第六章 商業ギルド対立編
悠斗、暇過ぎて商業ギルドに意図せず喧嘩を売る
――これは、悠斗の子供たちがティンドホルマー魔法学園に入学したての頃の話。
学園長との話を終え、子供たちのいない悠斗邸に戻った悠斗は、気分転換にと商業ギルドに向かうことにした。
悠斗が商業ギルドの扉を開けると、悠斗の存在に気付いた受付嬢のジュリアさんが受付そっちのけでこちらに向かってくる。
いや、それでいいのかジュリアさん!?
普通に考えてダメだろう。なにを当然のように職務放棄してこっちに向かって来ているのだろうか。
とりあえず、商業ギルドの扉に手をかけ、外に出ると悠斗は何も見なかった
「よし。帰るか……。」
すると、(バンッ!)と音を立て扉が開かれた。
「ちょっと、悠斗様! なんで外に出ていっちゃうんですか!?」
ジュリアさんは大変ご立腹のご様子である。
しかし、大声を上げるのは止めてほしい。商業ギルドの周りにいる商人や冒険者が唖然とした表情でこちらを見ている。
「いや、なんかいやな予感がしたもので……。」
「だからって外に出ることはないじゃありませんかっ!」
「す、すいません……。」
悠斗が謝ると、ジュリアさんは少しだけ気分を持ち直したようだ。
「まったくっ……ギルドマスターが悠斗様をお呼びです。私についてきて下さい。」
「はい……。」
俺は仕方がなくジュリアさんに着いていくことにした。
「ギルドマスター、悠斗様をお連れしました。」
ジュリアさんがギルドマスターの部屋まで先導すると、ドアをノックして、ギルドマスターに入室許可を貰い、ジュリアさんの後に続いて部屋に入っていく。
悠斗たちが部屋に入ると、商業ギルドのギルドマスター、ミクロさんが微笑みながらソファーに座るよう促してきた。
「悠斗様、お久しぶりです。突然で申し訳ございませんが、本日、悠斗様にはギルドランクの更新を行って頂きます。」
ギルドランクの更新? なんでだろう? とりあえずギルドカードを提出すればいいんだろうか??
「ギルドランクの更新ですか? えっと、取りあえず、
そういうと、悠斗は収納指輪からギルドカードを取り出し、ミクロさんにギルドカードを渡す。
「はい、ありがとうございます。それではこちらが新しいギルドカードとなります。」
ミクロさんの渡してきたギルドカードは、俺のお父さんが持っていたクレジットカードのように金色に光り輝いていた。
「えっと、これは?」
「これは新たにAランク会員となった悠斗様のギルドカードです。悠斗様の年商はハメッド氏やアラブ・マスカット会頭との取引により、白金貨10万枚を超えました。そのため、商業ギルドと致しましては、悠斗様をAランク会員と認定いたします。つきましては、中間納税という形で、白金貨5,000枚(約5億円)を商業ギルドにお納め下さい。」
まっ、マジでかっ! そんなに税金を納めなきゃいけないのっ!?
フェロー王国の税金は主に5つに分類される。
一つ目が土地の売買時に係る土地税
二つ目が、フェロー王国に出入りする物資に一定の税率を課税する輸入・輸出税(冒険者は免除)
三つ目が死亡した時に課せられる相続税
四つ目が通行・入国税
五つ目がギルドに課せられる税金である。
なおフェロー王国では、『人頭税』や教会に支払う『十分の一税』、ギルドを介さず売買をする者への徴税はおこなっていない。
冒険者ギルドの場合、依頼達成時の報酬から税金を天引きされて支給され、商業ギルドの場合、
しかし、悠斗の場合、
とはいえ、ギルド会員同士の横の繋がりや土地建物の紹介、購入などまったくメリットがないかと言われるとそうでもない。
悠斗は「う~ん。う~ん。」と呻りながらミクロさんに聞くだけ聞いてみることにした。
「例えば商業ギルドを脱退すると、物の売り買いはできなくなるの?」
「いえ。そんなことはございません。商業ギルドは、一定の規律の元、すべての商人の利害を守る
「そうですか……。」
「そうですよ。それでは悠斗様、Aランク会員として白金貨5,000枚の納税をお願い致します。もちろん、突然のお話ですので、一旦お帰りになって後ほど納税して頂いても構いません。」
もし万が一、断られだ場合、商業ギルドの方針として、悠斗を脱退処理した上で、ギルドを通さない商売は難しいぞと思い知らせなければならない。しかし、悠斗のことを高く評価しているミクロとしては是非とも商業ギルドに恭順の意を示して欲しいところである。
「わかりました。」
悠斗の言葉にホッとするミクロ。
「分かっていただけましたかっ! それでは……『それじゃあ、一旦、脱退します。』……えっ?」
『一旦、脱退します』とはなんだろうか? Aランク商人が商業ギルドを脱退する? そんなことが許されるのだろうか?? 確かに過去に前例が無い訳ではないけれども……。
一方、悠斗としても、税金が払いたくなくてそう言ったわけではない。商業ギルドでそう決まっている以上支払うのは当然のことである。
ただ単に興味を示しただけだ。
トッチーやウッチーのおかげで衣食住には困っていない。なお且つ、子供たちがいないため屋敷内は寂しく、さらに言えば暇である。
それに迷宮がある限り自給自足で生活することができる。
商業ギルドを辞めてもまったくと言っていいほどデメリットのない悠斗としては、商業ギルドのタブーに挑戦するべきではないのか? 暇で思考回路がぶっ壊れている悠斗は、迷いもなくこう言い放った。
「商業ギルドの許可がないと果たして物が売れないのか、ちょっと興味が沸いてきました。」
「ゆ、悠斗様、それは商業ギルドをお辞めになるということでしょうか?」
ミクロは及び腰ながら、ギルドマスターとして聞かずにはいられぬことを聞く。
「あっ、もちろん白金貨5,000枚は納付しますよ? ただ一時的に、商業ギルドから脱退するだけです。もしかして、一度商業ギルドを脱退したら、商業ギルドに再登録することができないのでしょうか?」
「いいえ、そんなことはございません。」
なにせ年間白金貨10万枚(約100億円)以上を稼ぎだす
さらに言えば、本来、一度脱退すればGランクからやり直しである。しかし、商業ギルドのランクは1年間に稼いだ金額により決定される。悠斗の場合、既に白金貨10万枚以上を稼いでいるため、再加入してもすぐにAランクに上がってしまい堂々巡りとなってしまう。
「――わかりました。納付をしてくれるのであれば、商業ギルドAランクとして、一時の脱退扱いを認めます。ただ、その場合、商業ギルドからの介入があるものと思って下さい。最悪、売り上げが落ちるかもしれません。しかし、悠斗様が商業ギルドに戻ってきたいと思って頂けた時点で、商業ギルドからの介入は止めと致します。それも、すぐ対応いたしますので早めに身の程を知って頂けると助かります。」
身の程とは、随分なことを言ってくれる。
悠斗は、白金貨5,000枚を納付すると、脱退届を提出し悠斗邸へと歩き出した。
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