(閑話)マデイラ王の凋落生活
ワシはセントヘレナ・マデイラ20世。
先刻までマデイラ王国の王様をやっていたが、今は不気味な子供に悪い魔法をかけられ緑色の悪鬼、ゴブリンへと姿を変えさせられてしまった。
まったく悪い夢を見ている様だ。
ゴブリンへと姿を変えさせられてしまった後、このワシが恥を忍んで命乞いをしたが、その願いは聞き届けられなかった。それどころか、まるでゴミでも捨てるかのような感覚で、天使によって平原に落とされてしまう。
「
結構な高さから落とされたワシは、しばらく動くことが出来なかった。
何本か骨が折れているかもしれない……。
そして、刃がボロボロになったナイフがすぐ側に落ちている。
あの不気味な子供は、『じゃあ、君たちにはこれをプレゼントしよう! どんな使い方をするのかは君たち次第♪ 能天使たちに預けておくから後で受け取ってね。』とかほざいていたが、ふざけるなと言いたい気分だ。そんなものよりポーションを寄越せ!
とはいえ、分かったこともある。
あの不気味な子供が言った通り、この体でいる限り本当に死ぬことはないらしい。
骨が折れたままだし、空から落とされた衝撃で血塗れだが、確かに生きている。
ククククッ……このワシを生かしたこと思い知らせてやる。
「…………。」
とはいえ、誰かがワシを助けてくれない限り、傷が治り動けるようになるまでこのままだ。
「……………………。」
だ、誰か助けてくれ~!
ゴブリンになったマデイラ王は、天使によって平原に落とされ、既に心が折れかかっていた。
セントヘレナ・マデイラ20世として王座にいる時は良かった。ワシが何もしなくても、臣民が忖度してくれるのだ。
だが今は違う。ワシを傷付けるような愚か者はワシの権威により即罰を下してきたが、ゴブリンになった今、権威などない。
ワシは死ぬのかと、ゆっきり目を閉じると、複数の獣臭さを鼻が捉える。
「
あれ? これってやばくないか?
あの不気味な子供はこう言っていた。
『おおよそ数年後、君は1人の冒険者によって討伐される予定だよ~♪ それまでの間、どんなに死にたいと願っても、死ぬような苦しみが君を襲っても、君は死ぬことなくギリギリ生かされる。良かったね~♪ この数年間、海に身を投げようが、紐なしバンジーを崖からきめようが死ぬことが出来ないんだよ~! 権力者が求めてやまない不老不死を今君は手にしたのさ♪ まあゴブリン如きが手にした数年間限定の不老不死だけどね♪』っと……。
もし……もし万が一、今そこで呻り声を上げているウルフ数体にワシの身体をガブガブされたとして、それでもワシは生きていけるのか?
い、いや、勿論、あくまでも仮定の話ではあるが、ウルフにワシが食い散らかされたとして、運よく生きるために必要な体の機能のみ生かされる。
そして、その痛みはずーっと続く……数年後、1人の冒険者によって討伐されるまでは……。
この世界で回復する手段は限られている。
当然、ゴブリンの姿ではポーションや万能薬など手に入れることはできないだろう。
……と、と言うことは……?
じ、冗談ではないッ! 冗談ではないぞッ!
今ここでウルフ数体にガブガブされては、回復することもできず、数年の間、ガブガブされた傷の痛みと、動けずここに取り残されることによる飢えと渇きにより想像を絶するほどの苦痛を味わうことになる。いやこのままであれば、確実にそうなってしまう。
ヤ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ! ヤバイ!
だ、誰でもいい! 誰かワシを助けてくれッ!
――ヒタ――ヒタ――。
ヒタヒタとウルフ数体が近づいてくる音をマデイラの耳が拾う。
イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ――。
そしてウルフは大きな口を開けると、倒れて動けないマデイラゴブリンに歯を立てようとする。
――終わった。
これから数年間の間、その激痛に耐えた揚句、1人の冒険者に討伐される運命なんて酷過ぎる。
ワシが何をやったというのだ。
ワシはモンスターや死刑囚を破壊の天使に変え、戦争を仕掛けてきたアゾレス王国に先制攻撃を仕掛けただけだ。
すべては国のためだ。何ひとつ悪いことをした思いはない。
まるで走馬灯のように、これまでの記憶がリプレイされる。
ウルフの生暖かい息が、マデイラゴブリンの頬を撫でた時、ウルフの鮮血が宙を舞う。
もう駄目かと思ったその時、ゴブリンの集団がウルフを囲む。
「
「
そこからの展開は凄かった。
ゴブリン2体で5体ものウルフを蹂躙していく。
その動きは、普通のゴブリンとは思えないほどの動きだった。
すべてのウルフを倒し終えたゴブリンは呟く。
「
そう言うと、そのゴブリンはポーションを振りかけた。
「
ポーションにより回復したマデイラゴブリンは、そのゴブリンの手をとり感謝の念を伝える。
こうしてマデイラゴブリンは、マデイラ王国の元暗部が創り上げた集落へと合流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます