ツカサ・ダズノットワーク②
Sランク冒険者、ツカサ・ダズノットワークが操縦する馬車は、意外な事に乗り心地が良く、馬車特有のお尻を打つ振動が全くない。一体どんな操縦をすれば、そんな事ができるのだろう。
これも彼女の持つユニークスキル『精霊魔法』の力なのだろうか??
いや、そんな事よりも今はギルドカードの権限を変更し、私以外にフィン様から受け取る予定の土地代を引き出せなくする事の方が肝要だ。できれば、私が商業ギルドで権限変更をしている最中に、フィン様から土地代の支払いがあれば尚良い。
それに、その土地代を引き出す事ができなければ、夜逃げの完遂は不可能。
全ての責任を取らされた挙句、借金奴隷として売られてしまう。
というより、私がやらかした訳でもないのに、なんで私が全ての責任と負債を負わされなければいけないのだろうか。納得がいかない。
今回の件で、責任を取るべきはバルトの奴であって私ではないだろう。
私は憤然とした気持ちでこれまでの事を思い返していると、馬車の操縦をしているツカサが私に声をかけてくる。
「トゥルク様ぁ~商業ギルドに着きましたよ~」
「えっ!?」
どうやらもう商業ギルドに着いたらしい。
私は馬車から降りると、ツカサに視線を向ける。
「あなたも着いてきて頂戴」
「は~い。分かりましたよ~。そういえば、トゥルク様を害そうとする輩がいた場合、どう対応すればいい~? 私の好きな様にやらせて貰ってもいいのぉ~?」
私を害そうとする輩ねぇ。
「あなたの好きにしなさい。まあ、この国において、評議員である私の事を害そうとする者がいるとは思えないけどね」
「へぇ~そうですか、それじゃあ私の好きな様にやらせて貰いますね?」
私がそう言うと、ツカサは笑みを浮かべる。
「それじゃあ、私が先導します。トゥルク様は私から離れない様、しっかり着いてきて下さい」
「ええ、お願いするわ」
「それじゃあ、頼も~!」
そう言いながら商業ギルドの扉を開けると、ギルド員と商人達の視線が突き刺さる。
ハッキリ言って目立ち過ぎだ。
どこの世界に『頼も~!』と言いながら扉を開ける人がいるのだろうか?
今まで生きてきて初めて見た。正直、先導を任せた事を後悔している。
しかし、当の本人はその事に対して全く気にかけた様子はない。笑顔を浮かべたまま慣れた手付きで、受付の番号札を受け取ると、それを私に持ってくる。
「さあさあ、トゥルク様。受付の番号札をお持ちしました。受付に呼ばれるまでの間、そこのソファーで待ちましょう」
「ええ、そうね」
普通の商業ギルドであれば、評議員である私を待たせるなんて以ての外、本来であれば、個室又はギルドマスターの部屋で優先的に対応して貰うのが普通だ。
しかし、この商業ギルドは公正を是とする代表評議員、バグダッドの管轄。評議員も他の商人と同様に扱われる。優先的地位の濫用は許されない。
仕方がなく、ソファーのある場所まで歩くと、一人の男が私の足元に、足を忍ばせてきた。
それに気付いた私は立ち止まり、男を睨み付ける。
「その足は何かしら? まさか、この私を転ばそうなんて考えちゃいないわよね?」
「ああ、すまね~な。トゥルク様よ。お前さんの顔を見たら勝手に足が出ちまった。悪いね。でも仕方がないだろう? お前は偽足場を俺の現場に混入させたんだからよ。つーか、俺に対して詫びの一つもないのかい?」
「はあっ?」
私はため息を吐くと、ツカサに視線を向ける。
まさか、そんな事で評議員である私に絡んでくる馬鹿がいるとは思わなかった。
「お兄さん。その足、除けた方が身の為だよ~?」
「あっ? なんでテメェに指図されなきゃならねーんだ? ソファーに座りたければ座ればいいじゃねーか。まあ俺様が邪魔をするかもしれねーけどな」
ツカサがそう忠告するも、男は足を除けない。
馬鹿な奴だ。
「そうかぁ~。忠告はしたよ? それじゃあ、遠慮なくソファーに座らせて貰うとするね? でもその前に……」
「ああっ? 何を……ま、待てっ! な、何をする気だっ! お、俺様に手を出してタダで済むと思っ……」
ツカサがそう言いながら、男の脛に足を乗せると、男は途端に怯えた表情を浮かべた。
「タダで済むに決まっているじゃん? 私はちゃんと警告したんだからさぁ~」
「や、やめっ!」
そして、ツカサが足に力を入れると、男の叫びと共に『ボキリ』という音が商業ギルド内に鳴り響いた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
商人達の集う、商業ギルドで鳴り響いていい音ではない。
まさか、ちょっと嫌がらせをした位で、こんな事になると思っていなかったのだろう。
男は、ツカサによりくの字に曲げられてしまった足を抱えると、脂汗を流しながら苦悶の表情を浮かべている。
「ごめんね~君の足が通行の邪魔だったから踏んじゃった。次から人の前に足を出す時は気をつけた方がいいよ~。特に私やトゥルク様の目の前に君の様な薄汚い足を出されたら間違って踏んでしまうかもしれないからねぇ~」
「ううっ……あっ…………」
ツカサがそう言うと、男はそのまま失神してしまう。
余程怖い思いをしたのだろう。
ツカサは失神した男をソファーから降ろし、地面に放るとソファーの面を手でパンパンと叩きながら、座る様に促してきた。
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