王国からの使者

 俺が学園の補修費として白金貨1,000枚(約1億円)を手渡すと、グレナ・ディーン学園長はそれを収納指輪に仕舞っていく。


「それではお師匠様、私はこれで失礼します」


 そうグレナ・ディーン学園長が呟くと、土地神トッチーがダイニングに顕れ、俺に耳打ちをする。


「悠斗様、フェロー王国の使者がいらしております。なんでもティンドホルマー第二魔法学園創設に際し、この土地を接収するとか……。いかがいたしますか?」


 接収とは穏やかではない。

 国家が個人の所有物を強制的に取り上げるなどあり得ない事だ。


 それにこの土地には、ユートピア商会やそこで働く従業員達もいる。また地下には、俺が設置した迷宮もある。

 従業員達の生活や、王都のど真ん中に迷宮跡地を作らない為にも、フェロー王国側と話し合いをする必要がありそうだ。

 それに丁度、ティンドホルマー魔法学園の学園長がここにいる。

 一緒に話を聞いてもらおう。


 俺はその使者をダイニングに通すよう伝えると、グレナ・ディーン学園長にもその事を伝える。


「学園長。今、フェロー王国の使者がこちらに向かっています。なんでもティンドホルマー第二魔法学園創設の為、この土地を接収したいとか……。申し訳ございませんが、もう少しだけお付き合い頂けないでしょうか?」


「土地の接収ですか……。穏やかではありませんね。それにティンドホルマー第二魔法学園の創設等、私は聞いておりません。ぜひご一緒させて頂きたいと思います」


「ありがとうございます」


 俺はグレナ・ディーン学園長にお礼を言うと、屋敷神ウッチーに食器を片付けて貰う。


「それでは、グレナ・ディーン学園長はこちら側にお願いします」


「わかりました。それにしても、この土地を接収とは……国は何を考えているのでしょうか? 全く理解できません」


 グレナ・ディーン学園長がそう言うのは尤もだ。

 ユートピア商会は、今や王都ストレイモイの物流を握る程、大きな商会となっている。


 ハッキリ言って、今ここでユートピア商会が王都ストレイモイから手を引けば、王都の物流は暫くの間ストップしてしまうだろう。


「悠斗様。お客様をお連れ致しました」


 そんな事を考えている内に、フェロー王国からの使者がやってきた様だ。


「ようこそお越し下さいました。私、ユートピア商会の会頭を務めております。佐藤悠斗と申します」


 俺が挨拶をすると、なぜがグレナ・ディーン学園長まで挨拶をしだした。


「私、ティンドホルマー魔法学園の学園長グレナ・ディーンと申します。よろしくお願い致します」


 グレナ・ディーン学園長が使者の方に挨拶をすると、露骨に使者の方が慌てだす。


「テ、ティンドホルマー魔法学園の学園長がなぜっ……」


「悠斗様とは懇意にして頂いておりますので、何でも今日はティンドホルマー第二魔法学園の創設の件でこちらにいらしたそうではありませんか。私は何も聞いておりませんが……勿論、詳しく教えて下さるのですよね?」


 グレナ・ディーン学園長が威圧を込めて口にすると、使者の方は俺の方に視線を向けてきた。


「い、いえ、それは……。これは悠斗様との話し合いとなりますので部外者の方は……」


「あら、ティンドホルマー第二魔法学園の創設の為に、こちらの土地を接収しに来られたのですよね? 学園長である私は部外者ですか? 何でしたら今、理事会に問い合わせてもいいのですよ……」


 グレナ・ディーン学園長が通信用の魔石を取り出した。


「い、いえ、結構です。私はただフェロー王国のノルマン新国王様の王命を伝えに来ただけですので……」


「そうですか。それで?」


 この邸宅の主は俺なのに、グレナ・ディーン学園長がどんどん話を進めていく。


「グ、グレナ・ディーン学園長は関係ないのですが……まあいいでしょう。佐藤悠斗よ。フェロー王国のノルマン新国王様からの王命を伝える。ティンドホルマー第二魔法学園設立の為、この土地を接収する。1週間以内にこの土地から出て行かない様であれば武力行使もやむを得ない。速やかにこの土地から出て行く様にとの事だ」


 使者の方がそう言いきると、すかさずグレナ・ディーン学園長が理事会に電話をかけだした。


「グレナ・ディーンです。フェロー王国よりティンドホルマー第二魔法学園創設の話が出ているのですが、知っておりますでしょうか? えっ? ええ、そうです。そんな話は聞いていない? そうですか。わかりました。突然の連絡申し訳ございません。それでは、失礼致します」


 グレナ・ディーン学園長が使者の方に視線を向けると、威圧するように声を出す。


「理事会もティンドホルマー第二魔法学園の創設の事を知らないようですが、どういう事ですか? 国がティンドホルマー魔法学園に介入するとでも言うのでしょうか?」


「い、いえ、私は陛下からの御言葉を伝えに来ただけですので……」


 グレナ・ディーン学園長の威圧に、使者の方が大粒の汗をたらす。


「お師匠様。ここで少々お待ち下さい。私が直接王城へ向かい話をつけてきます。国が魔法学園に介入する等越権行為もいい所です。」


 そう言うと、グレナ・ディーン学園長はフェロー王国からの使者を引き摺って王城へと向かって行った。

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