今後の方針
「行っちゃったね」
「ええ、行ってしまわれましたね」
終始完全に蚊帳の外だった俺は、グレナ・ディーン学園長が使者の方を引き摺って邸宅を出て行くのを見届けるとそう呟いた。
それにしても困った事になった。
この国の王様がこの土地を接収すると言っている以上、接収される可能性が極めて高い。
接収ともなれば、国がこの土地を取得した時のお金を払ってくれる可能性もないだろう。
あまりの国の横暴さに怒りを覚えながらも、ユートピア商会のこれからを考える。
折角、従業員と共にここまで育ててきたユートピア商会を閉めるのはあまりに惜しい。
それに従業員達の生活もある。
最悪、従業員達には生活に困らないだけの退職金を渡す気でいるが、一番心配なのがこの国の未来だ。
というのも、この土地を接収するという事は、神から迷宮を取り上げると言っている事と同義。
当然、接収の際には迷宮核を抜いていくつもりなので、また新たに迷宮を設置する事も可能だけど、出禁上がりのカマエルや、二ヶ月間出禁となってしまったロキがまず黙っていないだろう。
そうなれば、この王都ストレイモイはお終いだ。
なんでこの国の未来を心配しなきゃいけないのか分からないが、取り敢えず俺もやれる事をやろう。
国から土地を接収されるまでまだ1週間もある。
「
取り合えず俺はアラブ・マスカット会頭と会う為〔私の商会〕に向かう事にした。
〔私の商会〕の中に入ると、私の商会王都支部の支店長スタンさんが出迎えてくれた。
「おお、悠斗様。ようこそおいで下さいました」
俺はスタンさんに軽く挨拶をすると、マスカット会頭に会いたい旨を伝える。
「ご無沙汰しています。スタンさん。マスカット会頭はいらっしゃいますか? 至急お会いしたいのですが……」
「申し訳ございません。只今、会頭は外出しております。戻りは一週間後になる予定ですが、如何されましたか?」
マスカットさんが戻ってくるのは一週間後。それではすべてが終わった後だ。
俺はスタンさんに王命でユートピア商会の土地を接収されそうになっている事を伝える。するとスタンさんが渋面を浮かべた。
「トースハウン前国王が崩御された事は存じ上げておりましたが、ノルマン新国王がそこまで愚かとは……。わかりました。至急、会頭と連絡を取り次ぎましょう。少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。お手数をおかけして申し訳ございません」
「いえいえ、悠斗様には大変良くして頂いておりますので」
そういうと、スタンさんは通信用の魔石でマスカットさんと連絡を取ってくれた。
「悠斗様。こちらを……今、会頭と通信が繋がっております」
俺が通信用の魔石に耳を当てると、魔石から声が聞こえてきた。
「聞こえる……聞こえるか悠斗よ。」
あまり通信回線は良くない様だ。途切れ途切れに声が聞こえてくる。
「はい。聞こえていますよマスカットさん」
「王命により土地を接収とは、まったく何を考えているのだ。商業ギルドから王国に強く抗議しておく。すまぬな。こんな事しかできず申し訳ない。先程、評議会でフェロー王国の担当評議員に変更があってな私から別の者に担当が変わってしまったのだ」
マスカットさんはマスカットさんで大変そうだ。
フェロー王国の前担当評議員であったリマの代わりに担当に着いたと思えば、別の評議員に変更させられてしまうとは……。
「そうですか……。わかりました。マスカットさん、ありがとうございます」
俺は通信用の魔石をスタンさんに渡すとお礼を言い、〔私の商会〕を後にした。
商業ギルドの力がどれほどのものかは知らないが、マスカットさんがフェロー王国の担当評議員で無くなってしまった以上、商業ギルドからの抗議位では何も変わらないかもしれない。
実際に、俺が一時的に商業ギルドを辞めた時もそうだった。
やはり自分で何とかするしかないか……。
俺は邸宅に戻ると、
「さて、皆さん。ここに集まってもらったのは他でもありません。この国の王族が迷宮のある土地を接収しようとしています。国に接収を諦めて貰う何か良い案がある方はいますか?」
俺がそう問いかけると、ダイニングに集まってくれた神と天使の全員が手を上げる。
「それでは
「迷宮を奪われる位であれば王都ストレイモイを滅ぼしましょう。そしてその跡地に新しい楽園を築けば良いのです」
「うむ。私も賛成だ。〔
カマエルも
その躊躇いのない物言いに顔が若干引き攣ってしまう。
「
「しかし、その接収とやらは一週間後に迫っているのだろう。王都を滅ぼす方が手っ取り早いではないか。」
確かに、言いたい事も分かる。
しかし、それではこの先普通に暮らす事ができなくなってしまう。
「私もよろしいでしょうか」
そんな事を考えていると、
「では
「はい、悠斗様。皆様の懸念は国による土地の接収又は、それに伴う移動により折角作り上げてきた迷宮が失われてしまうのではないかという点にあると思います。それでは、いっその事迷宮の範囲を王都ストレイモイ全体に広げてしまっては如何でしょうか?」
「迷宮の範囲を王都ストレイモイ全体に広げるってどういう事?」
俺が
「現在、本邸宅と新しく取得した土地が迷宮の範囲として指定されています。これは、購入していない土地にまで迷宮の力が及ばぬ様、悠斗様が配慮した結果ですが、この迷宮の範囲を王都ストレイモイ全体に広げる事で、王都中に迷宮の力を及ぼす事が出来る様になります。するとどうでしょう。王都ストレイモイ全体が迷宮の一部となりますので、王都内であればどこからでもゲートを繫ぎ、迷宮に出はいりする事ができる様になります。」
なるほど、つまり王都ストレイモイ全体に
接収される土地にある迷宮の入り口を塞ぎ、王都のどこかに迷宮の入り口を作れば迷宮は潰さなくても良くなる。
「そして商会経営についてですが、土地が接収されてしまうのであれば仕方がありません。教会と私の商会、そしてハメッド様の商会に万能薬と仮設機材、紙のみを卸す事にし、一、二ヶ月間元々計画していた慰安旅行へと出かける事に致しましょう。従業員の皆様には苦労を掛けますが、収納指輪も給与も保証されている為、そこまで苦にはならないと思います。それに私の読みが正しければ一ヶ月程で国が音を上げると思いますので、それまでの間、マスカット様の経営する〔私の宿屋〕でバカンスを楽しんできては如何でしょうか。」
なる程、確かに良い案かもしれない。
折角ここまで作り上げたユートピア商会を手放すのは勿体ない気がするけど、別にユートピア商会そのものが無くなる訳ではない。従業員あってのユートピア商会だ。
「うむ。それで良いのではないか?」
「私もその案に賛成です。」
となれば方針は決まった。
接収が避けられないのであれば仕方がない。
一旦、ユートピア商会を畳んで従業員全員で慰安旅行に出かけよう。
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