後日談②
昨日は色々なことがあった。
アラブ・マスカット会頭に依頼され、急遽、護衛依頼を受けたこと、評議員リマの部下による悠斗邸、ユートピア商会同業の商会襲撃……。
暇つぶしから始まった商業ギルドとの対立も、思ってもみなかった方向に話が進んでいる。
悠斗が呆けていると、横から肩を揺すられる。
『悠斗、ちゃんと聞いているのか……!』
マスカット会頭がひっそり声でそう呟く。
そう、朝目覚めてすぐ、マスカット会頭に拉致されたかと思えば、王城で会議に参加させられていた。
「静粛に……。アラブ・マスカット殿、アキンドの評議員とはいえ、意見を控えて頂けると助かるのですが……。」
「……ふむ。ではなぜ私をこの会議に呼んだのだ? 会議に出ている以上、異論があれば意見もする。当たり前のことだろう。フェロー王国は私のことを軽んじているのではないか?」
マスカットの返答に汗を流しながらフェロー王国の財務大臣が応える。
「い、いえ……決して、そのようなことはございませんが、我が国にも配慮して頂けると……。」
「配慮して商業ギルドのAランク商人、佐藤悠斗に対して税を科すと? それでは2重課税になるではないか。それに国からユートピア商会に人材を派遣する? 商会の乗っ取りでも考えているのではないか?」
マスカットの問いに頬を引き攣らせながら、俺から少しでも税金という名目でお金を毟り取ろうとする議長の顔が青ざめる。
「いえ、それはですね。評議員のリマ殿に……。」
「評議員のリマ殿……?」
ギロリとした視線で議長を睨むマスカット。
「い、いえ、元評議員のリマ殿に悠斗殿は商業ギルドに加入していないと聞いていたものでして……。それならば、税金の課税と国からユートピア商会に優秀な人材の提供をと……。」
議長の言葉が段々と小さくなっていく。
「ほう……。ならばそれは解決された。昨日より佐藤悠斗は商業ギルドのAランク商人として再加入している。国からの人材派遣も不必要だ。悠斗が求めるのであれば、商業ギルドがそれにあたろう。それならば問題ないな。」
悠斗は、マスカットの説得により商業ギルドに戻ることにした。
理由は二つ。国の横やりを回避するため、そしてスラム出身の従業員の人権回復のためである。
人権回復といってもそう対したことはしていない。ただユートピア商会のすべての従業員の商業ギルドへの登録をお願いしただけだ。
初めは登録を拒否していた商業ギルドの職員も、マスカット会頭同伴ということもあり渋々、登録をしてくれた。マスカット会頭様様である。
「し、しかし……。」
余程ユートピア商会から税金を毟り取りたいのか、はたまた手中に収めたいのか議長が食い下がる。
「もし……もしもだ。もし万が一、商業ギルドに再加入した悠斗から国が税金を取る、乗っ取りを考えているというのであれば、商業ギルドをこの国から撤退させることを検討しなければなるまい。」
マスカットの言葉に議長は驚愕の表情を浮かべる。
「な、なぜそのような話になるのですか! 私はただっ……。」
「『私はただ……。』なんだね? 当たり前の事だろう。商業ギルドは、ギルドに加入している商人たちから既定の加盟金を受け取りその内の半分を税金として国に治めているのだ。それが国とギルドとの契約であろう。もし国が、ギルドとは別枠で税金を取り立てるというのであれば、それは契約違反。それに商人連合国アキンドの評議員として、加盟する商人を守る義務が私にはある。誠に残念なことではあるが、約束を違えるような国と付き合うつもりは毛頭ない。信用できないのでな……。すぐにでも、この件を評議員会議にかけ……。」
マスカットの言葉に血相を変えた財務大臣が立ち上がり声を上げる。
「お、お待ちくださいッ! 悠斗殿に対する課税は取り下げます。人材派遣も致しません。これもすべて悠斗殿が商業ギルドに再加入されていたことについて情報共有がなされていなかった私共のミスです。こちらの手違いとはいえ、マスカット殿、悠斗殿には不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございませんでした。何卒、何卒穏便なご配慮を……。」
「……つまり、フェロー王国側の総意として、悠斗に対して課税はしない。不要な人材派遣も行わない。これまで通り、商業ギルドが国に代わって加盟金を受け取り、その半分を税金として納める。ということでよろしいのかな?」
「も、勿論です。差し出がましい事をしてしまい申し訳ございません。」
マスカットが悠斗の方を振り向く。
「悠斗よ。これでいいか?」
「は、はい。ありがとうございます。」
マスカットに『これでいいか?』と言われても『は、はい。ありがとうございます。』としか言いようがない。
しかし、マスカット会頭のおかげで、国からの横やりを回避することができたようだ。
マスカット会頭には感謝に堪えない。
会議が終わると、悠斗とマスカットとは王城を後にし、馬車に乗り込む。
「さて、ここならゆっくり話ができる。」
馬車に乗り込んだマスカットは開口一番に話し始める。
「悠斗よ。リマが持っていた事業を買い取る気はないか?」
「えっ? リマさんの事業をですか?」
「うむ。悠斗と同業の商人たちに支援金を支払わなければならないのだが、リマの持つ資産だけだと、どうしても支援金の金額が白金貨50,000枚(約50億円)ほど足りないのだ。幸いなことに、リマの事業と悠斗の事業は被っている。いかがかな?」
リマさんの持っていた事業か……、どんなものがあるんだろう?
「リマさんはどんな事業を営んでいたんですか?」
「生鮮食品や仮設機材、アキンド紙の販売などだ。アキンド紙であれば、この王都内にも製造工場がある。購入してくれるのであれば流通経路の確保までこちらで請け負ってもよいが……。」
アキンド紙の販売!?
あれリマさんの事業だったの!?
正直驚きである。それと共に、なんだか悪いことをした気がする。
そんなことと知らずに、紙を激安販売してしまった。もちろんフェロー王国内に限ったことだけど……。
なお、悠斗は知らないことだが、ハメッドが国外にも紙を流通させている。
「それでしたらアキンド紙の製造工場が欲しいです。」
丁度、
悠斗は、リマの製紙工場を買い取ることに決めるのであった。
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