悠斗、採用試験を行う
次の日の朝、悠斗が朝ごはんを食べ終わり、「さて、ベッドでゴロゴロするか」と椅子から立ち上がると、『カラーンコローン♪』と客人の来訪を告げる鈴が鳴る。
「悠斗様、昨日貼りだした求人票を見た方が、邸宅の前に長蛇の列を作っております。」
悠斗はウッチーの言葉に頭を抱える。
まさか、こんなにもすぐ人が集まるとは思っていなかった。
「わかった。すぐ行く。一応、庭に椅子を並べておいてっ。」
悠斗はウッチーにそういうと、すぐに玄関口に向かう。
玄関口を潜り列を見てみると朝8時にも拘らず、子供から大人まで70名ほどの人々が悠斗邸の玄関口を起点に長い列をなしていた。
こんな多くの人が求人票を見てくれていたとは……。
当然と言えば、当然の結果である。
なにしろ、元々、外壁だったはずの場所に店が出来上がったのだ。
そりゃあ、今までなかったものが突然できたら注目してしまう。そこに貼り紙が貼ってあればなおさらだ。どんなことが書いてあるんだろうと気になるのが人情である。また求人票の内容も、破格の内容だった。
悠斗は求人票を見てきてくれた方に対し、玄関口の前で大きな声を上げる。
「本日はお忙しい中お集まり頂きまして、誠にありがとうございます。早速ではありますが、これから1次試験を始めたいと思います。1次試験は、玄関口からこの私の邸宅に入ることです。邸宅に入ることができた方は、2次試験の面接を行いますので、メイドの指示に従ってください。入ることができなかった場合ですが、折角ご足労して頂いたにも関わらず、申し訳ございません。まことに心苦しいのですが不採用とさせて頂きたいと思います。それでは、一番前に座っている方から順番に入ってください。」
1次試験が、玄関口から邸宅に入ることなんて簡単である。
そう、誰もがそう考える。しかし、玄関口から先は迷宮である。
この
そして、その効果はすぐに表れた。
なんと、一番前に座っていた大柄の男性が玄関から先に進めなかったのだ。
玄関口は開かれている、それにも拘らずまるでその男の侵入を阻むかのように、男は玄関口から先に進むことができずにいた。
「はい。とても残念ではありますが、不採用となります。大変お待たせしたにも拘らず、残念な結果となってしまい申し訳ございません。」
悠斗がそう言うと、男はガックリと肩を落として帰って行った。
まさか、一人目から悪意を持って採用面接に来るとは思いもしなかった。どんな悪意を持ってここに並んでいたんだろうか?
悠斗は気をとり直して、次の人を玄関口に導く。
「さて、次の方どうぞ!」
今度は、小さな子供のようだ。10歳前後だろうか? 年齢不問とは書いていたが、子供を働かせても大丈夫なんだろうか? 労働基準法とかに引っかからないよね?? 大丈夫だよね? まあ、1次試験を突破したら面接で色々聞いてみよう。
そんな事を思っていると、その子供は易々と玄関口を通り過ぎる。
「おめでとうございます。1次試験突破となります。次が最終面接となりますので、広場に用意してある椅子に座ってお待ちください。」
そこからは、早かった。なにせ、1次試験はただ、玄関口を通り過ぎるだけである。
70名のうち、20名ほど玄関口を突破することができなかったようだが、その方々も、ガックリと肩を落として帰るだけで、暴れる人はいなかった。1人位いるかと思っていたのに不思議なこともあるものだ。
悠斗は玄関口から広場に移動すると、椅子で座っている方々に声をかける。
「皆さま、1次試験突破おめでとうございます。今から、10名ずつ集団面接を行いたいと思います。合否については、面接後すぐにお伝えいたしますのでよろしくお願い致します。それでは、並んでいた順に10名ずつ着いて来て下さい。」
そういうと、悠斗は面接対策されないよう広場の少し離れたところに10名を集める。
「それでは皆さん。そちらの椅子にお掛けください。」
悠斗はウッチーの用意してくれた椅子に腰掛けるよう採用希望者に声をかける。
それでは、これより最終面接を始めます。
ちなみに面接官はウッチー、トッチー、俺の3名である。
「まずは、簡単な自己紹介をしてもらおうと思います。名前と年齢、出身と特技について教えてください。自己紹介後に簡単な質問をさせて頂きます。では、そちらの方から順番にお願いします。」
そういうと、悠斗は一番最初に1次試験を突破した子供に声をかける。
「はい! カイロです。10歳です! スラム出身です! 特技は、鑑定です! よろしくお願いします!」
えっ? 今、この子はなんと言っただろうか?? 鑑定とか言わなかった?
少し気になった悠斗は、カイロ君に【鑑定】を使ってみた。
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カイロ Lv:2
年齢:10歳
性別:男
種族:人族
STR(物理):20 DEX(器用):40
ATK(攻撃):20 AGI(素早):30
VIT(生命):20 RES(抵抗):20
DEF(防御):50 LUK(幸運):20
MAG(魔力):30 INT(知力):20
スキル:鑑定Lv:2、病気耐性Lv:5
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おお、本当に【鑑定】が使えるようだっ! 俺との違いは、Lv(レベル)があること位! これは逸材かもしれない。
「はい。カイロ君ですね。カイロ君はスラム出身とのことですが、なんで採用試験を受けに来てくれたのかな?」
俺がそう言うと、カイロ君は元気よく言葉を返してきた。
「はい! きのう、求人票をみて採用試験を受けにきました! 採用されたら、家族のために頑張って働きます!」
俺が言うのもなんだけどすごくしっかりした考えを持った子だった。
まだ子供なのに逞しい子である。
「ありがとうございます。それでは、次の方お願いします。」
「はい。私はリビアと申します。年齢は21歳で、スラム出身です。特技は、算術です。もし採用されたら命がけで働きます。よろしくお願いします。」
2人目もスラム出身の人だった。
スラムと聞くと、なんとなく粗雑なイメージがあったけど、どうやらそんなことはないようだ。
そう思っていると、今度はウッチーがリビアさんに問いかける。
「リビアさんですね。特技は算術とのことですが、四則演算はできますか?」
この世界にも四則演算があったとは……。四則演算とは簡単にいうと、加算、減算、乗算、除算の4つの算術のことである。
「はい。四則演算は得意です!」
「ふむ。そうですか……。質問は以上です。ありがとうございます。」
「それでは、次の方お願いします。」
「はい。俺の名前はチャド。年齢は35歳で、スラム出身だ! 特技は……特にないが、力仕事は任せてくれ! よろしくな!」
随分と荒々しい人が出てきたものである。とはいえ、こういう人は嫌いじゃない。
そんな事を考えていると、今度はトッチーが質問をしだした。
「チャドさんですね。力仕事が得意とのことですが、一度にどのくらいの重さのものまで持つことができますか?」
一度にどのくらいの重さまで持てるかという質問のようだ。どういった意図の質問なんだろう?
「そうだな、身体強化の魔法を使っていいなら、一度に200kgまで運ぶことができるぜ。リアカーを使っていいなら500kgまで余裕で運べるな。」
「わかりました。質問は以上です。ありがとうございました。」
その後、50名を面接したところ、そのうち40名がスラム出身で、6名がマデイラ王国、4名がアゾレス王国出身ということが分かった。見事にフェロー王国出身の者がいない。
なるほど、ミクロさんが『身の程を知って頂けると助かります。』という訳だ。きっと商業ギルドから妨害工作を仕掛けられたのだろう。
とはいえ、従業員を確保することはできた。
そう、面接まで辿り着いた人は全員合格としたのである。
それにしても意外だったのが、スラム出身者のスキル能力の高さであった。
酷い環境で育っているためかは分からないが、【鑑定】や【病気耐性】などのスキルをほとんどの人が持っていた。確かに、スラムで生きる上で必要なスキルなのかもしれない。
またマデイラ王国やアゾレス王国からの亡命者が採用試験を受けに来ていたとは驚いた。
いま、かの国はどうなっているのであろうか?
まあ、そんなことはどうでもいい。
今回、面接に合格した者の全員が社宅住まいを希望したため、本日より面接者の家族も含めて社宅に住まわしている。また従業員全員に支度金として白金貨3枚を配っておいた。
従業員のほとんどがスラム出身だというし、そう無駄遣いはしないだろう。このお金で生活に必要なものを買い揃えてほしい。
面接の結果、当初の予定通り50名の人材を確保した悠斗は、店舗営業に向け、明日より研修を行うのであった。
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