その頃の内務大臣と宰相
悠斗達がエストゥロイ領で一時のバカンスを楽しんでいる頃、新国王にティンドホルマー魔法学園との関係改善をするよう命じられた内務大臣はというと……。
「何故……。何故だっ! 何故書状が送り返されてくる!」
ティンドホルマー魔法学園との関係改善の為、王城にて弁解させて欲しいと理事会、そして学園長に書状を送付するも突っ返されていた。
「私は仮にもこの国の内務大臣だぞ。奴等はそれを理解しているのか!?」
突っ返された手紙を握り潰し、ゴミ箱に投げ捨て机を叩く。
「クソォッ!」
内務大臣が怒りの声を上げると、側に控えていた部下が耳打ちをする。
「スカーリ様。ティンドホルマー魔法学園では、理事会や学園長が自ら教壇に立ち教鞭を執っています。特に今、魔法学園では〔無詠唱魔法〕のメソッドを確立している最中。王城への呼び出しに答えないのはそれが理由かと……」
内心では、前回の内務大臣の対応が悪かったのだろうと思いつつも、内務大臣を怒らせない様、言葉を選ぶ。しかし、それは内務大臣をさらに激怒させるだけに終わった。
「理事会や学園長が教壇に立ち教鞭を執っているだと?」
部下に視線を向けると、手で机を強打する。
「魔法学園の理事会も学園長も、内務大臣である私の呼び出しより子供の方を優先しているというのか! ふざけるなッ!」
「い、いえ……。ですから……」
「それに〔無詠唱魔法〕のメソッド確立だと? 下らん! そんな事の為に私の呼び出しを無視する等、あ奴らは何を考えているのだッ!」
部下に怒りをぶつけ少し落ち着いた内務大臣が立ち上がると、ドアに向かって歩き始める。
「スカーリ様。どちらに!?」
そしてドアの前で止まると、鼻息を荒くして呟く。
「……決まっている。ティンドホルマー魔法学園に向かうぞ。すぐに馬車を用意しろ」
それだけ言い放つと、勢いよくドアを締め執務室から出て行ってしまった。
内務大臣が部下に馬車の手配をしている頃、宰相は商業ギルドを訪れていた。
ウエハスという詐欺師に騙され、ユートピア商会の土地を接収した事により王都内外にいる商人達に悪い噂が流れてしまった。
土地の接収に反対したとはいえ、ユートピア商会の土地接収は国が決めた事。
ノルマン新国王を諌める事ができなかった宰相にも責任の一端はある。
深い溜息をつきながら馬車から降りると、突然宰相に声がかかる。
「おや? あなたは宰相……宰相閣下ではありませんか」
「あ、あなたは……」
宰相が振り向くと、そこには商人連合国アキンドの評議員アラブ・マスカットが立っていた。
「マ、マスカット殿!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。宰相閣下も商業ギルドに用が? 実は私もなんですよ。先日、評議員の変更がありましてな。引継ぎの為、来たのですよ」
マスカットは笑顔を浮かべながら宰相に話しかける。
すると、宰相は頭を下げて呟く。
「マスカット殿。貴殿にお話したい事があります。私にお時間を頂けないでしょうか」
「宰相閣下。まずは頭をお上げください。理由についてはなんとなくお察し致しますが……そうですね」
宰相は頭を下げたまま、縋る様に呟く。
「どうか……。どうか弁明の機会を……」
マスカットは溜息をつくと、頭を下げたままの宰相に視線を向ける。
「わかりました。商業ギルドの中に個室を用意致します。詳しい話はそちらで致しましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「それでは、私について来て下さい」
マスカットは商業ギルドに入ると、宰相と共にギルドマスターの部屋に向かう。
部屋に入ると、そこにはギルドマスターのミクロが待ち構えていた。
「これはこれは宰相閣下。本日はどの様なご用件でしょうか」
ミクロの眼光がギラリと光る。
ミクロ自身、商業ギルドに何の相談もなくユートピア商会の土地を接収した事について怒りを覚えている。
「ああ、立ったままでは話もできませんね。どうぞ、そちらのソファーにお座り下さい」
「いえ、このままで構いません」
宰相は床に手と頭をつけると、ミクロ、そしてマスカットに土下座する。
「ユートピア商会の土地接収の件、誠に……誠に申し訳ございません」
宰相の呟いた言葉にミクロはマスカットと顔を見合わせる。
「まずは理由をお聞きしましょう。何故、国は商業ギルドに相談もなくユートピア商会の土地接収に踏み切ったのですか?」
宰相は土下座の姿勢のままミクロの質問に答える。
「はい。事の始まりは……」
宰相はミクロの質問に次々と答えていく。
商業ギルドからの税収が33%ダウンした事。
それにより危機感を覚えた事。
そんな時、商業ギルドの新ギルドマスターを騙るウエハスからユートピア商会を潰せば来年課す税率を自由に設定してもいいと提案があった事。
そしてその提案に乗り、ティンドホルマー第二魔法学園設立を理由にユートピア商会の土地を接収した事。
その結果、ユートピア商会は潰れ、代わりとなる商会も土地接収の噂が立った事でいくら誘致しても商人達が王都に来てくれなくなってしまった事。
全てを話し終えた宰相は汗を流しながら呟く。
「ノルマン新国王の事を諌める事。そしてユートピア商会の土地接収を止める事ができなかった事。誠に申し訳ございません」
「なぜユートピア商会の土地を接収したのかについては分かりました……。しかし、このままでは税収が減る度に同じような事が起こるのではありませんか?」
「……申し開きもございません」
尤もな事だ。ノルマン新国王の考えてが変わらない限り同様の事は何度でも起こる。
「それで宰相はここに何を? 当然、ギルドに謝りに来ただけではないでしょう?」
宰相は意を決した様な面持ちで呟く。
「はい。どうかお力添えを頂きたく参りました」
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