ロキと紙祖神のカジノ⑤
「いいでしょう……」
そう言うと、ライシオは歪んだ笑みを浮かべながら立ち上がる。
そして、ディーラーに視線を向け、何かを指示するかの様に椅子に座ると、商業ギルドのギルドカードをテーブルに置いた。
「これは?」
「これは、私の全てですよ。任期は残り少ないですが、評議員の地位、ギルドに預けてある資金、そして私の経営する店、その全てがこのカードに登録されています。如何です? 白金貨百万枚の賭金として十分な対価でしょう? ですので、私からも少しお願いがあります」
ライシオのいう言葉に、首を傾げる。
この人間、自分の置かれている立場が分かっているのだろうか?
今まで、常勝無敗の人生を送ってきたという謎の自信と自分に味方するディーラーを根拠に白金貨五十万枚を賭け、結果としてその全てを失い、訳の分からない事を喚いた挙句、自信満々に『お願いがある』と言ってくるとは、本当に人間とは理解に苦しむ生き物だ。
それに全てを賭けると言っておきながら、さり気なく自分をその『全て』から除いているのも頂けない。
「ふ~ん。お願いね、何だろう? 言ってごらん? ボクにできる事であれば、そのお願い聞いて上げない事もないよ?」
「それはそれは、ありがとうございます。いえ、とても簡単な事です」
そう言うとライシオは、ボクに指を向けた。
「あなた自身も賭けの対象に含めて頂きたいのです。この勝負、勝った者が全てを得る。そんな勝負に致しませんか?」
「へえ、ボク自身を賭けの対象にねえ♪」
勝った者が全てを得る。
そう言いつつも、ライシオが負けた場合、その対象から外れている。それは気に入らない。
「その傲慢さ、気に入ったよ♪ 君が、君自身のこれからの人生と商会、財産全てを賭けるならボクは全然構わないよ?」
するとライシオは頬を引き攣らせる。
「な、なるほど……あなたは私自身も賭けの対象にしろと、そう言うのですね?」
「最初からそう言っているけど、当然の事だよね♪ 多くを求めるのであれば、それだけのリスクを負わなきゃ割に合わないでしょ♪」
「……わ、分かりました。私自身も賭けの対象とし、文字通り全てを賭けて勝負をしましょう」
「うんうん♪ まあ当然の事だけどね、それじゃあ、ゲームを始めようか♪ またポーカーでいいよね?」
ボクはチラリとカードに視線を向ける。
「ええ、勿論です。それではディーラー、ここに契約書を持ってきなさい」
ライシオがそう言うと、ディーラーが契約書を持ってきた。
そして、その契約書に、賭けの対象と条件を書き込むと、サインしろと言わんばかりに、それを渡してくる。
契約書の内容に目を通すも、問題はなさそうだ。
ライシオと同じく、契約書にサインをすると、ディーラーに手渡した。
「それじゃあ、勝負を始めようか♪ 折角だからハンデをあげるよ♪」
「ハンデ?」
「うんうん、ハンデだよ♪ だって、君、運が全然なくて弱いし、ハンデを付けないと勝負にならないでしょ?」
そう言うと、ライシオは訝しがる様な視線を向けてくる。
「言ってくれますね……それで? どんなハンデを頂けるのでしょうか?」
訝しがる様な視線を向けてくる割に、ハンデには興味はある様だ。
「そうだねぇ♪ それじゃあ、ボクは『ターン』までの六枚のカードでポーカーの役を、君は『リバー』までの七枚のカードで役を作るなんてどうかな?」
ライシオは考える様な素振りを見せる。
「ふむ。いいでしょう。折角、ハンデが頂けるのです。君は『ターン』までの六枚のカードで、私は『リバー』までの七枚のカードで役を作るという話、お受け致しましょう」
「そう♪ それじゃあ、ゲームを始めようか♪」
そう言うとディーラーが、ボクとライシオに二枚ずつ裏向きのカードを配っていく。
そして、テーブルの中央に五枚のカードを置き、駆け引きは不要とばかりに三枚のカードを表にしていく。
表になったカードは全て違う絵柄の『K』。
そして、残り二枚のカードを表にするとスペードの『K』そしてハートの『A』が表示された。
それを見たライシオは歓喜の表情を浮かべる。
「既にフォーカードの役が揃いましたか、となれば後はカードの数位がものを言います。残念でしたね。この勝負、私の勝ちの様です……さあ、ディーラー『奴隷の首輪』を持ってきなさい」
ライシオは持っていた手札を放ると『奴隷の首輪』を持ってくる様、近くのディーラーに話しかける。
「はい、畏まりました」
ライシオに話しかけられたディーラーは、そう言うとバックヤードに『奴隷の首輪』を取りに行った。
ボクはその様子を笑みを浮かべながら見届ける。
そして、最初に配られた二枚のカードを表にした。
「勝負は時の運と言いますし、仕方のない事です。もしあなたがハンデという訳の分からない事を言わなければ、引き分ける事ができたというのに、残念ですよ。さあ、さっさとカードを片付け……ディーラー? どうしたのですか??」
勝負が決まったにも拘らず、立ち尽くしたままのディーラーに声をかける。
すると、ディーラーは二枚のカードに視線を向けていた。
「全く、何だというのです……えっ!?」
ディーラーの視線の先にあるのは、生意気な子供に配られた二枚のカード。
「スペードの『A』!? そ、そんなっ! まさかっ!?」
これは何かの間違いだと、目を擦り、二度見するもその結果は変わらない。
「ボクの勝ちだね♪」
そう言うと、ボクは深い笑みを浮かべた。
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