ロキと紙祖神のカジノ④

 テーブルに置かれたチップは、端数を除き白金貨百万枚。

 カジノ内の異変に気付いた客達が、ボク達のいるテーブルに集まり出した。


「さて、これでいいかな?」

「うん。勿論だよ♪ 評議員ってお金を持っているんだねぇ♪ これほどの資産を持っているなんて思いもしなかったよ♪」


 ボクがそう言うと、ライシオはほくそ笑む。


「ふふふっ、本当はお遊びのつもりだったんですけどね。負けられない勝負になってしまいました……しかし、私は好きなんですよ。この緊迫感、白金貨五十万枚が一瞬にして溶けるかもしれないという緊張感。そして勝利した時の高揚感がねぇ」

「へえ、お兄さんも好き者だね♪ でも本当にいいの? 白金貨五十万枚も賭けてしまって、負けたら白金貨五十万枚を失う事になるんだよ~?」

「ふふふっ、心配は無用ですよ。失う事は勿論怖い。これから評議員選挙もあるからね。しかし、私は勝ち続ける事でこの地位まで辿り着いた。それはこれからも変わらない。さあ、君の資産全てを賭けたこの勝負、ショーダウンと行こう!」


 そう言うと、ライシオはディーラーに視線を向ける。

 ディーラーは、ライシオに向かって頷くと残り二枚のカードを表にした。

 表になったカードはダイヤの『A』とクローバーの『9』。


 表になったカードを確認したライシオは高笑いを上げる。


「ふふふっ、やはり私の人生は勝つ様にできているらしい」


 ライシオはそう言うと、最初に配られた二枚のカードを表にする。

 表になったカードは、クローバーの『A』とハートの『A』。

 テーブル中央に置かれた五枚のカードはスペードの『A』『Q』『J』そしてダイヤの『A』とクローバーの『9』。


「フ、フォーカード……」


 テーブルを囲む観客の誰かがそう呟いた。

 その言葉に周りの観客は騒然とする。


 もうこの役に勝つ為には、ストレートフラッシュ以外に存在しない。

 白金貨二万枚分のチップを賭けたこの勝負、観客が憐憫の視線を向ける中、ロキは呑気な声を上げた。


「へえ~♪ フォーカードか、凄い役を揃えたね♪」

「ふふふっ、この期に及んでその強気、どうやら現実が見えていないらしい。君が勝つには私のフォーカードを超える役を揃える必要があるというのに……おっと、そうだったね。君はカジノ初心者……この絶望的な状況が理解できないのも仕方がないか」

「うん? そうでもないよ♪」


 ボクが呑気な声色でそう呟くと、ライシオと同様に最初に配られた二枚のカードを表にする。

 表になったカードは、スペードの『K』とスペードの『10』。


 表になったカードを見たライシオは驚愕の表情を浮かべた。


「ロ、ロイヤルストレートフラッシュ……な、何故っ、それに君はルールも碌に分かっていない様子だった筈っ……」


 そんな事言っただろうか?

 全然記憶にない。


「ボク、そんな事言ったっけ?」

「なっ、なななな……」


 そう呟くと、ライシオが震えだす。

 常勝無敗の人生。たった一回のポーカーで白金貨五十万枚分のチップを失うとは思わなかったのだろう。

 自信過剰な事だ。それに、ディーラーも仲間に引き込んでいる様だけど、仮にも神であるボクにただの人間が勝てる筈もない。


 それに百パーセント、ギャンブルに勝つ為に〔秩序破りトリックスター〕も使用している。

 ボクに勝負を挑んだ時点で勝てる道理もない。


「それじゃあ、遠慮なくチップを貰おうかな~♪」

「ち、ちょっと待って下さいっ!」


 すると、一回の勝負で白金貨五十万枚分のチップを失ったライシオが縋るような視線でボクを見つめてきた。


「うん? 何か用かな?」


 そう呟くと、ライシオが頭を下げる。


「ど、どうか、今の勝負をなかった事にしては貰えないでしょうか。たった一回のポーカーで白金貨五十万枚分のチップを賭けるなんてどうかしていました。そう、私の思考は正常ではなかったのです」


 思考が正常じゃなかった?

 何を言っているんだ、この人間は??


 よく分からない事を言うライシオの考えが読めず、ボクは頭を傾げる。


「そう。それで?」

「そ、それで、この勝負はなかった事にして頂けると助かるのですが、も、勿論、勝負をなかった事にして頂けるのであれば、今後、君に……いえ、あなた様に最大の便宜を図らせて頂きたいと思います。い、如何でしょうか?」


 ライシオはそう言うと縋る様な視線をこちらに向けてきた。

 そんな曖昧な物言いで何とかなると本気で思っているのだろうか?


 とはいえ、人間とって白金貨五十万枚は失うには大き過ぎる金額だ。今の様にそんな馬鹿な事を言いたくなる気持ちもよく分かる。


「なんだ、そんな事かぁ♪」


 ボクがそう呟くと、ライシオはガバリと顔を上げた。


「で、ではっ!?」

「うん♪ この白金貨五十万枚分のチップはありがたく頂くね♪ だって賭けの約束は絶対、それがトゥルクのカジノでのルールなんでしょう? 評議員だか何だか知らないけど、例外を作る訳にはいかないからね♪ でも、君の全てをベットするなら、ボクもここにある全てのチップを賭けて勝負してあげてもいいよ? どうする?」

「わ、私の全てを賭けて勝負……」

「うん。そうだよ~君のこれからの人生を賭けたゲーム。好きなんでしょう? 賭けに負けるかもしれない緊張感。そして勝利した時の高揚感って奴がさっ♪ ボクには微塵も理解できないけどね♪」


 元々、トゥルク派且つフィン派である君も粛清対象の一人だ。

 トゥルクの支持基盤を切り崩し、フィンにダメージを与え、権力ある人間を都合の良い駒として使う。

 それが鎮守神の策の一つ。


「全てを取り戻し、追加で白金貨五十万枚を新たに手にするか、全てを失うか、さあ、どうする?」


 そう呟くと、ライシオはディーラーを見つめ歪んだ笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る