ヨルズルの依頼(sideヨルズル)

「ギルドマスター。こちらをご確認下さい」


「ああ、ありがとう」


 エストゥロイ領にある冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルは部下からSランク冒険者である佐藤悠斗の情報を受け取ると、部下が部屋を出て行くのを確認して呟く。


「やはり彼を殺す以外に方法はありませんね……」


 部下である冒険者に盗賊団を捕えた冒険者達の情報を収集した結果、ヨルズルはある共通点に気付く。

 それはその冒険者が全てユートピア商会の従業員である事。

 そして、そのユートピア商会はSランク冒険者である佐藤悠斗が経営している商会で、従業員達のレベル上げを兼ねて毎日交代で迷宮攻略を進めている事。


 エストゥロイ領の冒険者ギルドに優秀な冒険者が集まる事は嬉しい。

 それ自体はエストゥロイ領のギルドマスターであるヨルズルの評価に繋がるからだ。

 しかし度が過ぎれば返って害となってしまう。


 現にユートピア商会の従業員達が毎日の様に迷宮攻略をする事で、冒険者ギルドに併設されている素材買取カウンターの資金は枯渇寸前。

 盗賊団を捕えられたお蔭で、商人達からの護衛依頼も減ってきている。

 盗賊団から上納金を貰っていたというのに全く困ったものだ。


 このまま彼等を放置しては、近い内に私の冒険者ギルドは破綻する。

 絶対にそんな事はさせない。


 恐らくユートピア商会の従業員達が毎日交代で迷宮攻略を進めているのは、会頭である佐藤悠斗の意向によるもの。つまり、佐藤悠斗さえ何とかしてしまえば問題はない。


 問題は二つ。彼がSランク冒険者である事。そして、どの様に彼を誘き寄せ殺すかという事だ。

 Sランク冒険者という事から相当の実力者である事が伺える。

 本来であれば、鑑定でステータスを確認したい所だが冒険者ギルドにそんな部署はない。

 グランドマスターに頼み込めば、何とかなるかもしれないが相応の理由を求められる事になるだろう。


 そして殺し方も問題だ。

 冒険者ギルドの最高戦力であるSランク冒険者が殺されたとあっては、確実に話題となる。

 それに単独でSランク冒険者を殺せるとも思っていない。


 何か良い方法はないだろうか……。


 そういえば、ギルドの依頼の中に廃坑の調査依頼があった。

 何でも廃坑にモンスターが棲みついてしまったらしい。

 その危険度からAランク冒険者未満の冒険者は受ける事ができない危険度MAXの塩漬け依頼だ。


 丁度良い。Sランク冒険者である佐藤悠斗にはこの依頼を受けて貰おう。

 廃坑近くには子飼いの盗賊団が複数存在している。


 子飼いの盗賊団には、現在活動をしない様命令を下しているが、相当ストレスを抱え込んでいる筈だ。喜んでこの作戦に参加してくれるだろう。


 そうと決まれば話は早い。事は一刻を争う。


 ヨルズルは冒険者ギルドの受付に赴き、佐藤悠斗とその従業員達によって捕えられた冒険者や盗賊団の買取手続きを行っていく。


「ギルドマスター! 彼等を買い取るのですか!?」


 手続きを進めている中、受付が驚きの表情を浮かべるも、ヨルズルはそれをサラリと受け流し、それっぽい言葉を並べる。


「ええ、その通りです。考えてもみなさい。もう冒険者ギルドの牢屋は一杯です。彼等は犯罪者といえど元Bランク以上の力を持つ冒険者。牢屋に閉じ込めておくより、借金奴隷や犯罪奴隷として買い取り冒険者ギルドの為に働かせる方がいいとは思いませんか?」


「た、確かにそうかもしれませんが……」


「それにSランク冒険者である佐藤悠斗君等、ユートピア商会の従業員達が連日迷宮に入っては、その足で盗賊団を捕えてこちらにやってくるのです。今の内に牢屋を開けて置かなくてはどうします。素材買取カウンターの資金繰りの件もありますし、やる事は一杯あるのですよ?」


 すると受付は渋々ではあるが納得した表情を浮かべる。


「わかりました。ギルドマスターがそうおっしゃるのであれば止めは致しません」


「そうか。わかってくれて嬉しいよ。彼等の処置は私がするから君は受付業務にまい進してくれたまえ」


「はい。ありがとうございます。こちらが借金奴隷と犯罪奴隷に嵌める首輪です。ご存知とは思いますが、借金奴隷、そして犯罪奴隷の買取を行った者には、その者達の保護、監督をする責任が生じます。ギルドマスターが買い取る以上、あり得ない事だとは思いますが、彼等が今より起こした犯罪行為についての責任は、彼等を買い取る選択をしたギルドマスターにも生じますので、どうぞお気を付け下さいませ」


「ああ、わかっているよ」


 ヨルズルは受付から首輪を受け取ると、一人牢屋へと入っていく。

 すると、ヨルズルの気配に気付いた犯罪者の一人が声をかける。


「ヨ、ヨルズルさん! 一体いつになれば牢屋から出してくれるんだ!」


「そうだ。俺達はヨルズルさんに言われた通り仕事をしたって言うのに、酷いじゃないか!」


「よ、ヨルズルさん……。その首輪は一体……」


 ヨルズルが首輪を持っている事に気付いた犯罪者達は牢屋の中、一歩後ろに後退る。


「ああ、これかい? 申し訳ないんだけど、君達には私の奴隷になって貰うよ。なに少しの辛抱だ。君達をこの牢屋へとぶち込んだ佐藤悠斗さえ殺せば直ぐにでも解放してあげるよ」


 そう呟くと、ヨルズルは買い取った犯罪者達に首輪を嵌めていく。

 さて、彼を……佐藤悠斗を呼び出そう。

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