王城からの召喚状

 先日、白金貨50,000枚もの負担を強いられたリマ様はギルド内で気絶、その後、錯乱。

 次の日には、人格でも変わってしまったかのような笑顔を貼り付け、『ちょっと王城に用がある』といってギルドを後にした。


 ギルドを後にしたリマ様が、数時間で商業ギルドに戻ってくると、穏やかな表情で『ミクロ、佐藤悠斗と面会の約束を取り付けてくれ。』と言い、ギルドマスター室に籠ってしまった。

 仕方がなく、悠斗様に面会を申し込むと、『OK!』の二つ返事で受けてくれた。

 正直驚きである。ハッキリ言って、対立したことで私は悠斗様に嫌われているものと思っていた。


 そして今、商業ギルドのギルドマスター、ミクロはリマと共に、今悠斗邸の玄関口に立っている。


 隣にいるリマ様は薄笑いを浮かべながら玄関口を潜ろうとするが……一体、何をやっているのだろうか?

 まるで、見えない壁でもあるかのように、そこから一歩たりとも進むことができないように見受けられる。


「おいッ! ミクロもここをくぐってみろッ!!」


 リマ様に言われ、玄関口を潜るとリマ様は唖然とした表情で私を見つめてくる。


 いや、普通に潜ることができましたけど?

 逆になんで玄関口を潜ることができないんですか??


 も、もしかしてこれが報告のあった潜ることのできない門? いえ、それなら私が潜ることの出来た意味が……。


 私が悠斗邸に入れることを確認したリマ様は、なぜか憤慨し、玄関口を殴り始める。

 玄関口を通っている私から見て、それはとても不思議な光景だった。


 何しろ、リマ様が何もない場所に対し拳を叩きつけているのである。

 まるで見えない壁でもあるかのように、一定の場所でリマ様の拳が見えない壁に受け止められていく。


 苛立ちからかリマ様が玄関口に唾を吐くも、吐いた唾が跳ね返りリマ様の袖を汚す。

 それに腹を立てたリマ様が玄関口を殴りつけると、そのまま意識を失い倒れてしまった。


 ハッキリ言って意味が分からない理解不能である。


 私の目の前で何が起こっているのだろうか?

 そして、この人は何をしにここまで来たんだろうか??

 私の中のリマ様のイメージが崩れていく。


 リマ様が倒れてしまったので、悠斗邸執事のウッチー様に後日、再度面会の約束を取り付ける。


 よくよく考えると、なぜリマ様が悠斗様とアポイントメントを取るように指示されたのか、はっきりと理由を聞かされていない。


 取りあえず、このまま悠斗邸の玄関口にリマ様を置いておいても迷惑だろうと、背負って商業ギルドに連れ帰ったが、あの時連れて帰ってきて本当に良かった。


 なにせ、医務室で飛び起きた瞬間、『佐藤悠斗ッ! 貴様は商人連合国アキンドを敵に回したッ!! フェロー王国からもそのうちお呼びがかかるだろう! ザマぁ見ろッ!! 俺に逆らうからだッ、馬鹿野郎めがッ!!』と言って、そのまま寝込んでしまったためだ。


 随分と激しめの寝言だったらしいが、どうやら冒頭に言っていた『ちょっと王城に用がある』というのは、フェロー王国の王城に行ったことを示唆していたらしい。

 そこで、王国と何やら不穏な約束事をしたようだ。


 ……リマ様にはもうついていけない。


 これは、すぐにでも商人連合国アキンドの評議員に連絡を入れなければ大変なことになる。

 私の進退も危ういだろう。いや、もうとっくにそんな状況ではなくなっているのかもしれない……。私はすぐにアラブ・マスカット評議員に連絡を入れることにした。


 そして数日後、ユートピア商会にフェロー王国から召喚状が届くことになる。



 リマが悠斗邸の玄関口で騒ぎを起こした数日後、ユートピア商会にはフェロー王国の財務大臣より王城への召喚状が届いた。

 召喚状を開けてみると、佐藤悠斗ひとりで王城に来るよう指定されている。どうやら拒否権はないようだ。明日の朝、財務大臣自らユートピア商会前に迎えに来るらしい。


 財務大臣がこっちに来るなら王城に行く意味ってないんじゃ……。まあその話は置いておこう。


 なぜフェロー王国の王城へ呼び出されたのかは分からない。しかし、大体の予想はつく。

 大方、商業ギルドのリマとか言う男がフェロー王国の王城に働きかけたのだろう。


「まったく。商業ギルドはなにを考えているんだか……。」


 現在、王都の大通りの商会は軒並み商会を閉め、数ヶ月の旅行に出かけている。

 そのため、今現在、王都でちゃんと営業しているのはユートピア商会ただ一つであった。


 まあ気持ちは分かる。

 元の世界で言うところの億単位の金を手中に収めた上、なにせ何もしなくても、商業ギルドが半年間収入を保証してくれるのだ。

 既に土地建物の買取契約をしているし、半年後には、ここら一帯がユートピア商会一色となっているかもしれない。


 そんな中、フェロー王国からの呼び出しである。

 フェロー王国がリマとか言う男に言われ、何をしようとしているのかは分からないが、もし、フェロー王国が俺に何かしようものなら、ロキ、カミーユ大天使カマエルが黙っていない。

 かの神たちは、自分の居場所迷宮を守るための自衛手段に出ることだろう。その過程で王都は滅ぶことになるかもしれない。綺麗なままの悠斗邸を残して……。


 そして、ユートピア商会に手を出そうものなら、俺が黙っていない。

 この商会は、もはや俺たちにとってのベストプレイス。

 万が一、手を出してきた場合、いかなる手段を用いてでもフェロー王国と商業ギルドに嫌がらせをする所存である。


 それはまあ一部冗談として、最悪、迷宮を破棄して他の国に行けばいいだけだし、フェロー王国側に何を言われようが問題ない。

 もしフェロー王国を離れることになった場合は、従業員たちに、一緒に新天地に着いてきてくれるか聞いてみよう。難しいようであれば、一生困らないだけの退職金を渡してお別れとなるがそれも仕方がない。


 彼らには彼らなりの生活があるし、この国への思い入れもある。


 結構地下深くまで迷宮を広げてしまったから、今迷宮核を抜いたら大変なことになるけど、それもフェロー王国が選んだ道と言うことで仕方がない……よね?

 王都のど真ん中に迷宮を作っちゃったし、ここを出る際には一応教えてあげよう。

 多分、聞く耳を持たない気がするけど……。


 そして子供たちは……どうしよう。流石に転校とか嫌だよね?

 正直、子供たちが持ってきた写本さえあれば子供たちに魔法をより詳しく教えてあげることができるだろうけど、学園でしか養えないような道徳心や協調性が失われそうで怖い。


 そう考えると魔法学園のあるフェロー王国で過ごせるほうがいいか?

 悠斗の悩みは尽きない。

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