悠斗の思惑

 ユートピア商会がオープンしてから2週間が経った。


 商会経営は順調に進んでいる。

 商業ギルドから支援金という妨害を受けているが、そのおかげで新品同然の武器や防具を定価の3割ほどの値段で仕入れることができウハウハだ。


 できることなら、商業ギルドにはこの支援金をずっと続けてほしい。そんな気分である。

 商業ギルドは青ざめる位の支援金を、同業の商会に払うことになるんだろうけど……。


 昨日なんて、武器屋の店主が、どこからか『オリハルコンの剣』を仕入れてきて、献上してきた。

 この『オリハルコンの剣』に値段をつけて、ユートピア商会に置いてくれないかと言ってきたのだ。


 したたかなことである。


 こんなことが商業ギルドにバレたら支援金の対象から外されてしまうんじゃないだろうか?

 折角なので『オリハルコンの剣』は無料で頂き、定価の10倍の値段をつけてユートピア商会の雑貨フロアに飾ってある。


 その武器屋では、『オリハルコンの剣』を定価の10分の1で販売していたので、すべて買い取っておいた。

『オリハルコンの剣』の定価は白金貨1,000枚(約1億円)。

 10分の1で売り捌いたとしても、誰も買い手がつかなかったことだろう。

 俺も希少な『オリハルコンの剣』を格安で購入することができてとても嬉しい。商業ギルド様様さまさまである。


 最近では、悠斗が大通りの商会に顔を出すと、同業の商会主さんたちが声をかけてくれるようになった。なんなら、顔を出すたびお土産を持たせてくれるほどだ。

 俺はお土産を貰ったお礼としてチョットした効果のあるお守りを同業の商会主さんたちに渡すようにしている。


 それにどうやら、俺が商業ギルドと対立したお蔭で、連日過去最高益を記録しているらしい。

 なんなら、商業ギルドから支援金を受け取り次第、もう一生分のお金を稼ぐことができたと、商会を閉め田舎に引っ越すと言っている商会が続出している。


 ユートピア商会に、土地や店舗ごと商会買取の相談が多数寄せられるほどだ。

 やりたいこともあるし、一応、買取の方向で話を進めている。


 商業ギルドの思惑から派手に離れていっているのではないだろうか?

 最悪1ヶ月後、この大通りには俺の商会しか残らないかもしれない。


 悠斗が散策を終え、ユートピア商会に向かっていると、血相を変えたミクロさんが商業ギルドに飛び込んでいくのが見えた。


 服も私服っぽかったし、休みの日まで働くとは……。

 それにしても、血相を変えてギルドに飛び込んでいくなんて何があったんだろ?


 気になった悠斗は、開きっぱなしになっている商業ギルドの扉から、チラッと顔を出し、耳を傾ける。


「先ほど、評議員のリマ様より通信がありました! 支援金の支給はそのままに、支援金受け取り対象となる商会に、半年収入を保証する通達を出します! この通達が届いてからそれ以降の支援金の支給は認めません。今の条件を紙に書き、対象となる全商会に通達しなさい! 最優先です!!」


 どうやら、その通達とやらが届いた瞬間から、それ以降に発生する支援金の支給は認めない。

 そう言うことらしい。


 しかし、猶予期間を設けないのは如何なものだろうか?

 支援金の対象となる商会は支援金を充てにして相当無茶な仕入れを行っている。


 とはいえ、通達が届くまで時間はありそうだ。

 折角なので、支援金の対象となる全商会にこのことを教えてあげよう。


 商業ギルド側の勝手な都合で商会が痛い目を見るのは見過ごせない。

 彼らには、商業ギルドから支援金を貰い、商会を畳んで田舎でスローライフを送るという夢があるのだ。


 悠斗は商業ギルドの扉をそっと閉めると、【影分身アバター】で分身を増やし、支援金支給対象の商会にこの情報を流すことにした。


 最悪、俺の商会がすべて買い取ることも告げて。


 同業の商会も、いつまでもこの支援金が支給されるとは思っていなかったようで、ギルドが支援金を打ち切ろうとしている話を信じてくれた。

 俺の商会、ユートピア商会で買い取る話をしたのが功を奏したのだろうか?


 こちらとしてもありがたい話で、いま仕入れている分を含めて格安価格で買い取ることができた。

 同業の商会の方々も、ホックホクの表情で帰っていく


 ミクロさんには悪いけど、今の俺からしたら同業の商会の方が大事な存在だ。土地や建物の買取について話を進めている最中だし……。

 今の俺は商業ギルドに所属している訳でもないし、問題ないはず。


 支援金もギルド側が勝手に決めたことだし、俺がどうこう言っても仕方がないだろう。


 それに、同業の商会の立場からしたら誰が買おうと同じことだ。

 ユートピア商会が買った場合、支援金の対象とならないとはされていない。

 偶々、仕入れた分を含めてそのすべてをユートピア商会に売り払っただけ。その差額を商業ギルドが負担する簡単な話だった。


 まあ、そんなことはどうでもいい。

 どちらにしろ、大通りの商会の殆どは、田舎でスローライフを送る予定だ。

 その夢を商業ギルドが邪魔するのは野暮が過ぎるというものだ。


 なんなら俺もゆっくりスローライフを送りたい。

 今は従業員たちの生活を養わなければならないため、勝手なことはできない。羨ましい限りである。

 まあ、従業員たちの笑顔を見ていると、なんだか癒されるからこのままでもいいんだけど……。


 ちなみに、同業の商会が俺の商会に商品を根こそぎ商品を売り払った後、同業の商会に、商業ギルドからの通達が届いたそうだ。

 本来敵であるはずの俺に同業の商会たちが教えてくれた。


 商業ギルドの対応は、悠斗の行動によりすべてが事後。

 支援金の負担は最大限に、その後の商会へのフォローも完璧に行う商業ギルドには感謝の念がたえない。


 商業ギルドが支援金の支給を決めてくれたおかげで俺も美味しい思いをすることができた。

 また何度でもやってもらいたい。


 それにしても商業ギルドは大丈夫なんだろうか。

 つい先ほどの買取と合せて、約白金貨40,000枚(約40億円)ほどダメージを与えてしまった気がする。


 いや、ちょっと概算しただけなんで、もう少し低いかもしれないけど……。


 まあ、商人連合国アキンドがバックについているから大丈夫か! 大丈夫だよね?

 流石に、ミクロさんが責任を取らさせるのは夢見が悪い気がする……。


 でも、こんな大きな話は評議員が決めることだろうし、ミクロさんが責任を取ることもないか……。

 多分……。


 いや、なんかすごく心配になってきた。

 万が一、ミクロさんが責任を取らされるようなことがあったら、俺の商会に来ないか誘ってみよう。


 管理者ポストとか欲しいし、ユートピア商会を纏めるそんな役割の人が欲しい。

 休日出勤も厭わないミクロさんならピッタリである。


 もちろん商業ギルドよりも条件は良くするつもりだけど……。

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