学園長来訪

「悠斗様。ティンドホルマー魔法学園のグレナ・ディーン学園長がお越しになりました。」


「うん。ありがとう。それじゃあ、ダイニングに通してくれる?」


「畏まりました。」


 そういうと、屋敷神ウッチーはペコリと頭を下げ、ダイニングを後にする。

 今日、グレナ・ディーン学園長を邸宅に呼んだのは理由がある。


「お久しぶりです。お師匠様。本日はお招き頂きまして誠にありがとうございます。」


「いえいえ、立ち話はなんですから、どうぞお座り下さい。」


 グレナ・ディーン学園長がテーブルに着くと、屋敷神ウッチーが紅茶を学園長の前に置く。


「私特製のハーブティーでございます。お口に合えばよろしいのですが……。」


「ありがとうございます。それでお師匠様、まずはこちらを……。」


 グレナ・ディーン学園長は紅茶を口にすると、ホッと口を綻ばせ、俺が以前に渡した収納指輪プロトタイプ1号から一枚の書類を取り出した。


「こちらがティンドホルマー魔法学園に設置してある監視カメラの配置図です。そしてこちらがユートピア商会監修の元、魔法学園で作成した映像記録用の魔道具です。ご指示通り録音機能もあります」


 そう……以前学園長に直訴していた監視カメラの設置、そして映像を記録する魔道具がようやく完成したのだ。


 俺は監視カメラの設置場所に目を通すと、気になる点をいくつか挙げる。


「この配置だとここに死角が出来てしまいますよね。こういう場合、上から監視カメラを設置するのではなく、下に設置するというのも一つの手かなと思うのですが……。」


 グレナ・ディーン学園長は、監視カメラの設置場所の一つ一つに目を通すと感嘆とした表情を浮かべる。


「これは気付きませんでした。確かにこのままでは死角が出来てしまいますね……。流石でございます。お師匠様。」


「いや、良して下さいよ。これも子供達に何かがあった時、すぐに対応をする為です。勿論、物理的にではありますが……。」


 俺が笑顔でそう呟くと、グレナ・ディーン学園長は顔を引くつかせる。


「ま、まあその際は程々に……程々にお願い致しますね。」


「勿論です。学園長にはご迷惑をおかけ致しません。では、そんな学園長にこちらを……。」


 そう呟くと、俺は収納指輪から〔聖属性魔法が付与された指輪〕と〔万能薬〕そしてその〔レシピ〕を取り出した。


「こちらは現在ユートピア商会で取り扱っている魔道具です。学園長には大変お世話になっておりますので、どうぞお納め下さい。」


「い、いえ、私は当然の事をしたまでです。教育者たるもの監視カメラを設置してでも子供達の安全を図るお師匠様の考えに感銘を受けました。ですのでこれを受け取る事は……。」


 そんな事を言いながら名残惜しそうに魔道具に視線を向けている。


「失礼致しました。これでは賄賂の様に思われてしまいますね。それではこちらを魔法学園に寄付させて頂きたいと思います。受け取って頂けますでしょうか?」


「そ、そう仰って頂けるのであれば……。」


「研究に役立てて頂けると幸いです。」


 そう口にすると、グレナ・ディーン学園長が嬉しそうに魔道具を収納していく。


「ああ、忘れていました。」


 魔道具を収納したグレナ・ディーン学園長は一枚の紙をテーブルに乗せると、それを俺の前まで持ってくる。


「これはなんでしょうか?」


「そちらは悠斗様のお子様方が壊したグラウンドや魔道具の請求書になります。」


 俺はその請求書を見ると、愕然とした表情で呟く。


「し、白金貨1,000枚(約1億円)……。フェイ達は一体何を……。」


「あら、お師匠様ともあろう方が覚えがないんですか? 先日、お子様方に貴重なスキルブックを手渡したそうではありませんか。」


 確かに、あの天使騒動の後、子供達にはスキルブックを渡している。

 しかし、それは自衛の為であって、グラウンドや魔道具を壊す為に与えた訳ではない。


「た、確かに与えましたが……。」


「フェイ君が〔光魔法〕で魔道具を壊し、ケイちゃんが〔雷魔法〕でグラウンドに穴を穿ちました。そしてレインちゃんが〔氷魔法〕でプールを凍結させてしまった為、その損害金額のお支払いをお願いしているのです。これでもお師匠様に配慮して控えめの請求で収めたんですよ?」


 話を聞いてみると、どうやら魔力やユニークスキルをうまく使いこなす事ができずそうなってしまった様だ。


「他の子供達や先生方に怪我は有りませんでしたか?」


「ええ、幸いな事に、特別枠の生徒は私が授業を見る事になっておりますので怪我人はおりませんでした。」


 俺はホッと息をつくと、グレナ・ディーン学園長に視線を向ける。


「うちの子達が何かやらかしたら直ぐに連絡を下さい。この度は申し訳ございませんでした。」


「いえ、全然構いません。むしろ、貴重なユニークスキルを真近で観察できて、とても有意義な時間を過ごす事ができました。いや、まさかこんな事になるとは思ってもみませんでしたが、『私にユニークスキルを見せてほしい』と言ってみるもんですね。」


 俺が謝って直ぐ、グレナ・ディーン学園長がボロを出す。


「えっ、今なんて言いました?」


 俺の問いに、グレナ・ディーン学園長は『あっ、ヤバい』といった表情を浮かべる。

 どうやら学園長にも問題があるようだ。


 とはいえ、グラウンドや魔道具を破壊してしまった事は事実。

 俺は収納指輪から白金貨1,000枚を取り出すと、グレナ・ディーン学園長に手渡した。

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