ツカサ・ダズノットワーク①

 部下がツカサを呼びに行ったのを確認すると、私は荷物を『魔法の鞄』に収めていく。

 勿論、部屋に置いてある金目の物全てを収納する事も忘れない。


 そして、夜逃げの準備を万全に整えると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


『トゥルク様、ツカサ様をお連れしました』


 どうやら部下が私専属のSランク冒険者ツカサ・ダズノットワークを連れてきた様だ。


「ええ、入って頂戴」


 私がそう言うと、部下と共に私専属のSランク冒険者ツカサ・ダズノットワークが部屋に入ってくる。


「呼びましたか~? トゥルク様ぁ?」

「ええ、あなたを呼んだのは他でもない。私の護衛をして貰う為よ。当然、問題ないわよね?」


 私がそう言うと、ツカサは欠伸をしながら呟く。


「ふわぁ、もちろん問題ないですよ~? でも私が護衛で本当にいいんですか~? 私、適度にサボりますよ~?」

「ええ、問題無いわ。あなたの持つユニークスキルさえあれば、万が一にも、私が害される様な事はないもの。ねえ、そうでしょう?」

「私の力を過信されても困りますけど、まあそうですね~多分、私に敵う人なんて、そういないでしょうしね~」


 ツカサはそう言うと、眠たそうな表情を浮かべる。


 どこまでも自由な奴だ。専属契約を結んでいるというのに、私に対してこの対応、しかし、実力が確かであれば問題ない。


「そう。それじゃあ、私の護衛、よろしくね」

「もちろんですよ~お金は前払いで貰っていますし……それじゃあ、護衛任務を承った事ですし、まずはそこにいるモノから片付けましょうかぁ」

「えっ?」


 ツカサはそう言うと、窓際へと視線を向ける。

 すると、カーテンの影から数体の人形が現れた。


「に、人形!? いえ、モンスター!?」


 数体の人形は、まるで『バレちゃあしょうがない』と言わんばかりに首を振ると、ナイフを持ち私達に向かってくる。

 突然の事に驚きの表情を浮かべると、ツカサに向かって視線を向けた。


「ち、ちょっと、あれは一体何なのよっ! なんとかしなさいよっ!」


 私がそう叫ぶと、ツカサはのんびりとした表情を浮かべながら、部屋の中にいるナニカに向かって声をかける。


「大丈夫ですよ、トゥルク様。それじゃあ、。お願いね?」


 ツカサがそう呟くと、人形が突然震え出し、動きを止める。

 そして次の瞬間には、火に包まれ爆散してしまう。


「はい、これで当分の間、心配ないよ~。トゥルク様を付け狙うモノは爆散させたからね~」

「あ、ありがとう……」


 あの人形が何なのかは、よく分からないが、ツカサが爆散させた事から危険な物なのだろう。


「それじゃあ、私はもう帰ってもいい~?」

「いや、あなたは一体何を言っているの……」


 いや、本当に自由過ぎるだろ。

 さっき護衛任務を依頼した際『もちろんですよ~』とか言ってなかった?


「当然、駄目よ。私はこれから商業ギルドに行かなければならないの」


 私がそう言うと、ツカサはギョッとした表情を浮かべた。


「えっ~? トゥルク様には護衛の精霊を複数付けているし、戦力的には全然問題ないじゃないですかぁ~。私、必要~?」


 ツカサのその言葉に私は頭を抱える。

 複数の精霊を付けたからといって、その精霊が私の命令を聞いてくれる訳ではない。


 それに今、私に欲しいのは、ツカサという戦力とSランク冒険者という肩書き。

 そして、安全な場所まで私を運んでくれるという安心感だ。

 着いて来て貰わねば困る。


「当然よ。さあ着いてきなさい」


 私がそう言うと、ツカサが渋々ながら返事をしてくる。


「仕方がないですね~。分かりました。分かりましたよ~」


 ツカサはそう言うと、自分の身体を浮かび上がらせる。そして、どこからともなく取り出したクッションに身を任せると、フワフワ浮かびながら私についてくる。


 毎回思う事だが、一体どうやったらそんな事ができるのだろうか?


 クッションに身を任せ浮かぶその姿は完全に弛れていて、護衛感は全くない。

 しかし、これがSランク冒険者ツカサ・ダズノットワークの平常運転。

 彼女の持つユニークスキル『精霊魔法』は、ツカサ本人がどんなにダラけていても、護衛対象を放置していようとも、精霊達が百パーセント任務を完遂させる。


「商業ギルドには馬車に乗っていくから、あなたも乗るの……」

「馬車に乗って行くの~?」


 私が商業ギルドには馬車に乗って向かう旨を伝えようとすると、ツカサは何故か、私の話を遮ってきた。


「ええ、そうよ」

「やったぁ~! じゃあ、私に馬車の操縦させて~」

「えっ? あなたそんな事もできるの?」

「もちろんですよ~。私が一体何年、冒険者をやっていると思っているんですかぁ~」


 正直意外だ。

 普段、ダラけた姿しか見ていないから『精霊魔法』以外に取り柄がないのだと思っていた。

 しかし、オーランド王国の女王、フィン様から振り込まれる土地の代金を掠め取り、夜逃げをしようとしている私からすれば好都合。

 最悪の場合、私が馬車の操縦をしようと思っていた位だ。


「そう。それじゃあ、お願いしようかしら?」

「ふふふっ。私、馬車の操縦上手いんだよ~」


 ツカサはそう言うとクッションをしまい、馬車の御者台に乗り込むと馬に視線を向けて笑顔を浮かべる。そして、私が馬車に乗ったのを確認すると、ツカサは『ハイヨー! シルバー!』と謎の掛け声を呟き商業ギルドに向けて馬車を走らせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る