ユートピア商会エストゥロイ支部立上

「全く……。あなた方には困ったものです」


「「「はっ、はい! 申し訳ございません!」」」


冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルは先ほど仮の断罪をしたばかりの冒険者達に向かって牢越しに呟く。


「先程、彼等が持ってきた証拠……あれがある限り流石の私でもあなた方の仕出かした事を有耶無耶にする事はできません。それに……」


「そ、それになんでしょうか……?」


「彼等はAランク冒険者です。一人Sランク冒険者が混じっていた様ですが……。全くとんでもない相手に喧嘩を売ったものですね」


ヨルズルが溜息をつくと、柄の悪い冒険者達が声を上げる。


「あ、アイツらがAランク冒険者……」


「Sランク冒険者も交じっていやがったのか……」


「いまは彼等が去るのを待つしかないでしょう。牢屋に捕まっているについても時期を見て牢から出して差し上げます。なに、彼等が去るまでの辛抱です。所詮観光で訪れた冒険者……。心配はいりません」


ヨルズルは牢にしがみ付く自分の部下たる冒険者を尻目に牢屋のある部屋から出て行く。


「ふふっ、Sランク冒険者ですか……。初めてお会いしましたね」


そして、不敵な笑みを浮かべるとヨルズルは自分の部屋に戻っていくのであった。



その頃、冒険者ギルドから解放された悠斗達というと……。


「みんな今日は楽しかったよ。また一緒に迷宮に潜ろうね!」


「はい! また迷宮に行く時には声をかけさせて頂きます」


 土地神トッチーのお蔭で事なきを得た俺達は冒険者ギルドを出ると、ラオスさん達と別れ、ユートピア商会エストゥロイ支部(仮)に向かう事にした。


「それにしても土地神トッチー。いつから〔映像を記録する魔道具〕で俺達を撮っていたの?」


 ふと疑問に思った事を質問すると、土地神トッチーは意気揚々と話し出す。


「当然、最初からに決まっております。途中、影精霊に撮影を任せましたが、悠斗様が朝目覚め、従業員と共に迷宮を攻略し、冒険者ギルドで狼藉者共を断罪する迄の全てを記録しております。ああ、他の従業員達の事も影精霊に魔道具を渡し撮影していますよ?」


 朝目覚めた所から撮っているとは思いもしなかった。

 これって盗撮じゃないだろうか?


「盗撮ではありません。モーニングルーティンの撮影です」


 思っていた事がいつの間にか顔に出ていた様だ。

 土地神トッチーはあくまでもこれを撮影と言い張っている。


 俺は溜息をつくと土地神トッチーに視線を向ける。


「従業員達も困るだろうし、朝から撮影はしなくていいからね。〔映像を記録する魔道具〕は学園長から結構な数貰ってるし、勝手に撮影するんじゃなくて、従業員に貸し出してあげて。必要であれば影精霊に撮影を任せてもいいけど……」


 俺がそう言うと、土地神トッチーが少しだけガックリとした表情を見せる。

 とはいえ、土地神トッチーが俺達を撮影してくれていたお蔭で助かったのも事実。


土地神トッチーが俺達を撮影してくれていたお蔭で助かったよ。でも次からは程々にしてほしいな」


 そう呟くと途端に元気な表情を向けてくる。


「はい! 畏まりました」


「次からは程々にね」


 そうこうしている内に、ユートピア商会エストゥロイ支部(仮)に到着する。

 敷地内に入ると、鎮守神チンジュガミが顕現する。


「お帰りなさいませ悠斗様。迷宮探索は如何でしたかな?」


「久しぶりに従業員達と一緒に入ったけど楽しかったよ」


「そうですか。それは良かった」


 鎮守神チンジュガミはそう呟くと、俺の頭をポンポン撫でる

 何だか子供扱いされている様でこそばゆい。


鎮守神チッシー。ちょっとお願いがあるんだけどね」


「うん? なんでしょうかな?」


「そろそろここにユートピア商会エストゥロイ支部を立ち上げたいと思ってるんだ。だからここで働いてくれる従業員を集めようと思うんだけど協力してくれない?」


 俺の話を聞いた鎮守神チンジュガミが笑顔を向けてくる。


「ぜひ協力させて頂きたいと思います。それで従業員はどの位集める予定ですかな?」


「ありがとう! う~ん。従業員は……200人位かな? 王都のユートピア商会でもその位雇っているし……」


「なるほど、200人ですか。それでは早速……」


 鎮守神チンジュガミはそう呟くと、裏路地へと向かって歩き始めた。

 それを見た俺は慌てて訂正する。


「待って鎮守神チッシー! 犯罪者を人形化したい訳じゃないから! 従業員を雇いたいって事だから!」


「おお……そうでしたか。私はてっきり人形をご所望なのかと……」


 鎮守神チンジュガミは足を止め、こちらを振り向く。


「では、どの様に従業員を集めましょう?」


 俺は王都のユートピア商会設立時に作成したチラシを一枚収納指輪から取り出すと、鎮守神チンジュガミに手渡す。


 --------------------------------------

 年齢不問! 研修あり! 一緒に働いてくれるオープニングスタッフ大募集!

 採用希望の方は、隣の悠斗邸にて面接を致します。備えつけのチャイムを押してください。(受付時間8:00~12:00)

【採用数】

 200名

【月収】

 基本給:白金貨3枚以上(昇給年1回、賞与年2回)

【仕事内容】

 接客販売、店内清掃、商品陳列、品出しなど

【勤務時間】

 8:00~17:00(うち休憩1時間)

【休日】

 週休2日(シフト制)

【待遇】

 時間外手当あり

 退職金制度あり

 社宅・家賃補助あり

 その他各種手当あり

 食事補助あり

 服貸与

 --------------------------------------


「俺はこれからこのチラシをお店のディスプレイに貼っていくから、鎮守神チッシーはスラムにこのチラシを配ってくれない? スラムの人達は良いスキルを持ってる人が多いからね。中には病気で苦しんでいる人もいるかもしれないから、万能薬と簡単な食べ物も配ってあげて。文字が読めない人の為に一度はこのチラシの内容を読んでくれると嬉しいかな」


 スラム出身者は、〔鑑定〕や〔病気耐性〕といったユートピア商会にとって役に立つスキルを持っている人が多い。教会が万能薬の無償配布や〔生活魔法〕の付与を始めた事によりスラムの環境はだいぶマシになっているかもしれないけど、日々の生活に困っている人は依然として存在する筈だ。


 俺は万能薬と簡単な食べ物、チラシを自作した収納指輪に収めると、鎮守神チンジュガミ手渡した。


「悠斗様はお優しいですな。畏まりました。それではスラムに行ってまいります。土地神トチガミよ。ここの守護は任せましたよ」


「はい。畏まりました」


 鎮守神チンジュガミは、そう呟くとスラムへと向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る