司祭マリオの交渉術
「クソがぁぁ!」
聖モント教会の司祭マリオは荒れていた。
それもそのはず、折角、今後の話をするため司祭である私自らユートピア商会に足を運んだというのに、商会内に物理的に入ることができず、門前払いされてしまったのだ。
また子供の従業員に言伝を頼むユートピア商会のやり方にも腹が立っていた。
普通はあんな子供の従業員に断りの言伝を持たせるなどどうかしている。
商会主の今後の人生がかかっているんだぞ?
まるで子供のお使いのようなことを、司祭である私にしてくるとは思いもしなかった。
やはり異端。この商会の商会主は異端者に決まっている。
私は仕方がなくユートピア商会を後にすると、もうひとつの商会、【私の商会】へと足を運ぶ。
「商会主がいない?」
「はい。その通りです。急遽用ができたとのことで会頭はスヴロイ領に向かっております。こちらで言付けは承っておりませんので、急ぎの用があるようでしたら、スヴロイ領の【私の商会】までお願い致します。」
ユートピア商会では、忙しいと会ってもらえず、私の商会では、会頭がスヴロイ領に向かっているため会えず……一体、こいつらは聖モンテ教会の司祭である私のことを何だと思っているのだ。
段々と怒りが湧いてくる。
とはいえ、伝えるべきを伝えないことには何も始まらない。
私は仕方がなくこの哀れな従業員に大司教ソテル様のお言葉を伝えることにした。
目をつぶり、両手を広げ讃美歌を歌うように声を上げる。
「では、貴方で構いません。聖モンテ教会の司祭マリオより大司教ソテル様のお言葉をお伝えいたします。聖属性魔法の付与された魔道具の販売及び万能薬のレシピの配布を今すぐ止め、聖モンテ教会へと喜捨しなさい。この世界ウェークに富を積んではなりません。富は天に積むのです。さすれば天に召される時、永遠の報いを受けることができるでしょう。」
私が目を開けると共に、目の前の従業員が口早に呟き去っていく。
「申し訳ございません。私にその決定権はございません。どうぞスヴロイ領にいる会頭の元まで足をお運びください。」
まるで面倒くさい客が変なことを喚いているとでも言わんばかりのその対応に怒り心頭になった私は、人目を憚らず思わず怒鳴り声を上げてしまった。
「この私、聖モンテ教会の司祭マリオ様が、態々こんなところまで足を運び、大司教ソテル様のお言葉をお伝えしているというのにその態度はなんですか! 聖属性魔法は信心深い我々門徒に与えられる神聖なものです。聖モンテ教会の門徒でもない彼方がたが面白半分に販売して良いものではありません! それになんで万能薬のレシピを知っているのですか! あれは聖モンテ教会の中でも枢機卿様と教皇様のみ作ることのできる至高の薬です。こんなもの偽物に決まっています。偽物を売り付けるなど神罰が降りますよ。王国民の皆さん! ここで売っている万能薬のレシピは偽物です! 騙されてはなりません!」
そう私が【私の商会】に向かって怒鳴り声を上げていると、王国民が次々と集まってきた。
その目には怒りの感情が籠っているように見える。
おそらく、怒りにまかせて発言してしまったことで、言葉こそ汚くなってしまいましたが、私の熱意が王国民の皆さんの耳に届き、私のために立ち上がってくれたのでしょう。
我が意を得たり! この機会に乗じて、【私の商会】から聖属性魔法の付与された魔道具と万能薬のレシピを喜捨させるよう仕向けることにします。
「しかし、神は寛容です。例え偽物といえど喜捨することにこそ意味があるのです。さあ、ここにいる皆さんを敵に回したくなければ聖モント教会へ喜捨をするのです。さすれば、神も爾の罪を赦すことでしょう。」
私がそう言い切ったところで、私の肩を軽く叩く方がいました。きっと今の私の言葉に感銘を受けた敬虔なる信徒なのでしょう。
私は後ろを振り返り「敬虔なる信徒よ、司祭である私に何か御用でしょうか。」と声をかけました。
すると、そこには何故か怒りの形相のまま佇む卑しい卑しい冒険者の姿がそこにはありました。
「えっ!?」
私は思わずそう呟いてしまいます。
「敬虔なる信徒よ。私たちの敵はあちらです。私ではありません……いたっ! や、やめて下さい。さてはあなたもあの悪魔の手下だったのですね! 皆さん、この方は悪に身を染めた魔に連なる者、そう! 悪魔です。さあ皆さん、この悪魔に神の鉄槌を……いたいっ! な、なぜ私に石を投げるのですか、悪魔はこちらにっ! ギャッ!」
私が石をぶつけられ呻いていると、冒険者の皮を被った悪魔たちがこちらに近づいてきました。
「お、おやめなさい! 私は聖モンテ教会の司祭ですよ! ま、まさか皆悪魔に操られているのですか!?」
皆が悪魔に操られている。
それに気づいた私は驚愕の表情を浮かべると、逃げることを優先しました。
司祭である私にも出来ることと、出来ないことの判別くらいつきます。
私は悪魔に操られた民たちから離れると、一心不乱に駆け出しました。
流石の私でも、あの悪魔全員を相手取るのは難しい。
私は悔しさに唇と指先を噛みながら、聖モンテ教会に戻ることにしました。
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