エストゥロイ領の冒険者ギルド①

 ラオスさん達と共に〔影転移〕でケァルソイ迷宮の第1階層に転移すると、俺達は出口に向かい歩き出す。

 本当はそのまま〔影転移〕でケァルソイ迷宮を出たい所だったが、そうはいかない。

 なぜなら……。


「おう! 兄ちゃん達、ケァルソイ迷宮はどうだった? 中々面白かっただろ」


 そうケァルソイ迷宮は、エストゥロイ領の管理する迷宮。

 迷宮への入退出はしっかりと記録に残される。


「はい。とても面白かったです。特に第11階層にあった草原フィールドには驚かされました」


 まさか草原の所々にオストリッチの卵が設置されているとは思いもしなかった。


「えっ? もうそこまで行ったのか? 流石にSランク冒険者は違うな」


「いえいえ、そんな事ありませんよ」


 俺達は迷宮の出入口でケァルソイ迷宮の退出記録を取ると、捕まえたモヒカン男達をつき出す為に冒険者ギルドに向かう事にした。


 冒険者ギルドの扉を潜もまだ昼過ぎの為か、冒険者があまりいない。

 俺達は受付票を取ると、呼ばれるまでの時間、冒険者ギルドの待合所に座って待つ事にした。


「受付NO.41番の方」


「悠斗様。呼ばれたみたいですよ」


「うん。じゃあ行こうか」


 俺達は椅子から立ち上がると、受付カウンターに向かう事にした。

 受付カウンターに近付くと、受付のお姉さんが笑顔で応対してくれる。


「ようこそ。冒険者ギルドへ。本日はどの様なご用件でしょうか」


 俺達は受付票をカウンターに置くと、事のあらましを話始める。


「ケァルソイ迷宮で冒険者に襲われ撃退したので、彼等を逮捕して頂けますか?」


「冒険者があなた方をですか!?」


 受付のお姉さんは驚いた表情を浮かべると、キョロキョロと辺りを見回す。


「そ、それであなた方を襲った冒険者はどちらに……」


「はい。俺のスキルで捕えてあります。逃げられると困りますので出来れば牢屋にそのまま放り込みたいのですが、犯罪者を閉じ込める用の牢屋はありますか?」


「も、勿論でございます。牢屋に案内致しますので、ついて来て頂いてもよろしいでしょうか」


 受付のお姉さんは『離席中』と書かれた札を立てかけると、冒険者ギルドの奥へと向かっていく。


「それでは、この牢屋にその冒険者を入れて頂けますでしょうか?」


「はい。わかりました」


 俺は牢屋の中に影を伸ばし〔影収納〕を発動させるとモヒカン男達を牢屋の中に放り込んでいく。


「な、何だここは! ゲェッ!」


「(ようやく暗闇から解放されたかと思えば、)今度は牢屋かよッ! ヒィッ!」


「どうなっていやがる! オワッ!」


 モヒカン男達を見て見ると、〔影収納〕から出る事ができて一瞬、喜びの表情を浮かべるも、俺達の姿を見るや否や急に怯えはじめた。


「随分と怯えている様ですが、本当に彼らがあなた方を襲ってきたのですか?」


 牢屋に入っているモヒカン男達の怯えた表情を見た受付のお姉さんが逆に俺達を疑ってくる。

 まあ、確かに……。ああも怯えられてしまうと、俺達が加害者の様に見えなくもない。


「はい。彼等だけではありません。彼らの仲間と思しき柄の悪い冒険者にもオストリッチと卵を強請られました。この方達は俺達に『俺達の行動を冒険者ギルドに報告される訳にはいかないんでな、消させてもらうぜッ』と告げられ切りかかってきたので返り討ちにしただけです」


「そ、そうですか……」


 受付のお姉さんは牢屋に入っているモヒカン男達にチラリと視線を向ける。


「モヒカン頭の冒険者に柄の悪い冒険者ですか……。そう言えば、以前から同様のクレームが出ていた様な……」


 受付のお姉さんが何かを思い出そうと『うーん。うーん』と呻っていると、突然冒険者ギルドの中が騒がしくなってきた。冒険者が受付で怒鳴り声を上げている声が聞こえる。


「何だかギルド内が騒がしくなってきましたね。この人達の処遇についてはまた今度教えて下さい」


 俺は今も考え込んでいる受付のお姉さんに向かってそう呟くと、牢屋のある部屋を後にする。


「えっ、ちょっ! 待ってッ!」


 俺達が牢屋のある部屋から出ると、丁度今話していた柄の悪い冒険者が受付で騒ぎを起こしていた。


「だぁ~かぁ~らぁ! 俺達が狩ったモンスター素材ごとアニキ達が迷宮で行方不明になっちまったんだよ!」


「それだけじゃねぇ! 俺達にオストリッチの大群を『擦りつけ』しやがった冒険者がいるんだ! 絶対に許せねぇ!」


「ここは冒険者ギルドだろッ! 良いのかよ! そんな事する冒険者を放っておいてよ! そいつらを捕まえて牢屋にでも閉じ込めておくのがお前らの仕事だろうがッ! 仕事をサボっているんじゃねーよ!」


 受付に近寄ると、その内の一人が大声を上げながら指を指してくる。


「あっ! コイツだ! こいつ等だぜ!」


「こんな所にいやがるとはな。おいっ! この犯罪者共を捕まえろッ!」


「丁度いい! 纏めて牢屋に打ち込んでやる!」


 俺達を追いかけてくる受付のお姉さんに視線を向けると、「さっき言っていたオストリッチと卵を強請ってきた冒険者はこの人達です」と呟く。

 すると、受付で騒いでいた柄の悪い冒険者達が驚きの表情を浮かべた。


 恐らく反論されると思っていなかったのだろう。


「ふ、ふざけるんじゃねぇ! 俺達がそんな事する訳ねーだろうがっ! あっ……」


 柄の悪い冒険者達は顔を真っ赤に紅潮させると、受付のテーブルに拳を叩き付け大声を上げる。

 今にも殴りかかってきそうな勢いの柄の悪い冒険者達が、俺の背後にいる誰かに視線を向けると急に黙り込む。


「まあ君達待ちなさい。双方の言い分を聞いてから判断しようじゃありませんか」


 俺達が背後に視線を向けると、そこにはエストゥロイ領冒険者ギルドのギルドマスターが立っていた。

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