後日談①
悠斗が【
「おお、悠斗。戻ったか……それで商会の方は大丈夫だったのか?」
「はい。従業員は全員無事です。なんといいますか……ウチの従業員が撃退に成功したようで――。」
「――ッ! なんだとッ!!」
驚いた様子のリマが悠斗の言葉を遮ると、体を捩じらせ声を上げる。
「え~っと、ですからウチの従業員がリマさんが送り込んだ刺客の撃退に成功したようです。残念ながら捕らえることはできませんでしたが……。」
最後のは嘘である。全員捕らえて魔石で動く人形に変えられ、迷宮で24時間休まず働いていますなんて言えたものではない。
「そうか……逃げ出した刺客については私の方からも手をまわしておこう。」
「ありがとうございます。」
「――嘘だッ。奴らがそんな簡単に撃退されるはずがない。Bランク冒険者並みの猛者60人を刺客として送ったんだぞッ!?」
「いえ、嘘ではありません。ウチの従業員が確かに撃退しました。」
撃退したことだけは本当だ。嘘は言っていない。
「――そ、そんな馬鹿な……こ、これは夢か?」
リマはそういうと、縛られた状態で器用に頭を床に打ち付ける。
「――おかしい。夢なのに頭が痛い。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。」
リマはそういいながら床に頭を打ち付け続ける。
「――おかしい。何度頭を打っても悪夢が覚めない。悪夢が覚めない。悪夢が覚めない。悪夢が覚めない。悪夢が……。」
よほど打ち所が悪かったんだろうか、そのままリマは昏倒してしまった。
「「…………。」」
まさかこんなことになる(勝手に頭を床に打ち据えて昏倒する)なんて思いもしなかった。
マスカットさんも俺も、これには言葉を失ってしまう。
「マスカットさん。リマさんはこれからどうなるんですか?」
「リマのやったことは犯罪だ。未遂とはいえ、他国の大臣を殺そうとしたことは重罪に当たる。商業ギルドで資産没収した後、財務大臣が言ったように、犯罪奴隷として一生を暮すことになる。おそらくハメッドあたりが面倒を見ることになるだろう。」
なぜだろう。重罪という割に刑罰が軽く感じるのは……。
なんかこう……犯罪奴隷といえば炭鉱送りみたいなイメージが先行しているせいか、リマに下される処分が軽く感じてしまう。
そんな悠斗の思いを察したのか、マスカットが口を開く。
「悠斗よ。罪に対して罰が軽いと思ったか? 一度、犯罪奴隷となったものは罪状にもよるがほとんどの場合、一生を奴隷として終える。主人の都合でいつ殺される分からない不安、人権なく物と同じに扱われ搾取されるだけの人生……それはもう辛いものだ。自分の意思で死ぬことすら自由にできないのだからな……。リマの場合は十年かけて築き上げてきたものすべてを奪われ、長い時を犯罪奴隷として過ごすことになる。死刑よりも苦しい刑罰そうは思わんか?」
た、確かに……そう言われると滅茶苦茶重い刑罰に思えてきた。
いや、実際に重い刑罰なのだろう。
まあ、迷宮で働く襲撃者60名よりはマシな人生かもしれないけど……。
「そうですね。」
「そうだとも……。さて、リマが裁かれる前に資産と事業を没収しておこう。」
そういうと、マスカットは縛られ昏倒しているリマのポケットからギルドカードを取り出し、指から収納指輪らしきものを外していく。
すると、昏倒していたリマが目を覚ました。
マスカットとリマの視線が交差する。
「起きたようだな……。おはよう、リマ。随分と額が腫れている様だが大丈夫か?」
「――ッ! マ、マスカットッ! それに、それは……貴様、それに触るなッ! それは私のものだッ! 返せッ! 返せェェェ!!」
リマは憤怒の表情でマスカットの手に握られているギルドカードと指輪に視線を向けている。
「マスカットさん、それは?」
「これはな……リマのすべてだ。このギルドカードと収納指輪の中には、リマの持つ資産と事業譲渡に必要な書類のすべてがここに納められている。」
「――ッ! 俺を無視するなッ! 無視するなァァァァッ!!」
紐に縛られたリマが体を捩じらせ威勢よくとび跳ねる。
「リマよ。支援金の不足分、確かに受け取ったぞ。」
「――ッ! マ、マスカァットォォォォ!!」
奴隷の
リマの表情が涙と鼻水と憤怒の表情でヤバいことになっているが、ここで可哀そうと思ってはいけない。
「さて悠斗よ。リマの企みはすべて潰し、回収すべきものは回収した。後はそこにいる財務大臣に任せ撤収するぞ。」
マスカットはベッド上で呻いている大臣に視線を向ける。
財務大臣、居たのか……。リマに目が行ってしまい居ることに気付かなかった。
「ま、待って下され、マスカット殿、ぐぅふえッ!」
財務大臣がベッドから慌てて起き上がると、そのまま床に落下する。
「――ッ! ご、後日……後日王城より此度の件で呼び出しがあるかもしれません。中にはリマ殿に唆された大臣が他にもおりますッ! 私も最大限、マスカット殿の意向に沿った形で話を進めます! 何卒、何卒、短気は起こさぬようお願い申し上げます。」
「短気……!?」
その言葉が相当お気に召さなかったらしい。
マスカットの表情がみるみる赤く染まっていく。
「い、いえッ! も、申し訳ございません!」
「――ッ! 悠斗、行くぞ。」
そういうと、悠斗はマスカットと共に王城を後にした。
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