を用意して参ります。悠斗様はこのまま、もう少々お待ち下さいませ」

「えっ? このまま待つの?」

「はい。馬車が用意できるまでの辛抱です。もう少々お待ち下さい」


 鎮守神はそういうと、椅子に座る俺と屋敷神を残し部屋から出て行った。


「ま、マジでか……」


 いつも馬車なんて使ってないのに、何で今日に限って、いや、別に椅子に座っているだけだし、別にいいんだけど。


「ねえ。屋敷神、そういえば、ショッピングモールの運営はどんな感じ?」


 俺がそう屋敷神に話を振ると、屋敷神は笑顔を浮かべる。


「はい。多少の問題事はありましたが、ショッピングモール運営は概ね順調に運営しております」

「えっ? 問題事があったの?」

「はい。実はショッピングモール造立の事を知らなかったフェロー王国側の人間が、開店初日に押し掛けてきまして……しかし、ご安心下さい。その件につきましては、既に対処済みです。悠斗様の傀儡、シェトランド陛下が上手く話を治めて下さいました。流石は悠斗様です。何故、あの様な者と友達宣言をしたのか理解できずにおりましたが、全てはこの為だったのですね」

「えっ?」


 いや、違いますけど……。

 俺、そんな感じでシェトランドと友達になった訳じゃ……。


「シェトランド陛下のお蔭で、ショッピングモール運営は順調そのもの、正直言って、あまり良い感情を持ち合わせていませんでしたが、あれだけ悠斗様の為に動いて下さるというのであれば、その考えを見直す必要がありそうです」

「そ、そう。まあ、シェトランドは良い友達であって傀儡とかじゃないけどね……」


 まさか、屋敷神がシェトランドの事を俺の友達ではなく傀儡だと思っていたとは思いもしなかった。

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