6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その15

【お知らせ】


 24時間配信に辿り着くまで予定よりも時間がかかりすぎているので、前回までのサブタイを『女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く』に変更させていただきます。

 次回から『7章 東北を観光するゲーム実況者達 その1』として章を改めます。


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 二度目の対局中、起家(チーチャ)での――つまり初(しょ)っ端(ぱな)からの親番。

俺は萬子(マンズ)の1~3を持っている状態で2をツモってきたが、それを切った。

 浮き牌は筒子の3で、それはドラのリャンピン――筒子の2――と繋がる。

 麻雀は基本的には同じ牌を三つか連番三つを系四つ、同じ数字の牌二つの雀頭を一つ集めて役を作るゲームだ。


 その役の中に同じ種類の牌の、同じ連番を作る一盃口(イーペーコー)という役がある。

 俺の選択はその可能性を自ら断(た)ったことになる。

 しかし2の牌で一盃口を期待してると、最悪1・2のペンチャン待ちになり、山に存在する可能性の低い3の牌でしか和了(あが)れなくなる可能性がある。

 麻雀では同じ牌は4つしかない。カードゲームの制限枚数みたいなものだ。


 ともかく俺は、和了りやすさとドラという得点アップボーナスを期待してリャンワン――麻雀では萬子の2をこう呼ぶ――を捨てたわけだ。

 しかし次にサンワンを引いてきた。萬子の2を捨てた後に、3を引いた。さっきの2があれば今頃は2・3と順子の種ができていたのだが。

 こういう場合、普通なら3も切ってしまう。3・7は麻雀における尖張牌(チェンチャンパイ)と呼ばれ、順子を作るうえでもっとも捨てられやすい1・2・8・9を拾うことがでるうえに、赤ドラと呼ばれる5の牌とも繋がる優秀な牌である。しかし麻雀では一度捨てた牌で和了る形を作るとフリテンというものになってしまう。その状態では相手の捨て牌で和了るロンが禁じられてしまう。

 仮にイーワンを引いてきて一盃口の芽が出てきてテンパイして、リャンワン待ちになったら自摸(ツモ)ることでしか和了れなくなり、可能性がぐっと狭まってしまう。


 ただしだ。残り二枚のリャンワンを引いてこれれば、再び一盃口の1と普通の順子になる4のリャンメン待ちになる。

 その確率はかなり低い。

 それでも――


 一度捨てたものを、取り戻せないだろうか?

 そんな考えが、俺の中で芽生えてきた。

 まな子を見やる。

 彼女はゲーム実況者であり、同時にプロゲーマーでもある。

 兼業できるのだ、この二つは。

 ごくりと唾を飲んだ。

 ゲーム実況者は、今のところ辞めるつもりはない。

 でも並行して、プロゲーマーをもう一度目指してもいいのではないか?

 最近はコツもつかんできたし、時間もある程度作れるようになった。その余暇(よか)を利用して、eスポーツの競技になっているゲームの特訓をしても……。


 気が付けば俺は浮き牌だったサンピン――筒子の3――を切っていた。


 そこからが地獄だった。

 北を挟んでドラのリャンピン、順子の完成形となるスーピン、筒子の4が来た。

 一方期待していたリャンワンは一向に来ず、おまけにイーワンもスーワンも――萬子の1、4――も引かなかった。一盃口の芽は元からなかったのだ。


 俺は思わず天井を仰いだ。

 もうどこにも行けっこない。この局は和了れないだろう、と。


 予感は的中した。

「ツモデス」

 13巡目、夢咲が自摸和了りをした。満貫、親|被(かぶ)りで4000点を取られた。




 夢咲の独走状態だった。

 以後の全ての局で和了(ホーラ)し、他を寄せ付けない打ちっぷりを見せつけてくる。

「……お前、本当に初心者?」

「そ、そのはずデスケド」

「盟友め、カンだけでなく地力(じりき)も備(そな)えていたとは……」

「さっきから見てた感じ、ゆめちゃんの打ち方はデジタルっぽいのです」

 麻雀の打ち手には主にツキや流れを重視するオカルト派と、確率と牌効率を重視するデジタル派がいる。

「初心者で強いデジタル派とか、そっちの方がオカルトだろ……」


「クククッ、何を二人で歓談している!?」

 高らかな声で問うてきたまな子から、高得点演出。

「ツモッ! 立直(リーチ)、メンゼン、混一色(ホンイツ)一気通貫(イッキツウカン)、ドラ四ッ!! 十一の刃を食らうがいいッ!!」

 十一のなんちゃらというのは11飜(はん)のことだろう。麻雀の役におけるランクみたいなものだ。

 


「いかなる逆境でもめげず、諦めず勝負する! それが冥王たる我の信念であるッ!!」

「……いやだから、ここ公共の場だからな? 時と場所を考えろよ」

 とはいえ、まな子の姿勢は間違っちゃいない。

 今はとにかく、目の前のことだ。




 次の局、俺は勝負に出た。

「カンッ!」

 開始早々、夢咲ではないが、カンを一発。

 刻子がもう一つでき、次に同じ牌が来るや否や――

「カンッ!!」

 またも暗槓(アンカン)。さらに……

「カンッッッ!!」

 三槓子が完成した。

 しかしまだ終わらない。

 正直、麻雀ではまともにやって夢咲に勝てる気はしない。

 ならば力づくでも高めであって、しかもそれで同じぐらい点数の低いコイズミを飛ばして対局も終わらせる――。

 それが俺の狙いだったが。


「立直なのですー」

 そのコイズミから、立直がかかった。

 誰もが背に冷や汗をかいたことだろう。

 カン三回、裏も合わせて計6枚のドラが存在する。

 こんだけあれば、一枚ぐらいドラを持っていて当然である。下手したらドラが重なって数え役満になる可能性だってある。

 二位のまな子は無論のこと、トップの夢咲だって食らいたくないだろう。

 捨て牌は必然的に打ち方は防御寄りになる。


 しかし俺は、今更引き下がれない。

 捨てられる牌は四枚、しかも三枚が同じ種類だ。

 ゆえに取れる手は、これだけだ。

「カンッ――!!」

 四回目のカン。


 まな子が引きつった顔で自身のスマホ画面を凝視する。

「四暗刻単騎(スーアンコウタンキ)、四槓子(スーカンツ)……?」

「トリプル役満のテンパイなのですねー」

 対照的にのほほんとした顔のコイズミ。

「えーっと、どういうことデス?」


 きょとんとした表情の夢咲にコイズミが説明する。

「麻雀には鳴かずに四つ刻子を作る四暗刻と、雀頭で和了るダブル役満の四暗刻単騎、それとカンを四回してから雀頭をそろえる四槓子っていう役満が存在するのですよ」

「その可能性を引き当てるとは……見事である」

 珍しくまな子が俺への称賛をしてきたが、当然だろう。

 トリプル役満など天文学的といってもいいぐらいの、レア中のレア。たまたま投げた石に落雷が当たるような確立である。


「……俺は、この局で勝利するッ!」

 宣言と同時に嶺上牌を捨てる。

「クククッ。その心意気や、よし! 我も受けて立とうぞッ!!」


 そう言ってまな子は危険牌である白を手牌から切った。

 途端。

「それ、ロンなのですよー」

「なっ……、なにぃッ!?」

 カットインと共に、コイズミの手牌が倒される。

 画面に表示されたのは立直、混一色、三暗刻、小三元、役牌2、赤1とドラ23――

「60符34飜、数え役満。親につき48000点直撃なのですよー」

 俺とまな子はあんぐりと口を開け、得意満面の笑みを感情を失(な)くして長いこと眺め続けていた。


 結局この一局も、コイズミがトップで終わった。どうなってんだコイツ。


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【次回予告】


夢咲「……サブタイ変更って」

生流「もう何も言う気が起きないな。修正作業はかなり面倒だったらしいぞ」

夢咲「一話ごとにサブタイを別々につけていればよかったんじゃないデスカ?」

生流「今更どうすることもできないだろうけどな」

夢咲「冒頭のお知らせで次回タイトル出ちゃってマスシ、今回は予告のお仕事もないデスネ」

生流「たまにはのんびり休むのもいいだろ」

夢咲「あ、明日も作品は投稿する予定デス。プリーズ・ルック・フォワード!」


※なろうで感想をくださった方、ありがとうございます。

 大変励みとなりました。これからも頑張っていきます。

 いただいた誤字の指摘箇所は、修正させていただきました。

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