エストゥロイ領の冒険者ギルド②

「おや? 君達は初めましてだね。私はエストゥロイ領冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズル。よろしくね」


 エストゥロイ領冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルはそう俺達に向かって挨拶をすると柄の悪い冒険者達に視線を向ける。


「あっ……。ち、違うんだよヨルズルさん」


「そ、そうだぜ。俺達はあくまで被害者なんだよ」


「ヨルズルさんはである俺達の言葉を疑うのかよ」


 冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルが溜息をつく。


「またですか……あなた達。全く、以前課したペナルティは一体何だったんでしょうね……。まあいいでしょう。君達、今すぐ2階にある私の部屋に来なさい。話はそこで聞きます」


 俺達は仕方がなく柄の悪い冒険者と共にギルドマスター室に向かう事にした。

 ギルドマスター室に入るなり、柄の悪い冒険者達が必死の弁解を始める。


「ヨルズルさん。俺達は何もしてねぇって!」


「ヨルズルさんも言っていただろ、擦りつけ行為をする様な冒険者は許せないってよ」


「今回は俺達が被害者なんだよ! 兄貴達も行方不明なんだ! すぐに捜索してくれよ!」


 柄の悪い冒険者達の言い分に耳を傾けながら椅子に座ると、溜息をつきながら呟く。


「はぁっ……。まあまずはそこのソファーに座りなさい。話はそれからです」


 ヨルズルに言われた通りソファーに腰掛けると、柄の悪い冒険者達が俺達を睨みつけてくる。


「それで、まずは君達に話を聞こう。彼等に一体何をされたと言っているのかな?」


 ヨルズルが柄の悪い冒険者達に質問を投げかける。


「こいつらがケァルソイ迷宮の11階層でオストリッチの大群を『擦りつけて』きやがったんだ!」


「ああ、全く酷い目に遭ったぜ」


「擦りつけ行為は立派な犯罪だろッ! この犯罪者共を捕まえてくれよ!」


 酷い言いがかりだ。

 俺はこの柄の悪い冒険者達に捕えたオストリッチと卵が欲しいと言われたから差し上げただけに過ぎない。


 そんな事を思っていると、ヨルズルがこちらに視線を向けてくる。


「今の彼らの言い分は本当ですか?」


 今度はこちらが質問に答える番らしい。


「ちょっとよく分からない単語があったんですけど、『擦りつけ』って何ですか?」


「ああ、『擦りつけ』というのは、モンスターを呼び寄せて、他の冒険者に相手を押し付ける行為の事です」


 なる程……。という事は〔影収納〕からオストリッチを出して、柄の悪い冒険者達に卵を持たせる行為って『擦りつけ』に当たるのかな?


 俺は取り敢えず聞いてみる事にした。


「俺達が苦労して捕獲したオストリッチの大群と卵を『全部貰ってやる』と脅され、仕方がなく彼等に渡す行為はその『擦りつけ』に当たるんですか?」


「全部貰ってやると脅された?」


 ヨルズルが柄の悪い冒険者達に視線を向ける。


「お、おい! ふざけた事を抜かしてるんじゃねぇ!」


「やってない! そんな事やってないぞ! それにあれは倒したオストリッチの素材と卵を寄越せって意味じゃねーか!」


「おい! 馬鹿な事言うんじゃねぇ!」


 柄の悪い冒険者達の失言により、ヨルズルの眼力が強まっていく。


「あなた方はまだそんな事をしているのですか?」


 柄の悪い冒険者達は話の流れが悪い事を察知したのか、あからさまに狼狽しだした。


「い、いや……。やってねぇって! 証拠は! 証拠がねぇだろ!」


「そうだぜ! ヨルズルさんはとそこら辺にいる有象無象の冒険者の言葉のどっちを信じるんだよ」


「その通りだ。俺達がそんなことする訳ねぇ!」


 柄の悪い冒険者達がヨルズルに弁解しているとギルドマスター室のドアからノックオンが響く。


「おや? どなたでしょうか。入っていいですよ」


 ヨルズルがドアに向かって声をかけると、ギルドマスター室に受付のお姉さんと土地神トッチーが入ってきた。

 土地神トッチーの出現に驚きの表情を浮かべると、土地神トッチーはニコリと微笑む。


「そちらの方は?」


 ヨルズルがそう呟くと、受付のお姉さんが頷き答える。


「こちらの方はそちらの悠斗様の保護者様……の様です。なんでも映像記録が残っているとか……」


 映像記録……? 一体何の事だろう?


 そんな事を思っていると、土地神トッチーはグレナ・ディーン学園長から貰った〔映像を記録する魔道具〕を収納指輪から取り出す。


「はい。こちらは某魔法学園と共同開発した〔映像を記録する魔道具〕です。従業員達と共に迷宮攻略を楽しむ悠斗様の映像を撮影する為、この魔道具で記録していたのですが、途中、無粋な輩が写り込んできまして……」


 そう呟くと、ギルドマスター室の壁に映像を映し出す。

 音はあの魔道具から出ている様だ。



『おいおい! 兄ちゃん達、ちょっと待てや!』


『なんだお前達は?』


『ハッ! 俺達の事を知らねぇとは……さては余所者だな?』


『……ああ、だったらなんだ?』


『ハァッ! 全くこれだから余所者は困るんだ。この階層はAランク冒険者である俺様達が先に陣取ってたんだよ!』


『それがどうした?』


『見ていたぜ! どんな魔法を使ったかは分からねぇが、あのオストリッチの大群を倒したみたいじゃねーか! それに卵だ。卵がこの階層から消えちまってる。手前らが持ってるんだろ?』


『だったらなんだ?』


『まあまあ……そんな怖い顔すんなよ。俺達は親切心で言ってやってるんだぜ? 俺達が全部貰ってやるよ。オストリッチを倒す位だ少しはやる様だが、餓鬼を守りながら俺達と戦うのは厳しいだろ?』


『お兄さん達はオストリッチが欲しいの?』


『ああっ!? 餓鬼が大人の会話に入って来るんじゃねェ! だがそうだな。お前がオストリッチと卵を渡すって言うなら貰ってやらない事もないぜェ?』


『そう。じゃあお兄さん達にオストリッチと卵を上げるよ』


 最後にオストリッチと卵を〔影収納〕から取り出し、柄の悪い冒険者達に渡す所で映像が途切れた。

 恐らくワザとだろう。


 映像を見たヨルズルは鋭い視線を柄の悪い冒険者達に飛ばす。


「……これでは言い逃れはできませんね。あなた方の行った行為は立派な恐喝です。またAランク冒険者を騙る事は冒険者ギルドの品位を著しく落とします。現時点を以って冒険者ギルドの資格を停止。沙汰が降るまで牢屋で大人しくしていて頂きましょう……」


 ヨルズルがそう呟くと、柄の悪い冒険者達がガックリうな垂れる。

 


 ヨルズルが俺達に視線を向けてくる。


「今回の件、冒険者ギルドのギルドマスターとして謝罪致します。申し訳ございませんでした。彼等についてはこちらで対処させて頂きたいと思います。まずは一旦お帰り頂いて構いません。追って、連絡を差し上げます」


 ヨルズルは椅子から腰を上げると、柄の悪い冒険者達を拘束し謝罪の言葉を述べてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る