落日のバルト①
バルトが商業ギルドに立ち寄り、偽足場の作成を依頼していた商会に白金貨五百枚(約五千万円)を支払ってから数日……。
「さて、そろそろトゥルク様に手紙が渡った頃だろうか?」
「流石に気が早いのではないですかな?」
「はははっ、確かにそうだな!」
私は商人連合国アキンドに構える商会の執務室で談笑をしていた。
トゥルク様の頭痛の種だったユートピア商会の評判は順調に落ちている(筈だ)。
あの手紙を見て頂ければ、きっとトゥルク様もお喜びになる事だろう。
ふふふっ、それに白金貨五百枚で、白金貨十万枚が手に入るのであれば安いものだ。
ユートピア商会を潰せば幹部昇格も間違いなし。
トゥルク様傘下の商会の中で、いの一番に行動した甲斐があった。
まあ多少のリスクはあるが……問題ないだろう。
それに……。
「それで、あの件は上手くいっているか?」
「あの件ですか……勿論です。バルト様の計画通りに進めております」
「そうか、それは上々……お主も悪よのう……」
「いえいえ、バルト様程ではございません……」
「全くもって違いない。わははははっ!」
『ほう……あの件とは、一体どの事を言っているのですかな?』
「うん? 何を言っている。当然、ユートピア商会の悪評を撒く計画に決まっているだろう」
「全くもってその通り、偽足場が出回って、ユートピア商会の評判は軒並み下がっている今、ユートピア商会の悪評を流せばもうあの商会は終わりです。部下がフェロー王国に向かう準備をしています……って、あれ?」
「うん? お前、誰と喋っていたのだ?」
「バルト様こそ……?」
私と部下は顔を見合わせる。
『そうですか、そうですか、それは良いタイミングに到着する事ができました』
私が部下と共に高笑いを上げていると、何処からともなく声が響いてきた。
「ど、何処にいるっ! 今、直ぐ出てこいっ!」
「誰かっ! 誰かいないのかっ! 侵入者だっ!」
部下と共に、そんな事を言いながら部屋の中を見渡すも誰もいない。
誰かが入ってくる気配もない。
「おかしい。これだけ声を上げれば、誰かしら部屋の中に入ってきてもおかしくない筈なのに……ええい! 護衛はどうしたっ! 一体何が起こっている!」
「と、取り敢えず従業員達のいる所へ参りましょう。何か嫌な予感がします」
「あ、ああ、そうだな……」
突然声が響いてくるなんて気持ちが悪い。
声の主は一体どこから……。
そんな事を考えながら執務室の扉に手をかける。
執務室を出れば、そこには従業員達の働く事務スペースがある。
護衛も数人配置しているし、今、何が起こっているのか確認する事が先だ。
私の部下が扉を開けると、そこには温厚そうな老人が佇んでいた。
「な、なんだっ? 何故、老人がこんな所に……従業員として老人なんて雇っていたか? そういえば、他の従業員達はどうした?」
「バ、バルト様っ! バルト様っ!」
今度は一体何だ!
突然、私の名前を連呼し出した部下の見る方に視線を向けると、そこには人形に囚われている従業員達の姿があった。
「お、お前達……」
「す、すいません……コイツ、突然現れて……人形も……何が何だか……」
目の前で何が起きているのか理解できず、呆然とした表情を浮かべていると、老人が笑顔を浮かべながら人形に囚われている従業員に向かって話しかけた。
「おやおや、まだ喋る元気がありましたか……それにしても、ここは中々いい所ですね。悠斗様の拠点にするには少々、物足りませんが無料で手に入れる事ができるのです。まあいいでしょう」
「はっ?」
老人の言っている事が不可解過ぎて、何を言っているのか解らない。
『無料で手に入れる事ができるのです』だあ?
一体何を言っているのだ、この老人は?
ここは私の立ち上げた商会だ。
『頂けませんか?』と言われて『はい、どうぞ』と渡す馬鹿が何処にいる。
「いや、それより何故、従業員達が縛られている。その人形は何だ? 何故、人形が動いている?」
意味が解らない事が多すぎる。
何だ。私は夢でも見ているのだろうか?
一体、いつの間に夢の中に入り込んだんだ?
いつの間に夢の使者に呼ばれた??
もう脳内がパニック状態。
何が何だかわからない。
私が混乱していると、老人が私に視線を向け話しかけてきた。
「おや? あなた方は、これからユートピア商会の悪評を撒く為、フェロー王国に部下を向かわせるのですよね? 先程そう仰っていたではありませんか。もうお忘れですか? 悪評を撒かれても困りますからね……事前に阻止させて頂いた次第です」
「はあっ?」
さっきからこの老人は何を言っているのだ?
確かに、先程そんな会話を執務室の中で言っていたが……いや、今、この老人なんて言った?
ユートピア商会がどうとか言わなかったか?
ま、まさか、この老人、ユートピア商会の……。
「も、もしかして、あなたはユートピア商会の関係者……なんて事はありませんよね?」
私がそう問うと、老人は恭しく頭を下げる。
「はい。私、悠斗様よりユートピア商会エストゥロイ領支部を任されている鎮守神と申します。敬語はよして下さい。あなた方とは、これから長い付き合いになるのですから……」
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