部屋

部屋はこごえている

もう眠いのに

とりとめのない話は

えんえんと続く


いま寝たら夜中に起きてしまうから

あんたとしゃべってあげている

夜中は冷たいからね

夜中は苦しいからね


外で猫がなきだした

このやろう誰に向かってないているんだ

酔っ払いが怒鳴どな

可哀相かあいそうにあいつだって

うちの田舎くににでも生まれていれば

部屋にも入れてもらえように

なまじっかぬくい所に居るもんだから

風に意地を張らなきゃならない


南に帰れと言うけれど

あんたこそ、この街には向いていない

この街の上辺うわべだけの陽気さは

あんたらの寒い想いの産物だから

南の地方くにの育ちには

似合にあおうはずがないけれど

こんなにやわい冬なんか

あんたにだって居心地悪いごこちわるかろう

外が騒がしいだけ

部屋のなかは陰気じゃないか


今日も雪は降らない

冗談じゃねぇや

雪になんかに降られてたまるかいと

猫のなき声は度を増してゆく


いま寝ると

夜中に起きてしまうから

あんたと話してやっている

夜中は冷えるからね

時間までカチカチになっちゃうからね


雪のひとつも降らないかなんて

馬鹿なことを言うもんじゃない

あんたが胡馬こばを気取るのは

雪も空気もあんたのくにじゃ

心底しんそこ冷たいからなんだ

故郷くにに行ってもあんたは多分

ふるえて声も出ないだろうに

おんなじように逃げてるくせに

下手へた見栄みえなどはらないで

風がまるいからこの街に居るんだと

素直に言えばいいじゃないか

寒い想いは絶対嫌だと

白状すればいいじゃないか


空気は重く沈んでいるが

猫のなき声は部屋の脇腹わきばらりながら

其処彼処そこかしこと走りまわ

やっぱりやわすぎる季節だろうかと

つぶやいてみる


こんな街の野良猫なんて

死にゃあしないから

なき声をあげているうちは

死にゃあしないから

ああやって、毎晩毎晩

死にゃあしないと声をあげているじゃないか

夜中は寒いけどね

夜中にはあんたの声がやたらと響いて

いつまで待っても朝が来ないんだ

だから、あんたとつき合って

こうして喋ってやっている


猫の泣き声は重い空気を練りはじめ

部屋はギシギシと

きしみを強くする

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