ユートピア商会接収の危機

「なに? ユートピア商会だと?」


 ノルマン新国王は怪訝な顔で呟く。


「はい。その通りです」


「しかし、あの商会に手を出したら商業ギルドはフェロー王国から撤退してしまうのであろう? 以前、ここで会議を開いた時マスカット氏がそう言っていたが……」


「その時の状況を詳しくは存じ上げませんが、おそらくマスカット様は商業ギルドとフェロー王国の両方から2重に課税される事を嫌ったのでしょう。商業ギルドとして、加盟する商人の利益を守らなくてはいけませんから……。しかし、今回の場合、課税するのはフェロー王国ただ一つとなります。なので問題ありません」


 ノルマン新国王は、宰相達へと視線を向ける。


「私はとしては、ウエハスの願いを叶えてやりたいと思うが、お前達はどう思う?」


「私は反対です。フェロー王国の商業ギルドは評議員であるマスカット殿が管轄のはず、せめてマスカット殿の意見を聞いてからにするべきではと愚考します」


「私も宰相閣下と同じ意見です。マスカット殿の意見を聞いてからでも遅くはないかと存じます。」


 ノルマン新国王は、反対発言をした宰相と財務大臣を睨み付けると、他の大臣達に視線を向ける。


「宰相と財務大臣は反対のようだな。それで、君達はどう思う。私はウエハスの願いを叶えてやりたいそう思うのだが?」


「わ、私は……」


「うん? 私は……なんだね?」


 宰相と財務大臣が視線で反対に回れと言ってくる。


「ああ、少しよろしいですか?」


 答えに迷っていると、ウエハスが口を挟んできた。


「万が一、もし万が一ですよ? もし万が一、マスカット様に意見を伺う様であれば、この話はなかった事にして下さい。流石に、私事でマスカット様を巻き込みたくありませんし、マスカット様に邪魔をされても困ります。ああ、会議を中断してしまい失礼致しました。どうぞ会議をお続け下さい」


「今、ウエハスが言った事をよく考えて発言をするように、改めて言うが、私はウエハスの願いを叶えてやりたいと思っている。内務大臣、君はどう思う?」


 本当であれば反対に回りたい。しかし、これはある意味チャンスでもある。

 私が賛成に回れば、宰相閣下と財務大臣の心証は非常に悪くなるだろう。


「私は賛成です。今年限りとはいえ、商人に対する課税権を得る事ができるのは大きい」


「馬鹿なっ! ウエハス殿は王都支部のギルドマスターですぞ。フェロー王国を管轄するマスカット殿に相談もせずそんな事をすればどうなるかお分かりになるでしょう!」


 宰相がそう声を荒げるも、他の大臣の賛成コールがその声を書き消していく。


「私も賛成です」


「私も賛成ですな。なんならユートピア商会を潰した後、商会の権利を買い取れば良いのです。マスカット殿もたった一つの商会が無くなった所で気にも留めないでしょう」


「そうですね。商会の会頭主が変わる等良くある事。一度商会を追い詰め、商会の権利を買い取ればいい。ウエハス殿が気に入らないのはユートピア商会というより、その会頭主なのではありませんか?」


「はい。その通りです。会頭主さえ何とかして頂ければ、あとは好きにして頂いて構いません。ユートピア商会の創り出す商品は画期的なものが多いですからね。国営事業にすれば更なる収益が見込まれるのではないでしょうか」


 ウエハスの言葉にノルマン新国王が頷く。


「決まりだな。賛成多数でこの案を採用とする」


「ありがとうございます」


「それでは、ウエハス殿。早速契約を……」


 ノルマン新国王の言葉に、ウエハスは難色を示す。


「陛下。失礼ですが、契約を結ぶ事はできません」


 その言葉に、ノルマン新国王は怒りの形相を向ける。


「なにっ! ウエハス殿、それはどういう事だ!」


「陛下。この話は私のお願い事です。それを契約に残しては万が一、マスカット様に発覚した際、私もあなた方もとても困った事になるでしょう。それは発覚した際、証拠になり得ます。私は約束を守りますし、あなた方が決めた税率を私の権限で王都ストレイモイにある商会に課税する事は約束致しましょう。ただし、それには条件があります」


「ユートピア商会を先に潰せと言うのであろう……」


「流石は陛下。その通りでございます。ユートピア商会を潰したとして、陛下がそれを国営事業として買い取れば、国の財政基盤も更に盤石なものとなる事でしょう」


 ノルマン新国王は渋面を浮かべると、仕方がないと頷く。


「それではこれよりユートピア商会を潰す為の会議に取り移る。良案のある者はいるか?」


「私目に良案があります。ユートピア商会の土地を接収してはいかがでしょうか? 王命で取り上げれば、商会側も無下にはできません」


「しかし接収する為の理由はどうする。それに、それでは他の土地に移られるだけであまり意味がないのではないか?」


「ティンドホルマー第二魔法学園を創るという名目で接収してはいかがでしょうか? 大通り一帯がユートピア商会の傘下となっているという風に聞いております。名目としては十分かと……」


 その回答にノルマン新国王はニヤリと笑うと、両手で机をつき立ち上がる。


「よし! その案を採用とする。早速遣いの者を出せ。これは王命である事も言い聞かせろ!」


 ユートピア商会に商会接収の危機が迫っていた。

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