影を纏って収納するだけの簡単なお仕事です。

「さてと……。」


 子供たちは一度お休みタイムに入ったら最低2時間は起きてこない。子供たちが寝ている間にひと狩りいきますか。


 悠斗はソファで寝ている子供たちに、ブランケットを掛けると、【影分身アバター】を悠斗邸に残し、迷宮の30階層へと【影転移トランゼッション】する。


 悠斗邸に【影分身アバター】を残したのは、万が一、子供たちが起きた時、子供たちが寂しい思いをさせないため、そして、子供たちが起きたことを俺に伝えスムーズに入れ替わるためである。


 本来であれば、子供の寝顔でも見ながらゆっくりお茶を飲んでいたいところだった。

 しかし、今の俺は明日までにランクをEから最低でもBランクに上げなければならない使命がある。(ただ単に子供たちの前では良い格好をしていたいだけともいう。)


 そんなこんなで、今俺は、ヴォーアル迷宮の第30階層ボス部屋の前にいる。


 第30階層のボスモンスターは、体長3m位のでかい熊に石が纏わりついたロックベアというモンスターだ。

 悠斗がボス部屋に足を踏み入れると、背後の扉が轟音をたてて自然に閉まる。


 悠斗は万が一に備え【影纏ウェア】で身体を覆うと、魔法陣からこの階層のボスモンスター、ロックベアが現れた。


「ブオォォォォォッ!!」


 魔法陣から現れたボスモンスター、ロックベアは悠斗に視線を這わせると、腹を叩き威嚇するため声を上げる。


 しかし、悠斗は焦らない。なにせ、ここには一度従業員たちと一緒に来ている。


 もうそれは見飽きたと言わんばかりに、ロックベアを空気のない【影収納ストレージ】に収納していく。


 そこから先は早かった。何しろ悠斗には時間がないのだ。

 モンスターを倒すのに時間を割いていては、ノルマを達成する前に子供たちが起きてしまう。


 ロックベアを【影収納ストレージ】に収納した悠斗は、そそくさと次の階層に向かう。


 第31階層から40階層は荒野フィールドのようだ。

影探知サーチ】を走らせると多くのモンスターがヒットする。


 悠斗は、【影探知サーチ】でモンスターの位置を捕捉すると、次々とモンスターたちを空気のない【影収納ストレージ】に収納していく。


 こうなれば、もはや作業である。


影探知サーチ】で探して【影収納ストレージ】で沈める。


 ボス部屋を含め、たったこれだけの作業を階層ごとに行うことで次々と冒険者ギルドのランクを上げるための供物モンスターの死体を量産していく。


 さらに、子供たちとの魔法の練習で習得した【身体強化】の技術、これがヴォーアル迷宮にいるモンスターたちにとって更なる悲劇を呼び起こす。


 筋力が脆弱な悠斗であっても魔力ばかりは異常に高い。

【身体強化】の技術を使うことで、疲れ知らずとなった悠斗は次々と迷宮を走破していく。


 簡単にいえば、次の階層へ続く階段まで走りながら【影探知サーチ】で捕捉して【影収納ストレージ】することにより、何のリスクもなく迷宮を踏破できるのである。


 1階層にかける時間はおよそ6分、悠斗は30階層から前人未到の50階層までを【影探知サーチ】と【影収納ストレージ】だけで攻略するのであった。


 こんな方法があるならなんで今までの迷宮でそれを使わなかったのか疑問に思うだろう。そうこれは、ただ単に、子供たちと居られる時間を逆算し、効率的にモンスターを狩るためにはどうすればいいのか、それをウッチーやトッチーと一緒に考えた末の答えである。


 カマエルやロキのような、脳筋やお調子者には考え付くことのできない頭脳ブレーンが悠斗の側にいたからこそできたこと、決して、今までの悠斗には思いついても実行に起こすには至らない考えであった。


影纏ウェア】による絶対防御と、どんな敵も逃さず捕捉する【影探知サーチ】、そして影があるところどこにいても収納されてしまう【影収納ストレージ】によって沈められたモンスターたちに逃げ場はない。悠斗と同じフロアにいたが最後、モンスターたちは空気のない【影収納ストレージ】に収められ、冒険者ギルドに素材として提供されるだけの一方的なジェノサイド集団殺戮をもたらす黒い影。それがモンスターから見た悠斗の姿である。


 第50階層の扉を開けてすぐ【影収納ストレージ】に収納されてしまった蛇型のボスモンスター、バジリスクもボスとしても役割を実行できず死に絶えた、きっと【影収納ストレージ】の奥底で怨嗟の声をあげていることだろう。


 悠斗は『よしっ!』と呟くと、悠斗邸に【影転移トランゼッション】することにした。

 そろそろ子供たちが起きる時間である。


 そんなモンスターたちの怨嗟の声に気付かぬ悠斗は、子供たちが起きる前に悠斗邸に戻るべく【影転移トランゼッション】を発動させる。


影転移トランゼッション】で悠斗邸に戻ると、子供たちはまだスヤスヤと眠りについていた。


「お疲れ様です。狩りの方はいかがでしたでしょうか?」


影転移トランゼッション】で戻って直ぐウッチーが問いかけてきた。


「50階層までクリアしたけど、まだまだBランクには足りない気がする……。子供たちが寝静まった頃にまたアタックしてみるよ。」


 そういうと、お茶を啜りながら悠斗は子供たちが眠りから覚めるのを待つのであった。



 しばらくすると、子供たちが起きてきた。

 目を擦りながら、「「「悠斗にい、おはよう……。」」」と呟く。


 まだ少し寝ぼけているようだ。


「さあ、みんな起きて~! お昼の代わりに、ウッチー特製ショートケーキを食べよっ!」


 悠斗がそういうと、子供たちが一気に覚醒する。


 まあ、ウッチー特製のショートケーキって美味しいもんね。

 さらにいえば、今回のショートケーキは前回出したショートケーキの上をいくものだ。


 前回と何が違うのか、そう、バニラが見つかったのである。しかも身近なところにそれはあった。なんとフェロー王国では、バニラを香水代わりに使っていたのである。


 しかも嬉しいことに、バニラエッセンスとバニラオイルの2種類が既製品として販売されていた。

 悠斗はこれを買い占め、早速、ウッチーにショートケーキの試作をしてもらったのである。


 悠斗が子供たちと共に、ダイニングにある椅子に腰をかけると、ウッチーがショートケーキと共に紅茶を配膳してくれる。

 早速、ショートケーキにフォークをたて、口に運ぶと、生クリームの甘さとバニラの香り、苺の爽やかな酸味が口の中いっぱいに広がる。


 完全に元の世界のショートケーキである。


 子供たちもショートケーキを味わいながら食べている。


 悠斗たちはショートケーキを食べ終えると、ケーキの余韻を楽しみながら心行くまで子供たちとの会話を楽しむのであった。

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