安定経営

 商業ギルドが実質的に、支援金の支給を取り止めたため、ユートピア商会では先日より元の価格に戻して営業を行っている。


 お客様にはこちら側の都合で値段を上げ、迷惑をかけてしまったため、本日より1週間、生鮮食品フロアと、雑貨フロアにある商品のみを対象として全品10%割引セールを開催することにした。


 先日まで大通りの商会では、捨て値同前の値段で生鮮食品や武器、防具が販売されていたため、当分の間、生鮮食品、武器、防具の販売は苦戦を強いられるかもしれない。


 ちなみに雑貨フロアには、お客様や武器屋、防具屋から買い取った、『オリハルコンの剣』や『ミスリルの剣』も飾られている。

 このフロアに置かれている武器や防具の大半が大通りの商会で大安売りされていたものを買い取ったものだ。

 大体、定価の3割で買い取ったため、お客様も良い小遣い稼ぎになったのではないだろうか?


 大通りにある商会も値段を元に戻して縮小営業を行っているそうだ。

 既に多額の支援金が貰えることが確約され、半年間何もしなくても商業ギルドが1ヶ月前と同じ収入を保証してくれる。

 お客さんが入らなくても全く問題ないそうだ。

 

 武器屋などは、従業員にお店を任せ、スローライフを送るための永住の地を探しに旅立って行った。

 半年後には戻ってくるといっていたらしいけど、大丈夫なんだろうか?



 商業ギルドの支援金が打ち切られたのはいい。しかし、最近妙な噂がたっているようだ。

 やれ『ユートピア商会に歯向かうと破滅する。』だとか、『ユートピア商会に手を出した評議員が発狂した。』だとか、『発狂した評議員がユートピア商会を潰すと叫んでいた。』とかだ。


 全く身に覚えがない。ハッキリ言っていい迷惑である。

 大通りの商会たちとは、とてもいい関係を築いてきたつもりだし、評議員を敵に回したつもりもない。


 いや、まさか支援金の件か?

 大通りの商会たちとの癒着がバレたとか?


 しかしそれは、支援金の支給条件を緩めに設定した評議員さんが悪い。多分、その評議員は頭のネジが緩かったんだ。きっと今までそれで上手くいっていたから、何も考えず前例をそのまま踏襲してしまったんだろう。そんなことで発狂されても困る。


 それに支援金は商人連合国アキンドの評議員たちの決定のはず、評議員個人が支援金の負担をさせられるなんて、そんな馬鹿なことあるはずがない。

 好き好んで支援金の負担を抱えるようであれば、その人はきっと破滅願望がちょっと強めの頭のおかしい狂人だ。あまり関わり合いになりたくない。


 とまあ、そんな感じの噂が流れているけど、客足は一向に衰えることを知らない。

 それどころか、フェロー王国の王族から照明器具と冷蔵庫の大量注文が入ったことをキッカケに、当商会のランプを街灯として設置する噂が流れ、家の中の灯りや門燈代わりにランプを購入するお客様が増えてきた。


 そのため、フェロー王国では現在、魔石の値段が絶賛高騰中である。

 なお、魔石の値段が高騰しているにも関わらず、冒険者ギルドでは魔石の買取価格を上げていないため、当商会に魔石を売りに来る冒険者も増えてきた。


 そのおかげか、魔石を売りに来たついでに武器や防具を見ていく冒険者が絶賛増加中。

 もう少しすれば、武器、防具の売上も回復するかもしれない。

 今後は、武器や防具の販売のみならず、武器や防具のメンテナンスサービスを取り入れることで冒険者のお客さんも引き込んでいくつもりだ。


「悠斗様、邸宅前にお客様がお見えです。」


 悠斗が思い耽っていると、トッチーが俺を呼びに来た。


「うん。分かった。すぐに行くよ。」


 先日、支援金終了に伴い、商業ギルド側から話し合いを持ちたいと打診があった。

 正直、話し合うことなんて何一つないんだけど、ミクロさんからの打診だし、商業ギルドの職員を20名引き抜いた後では無下にはできまいと、とりあえず話を聞くだけ聞いてみることにした。


 もちろん、話し合いの場所は、悠斗邸にしてもらった。

 ここなら何があっても安心だし、悪意あるものを弾く【自動防御ディフェンス】もある。


 それにしても……。なんで悠斗邸にミクロさんたちをお通ししないんだろ?

 何か問題でもあったのかな?


 悠斗が椅子から立ち上がると、軽くけのびをし、トッチーの後を着いていく。

 すると、玄関口でウッチーに対して、何やら叫んでいる男性がいた。

 男性の隣にいるミクロさんは、必死の表情で男性を羽交い絞めにして諌めている。


「トッチー……これどういう状況?」


「お客様をお通ししようと思ったのですが、リマと名乗る男性が玄関口を通ることができなかったようで、あのように騒ぎ立てております。」


 なるほど、何かしらの悪意を持って悠斗邸に話し合いに来たものの、【自動防御ディフェンス】で弾かれクレームをつけている。そう言うことか……。


 ナイス! 【自動防御ディフェンス】いい仕事をしている!


「じゃあ、ミクロさんだけ客室に通してくれる?」


「承知いたしました。」


 トッチーにそう言うと、悠斗は客間へと向かうことにした。

 チラッと、玄関口にいるリマという男性を見てみると、ミクロの腕を振り払い、玄関口に向かって素手で殴りつけている。あれが【自動防御ディフェンス】の見えない壁なんだろう。


 しまいには、【自動迎撃アタック】により昏倒させられたリマをミクロが担ぎ帰っていった。どうやら今日お話しすることは何もなくなったらしい。


 ミクロたちを見送ったウッチーとトッチーがこちらに向かって歩いてくる。


「悠斗様、本日予定しておりました商業ギルドとの話し合いはなくなりました。なんでもリマ様が体調を崩されてしまったそうで……。また日程を調整して連絡をするとミクロ様より言付を受けております。」


「わかった。ありがとう。」


 ああいう輩と話をしていいことは何もない。

 本当に何を話しに来たんだろう?

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