黒幕への手掛かり②

「えっ? 関係ならありますよ? だって俺、これでもユートピア商会の会頭ですから」


 俺がそう言うと、強面の男達が高笑いを上げる。


「はははっ! 何を言っているんだ坊主、ユートピア商会の会頭が子供である筈がないだろっ!」

「そうだ! それにそんな事はどうでもいいんだよっ! さっさと俺達を解放しろっ!」

「いや、本当の事なんですけど……」


 そう言われても、事実なのだから仕方がない。

 説得を諦めた俺は、影収納に収める為、強面の男達に影を這わせていく。


「まあそれはともかく、人災に繋がりかねないお金儲けをしていたお兄さん達をこのまま逃す訳にはいかないので、捕らえさせて貰いますね?」

「な、なんだとっ! ふざけるなっ!」

「坊主如きが調子に乗るんじゃねぇ!」

「それじゃあ、また会いましょう。すぐに出してあげるので安心して下さい」


 激昂する強面の男達に手を振りながら、影収納を発動させる。


「お、おい! ちょっと待って……」

「やめろっ! 俺達に何を……」


 強面の男達の言葉を最後まで聞かず、影の中に収めた俺は、チラシに書いてある住所へと向かう事にした。


 ◆


 その頃、商人連合国アキンドを訪れていたトゥルクの下にオーランド王国の女王から連絡が入る。


「はい。トゥルクですが……これはこれは、フィン様。本日は一体どのようなご用件で? えっ? フェロー王国王都にあるヴォーアル迷宮近くの土地が欲しい? 確かにフェロー王国を担当する評議員は私ですので購入する事はできますが……」


 急に連絡をしてきたかと思えば、フェロー王国王都にあるヴォーアル迷宮近くの土地が欲しいとはどういう事だろうか?

 フェロー王国王都の地価は、多くの商会が去った事、そして前国王による悪政の影響により下落している。何故そんなゴミみたいな価値しかない土地を……?


 ……まあいいか、私には関係のない事だ。

 オーランド王国の女王であらせられるフィン様には、商人連合国アキンドの評議員になる際、多額の資金援助を頂いた。これから選挙も始まるし、落ち目の国の女王とはいえ無下にはできない。


「わかりました。すぐに手配致します。えっ? 購入する土地は私に任せる? よろしいんですか?」


 いや、そんな事を言われても普通に困る。

 とはいえ、フィン様の言う事を断る事はできない。

 全くもって困った御方だ。


「わかりました。それではすぐに土地の買い付けを行いたいと思います。金額についてですが……あ、はい。承知致しました。では、その様に……失礼致します」


 私は通信用の魔道具から手を放すとため息を吐く。


「はぁ……フィン様は一体何を考えているのやら……まあいいわ。誰か、誰かいないの?」

「は、はいっ!」


 私は部下を呼びつけると、フェロー王国王都にある商業ギルドにヴォーアル迷宮付近の土地を買い占める様依頼書を書き手渡した。


「いつも通り処理をお願い……見れば分かると思うけど、オーランド王国の女王フィン様からの依頼よ。最優先でお願いね?」

「フ、フィン様からっ!? し、承知致しました!」


 部下が依頼書を持って部屋から出て行くのを見届けるも、何だか心配になってきた。


「だ、大丈夫かしら?」


 まあフィン様からの無茶振りは初めての事ではないし大丈夫か……でも心配なので、後で結果だけ確認する事にしよう。


 それよりも……。

 今、私はある事に悩まされていた。


「これ、いつ書いたものかしら? 全然記憶にないのだけれども……」


 目の前には『ユートピア商会を潰した者に白金貨十万枚を進呈する』旨が書かれた契約書が置かれている。日付もちゃんと書かれているので、いつ書かれたものかはわかる。

 解らないのは、何故こんなものを書いてしまったのか、だ。


 確かこの日付は懇親会のあった日……。

 日頃の鬱憤が爆発してつい呑み過ぎてしまったのだろうか?


 思い返してみても、全然記憶がない。

 もし酔っ払った揚句、気が大きくなってこんな事を書いてしまったとしたら大変だ。


 万が一、もし万が一、この契約書通りユートピア商会を潰してしまえば、秘密裏に交わしたマスカットとの契約が……いや、ユートピア商会が潰れるのはいいか。

 問題は、ユートピア商会が潰れる事によりマスカットにまで被害が及んでしまう事……。


 まあ酒の席での出来事だし、真に受ける馬鹿はいないか……私の傘下の商会にそんな馬鹿いないよね?


「い、一応、傘下の商会に確認を取ろうかしら……万が一という事もあるし……」


 私がそう呟くと、突然、部屋の扉がノックされる。


「ん? 何かしら? 入っていいわよ」


 そう言うと、部屋の扉を開け、部下の一人が手紙を持ち入ってきた。


「失礼致します。トゥルク様、バルト様より手紙が届いております」

「バルトから? わかったわ。ありがとう」


 私は手紙を受け取ると、部下が退出するのを見届けてから封を開いた。

 手紙に視線を落とすと、そこには信じられない事が書かれている。


「バ、バルト……あの大馬鹿者がぁぁぁぁ! なんて事をしてくれるのよっ!」


 まさか酒の席での戯言を真に受ける馬鹿がいたとは……。

 しかもユートピア商会の商品の中でも一番質の悪い。人の命に係わる足場の偽物を作って流すなんて……あれにはマスカットも絡んでいるのよ?

 それをコイツはわかっているのかしら?


 いや、絶対にわかっていない様な気がする。

 もしわかっていたらこんな馬鹿な真似はしない筈だ。


 い、今すぐ手を打たなければ……全く中途半端に手を出して!

 私は手紙を握り潰すと、幹部を緊急招集し対応に当たる事にした。

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