6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その14

「カンデス」

 三巡目。夢咲がツモってきた牌でまたも暗槓(アンカン)を作る。

 イヤな予感がぶり返してくる。

 しかもなぜか得てして、そういうものほど的中する。


 嶺上牌が手牌(てはい)の真横に置かれてすぐ、和了(ホーラ)エフェクトが入り。

「ツモデス!」

 手牌が無駄に迫力のある|SE(サウンドエフェクト)と共に倒された。

 立直(リーチ)、門前清模和(メンゼンツモ)、三暗刻(サンアンコウ)に三槓子(サンカンツ)、嶺上開花(リンシャンカイホウ)。

  超高めの手――しかも夢咲は親である。

「ろっ、6000点オール……!?」

「しかもまた嶺上開花なのですぅ」


「あ、あのぉ、ミー何かしちゃいましたか?」

 頭を掻いて半笑いの夢咲。まるで自覚なしといった感じである。

「……勝てる気が、しないな」

「みーもなのです……」

 意気消沈する俺達の横で、「ククク」と声が上がる。

「情けない、情けないぞそなた等」

「そうは言うが、ツキのあるヤツが相手じゃどうしようもないだろ?」

「クーッハッハッハっ! 愚(おろ)か、愚かであるぞ生流伯爵ッ!!」

 何かスイッチでも入ってしまったのか、やたらとテンションの高いまな子。俺達は気持ち彼女から距離を取る。

「|月(・)とは|夜(よ)の統(す)べる常闇が占有するものであるっ! いまいちど、我がヤツのツキを奪って進(しん)ぜよう」

「……まあ、ぶっちゃけ今は誰でもいいからあの勢いを止めてほしいな」

「同感なのです」


 次の局が始まり、新たな手牌が画面に表示された。

 期待して見やるも、がっくりとしてしまう。

 イヤな配牌だ。牌にまとまりがなく順子も刻子もほぼない。相当引きがよくないとテンパイにすらもっていけないだろう。

「……せめて九種九牌だったらなあ」

「口に出しちゃうほど、運が悪いのです?」

「ぶっちゃけ国士を狙いたい。でも遠いなあ」

「普段の生流サンからは考えられないほど弱気デスネー」

 にやにやと笑う夢咲。大方、『ランブル』で勝てないからその仕返しができてていい気味だとでも思っているのだろう。

「そういう夢咲は配牌よさそうだな……」

「フッフッフ。この手牌で負ける気がしマセンネ」

「マジかよ……」


 夢咲は鼻歌混じりに牌を切り出す。

 索子(ソーズ)の7――尖張牌(チェンチャンパイ)。いきなり重要な牌を切ってきたということは、ほぼ手は完成しているのだろう。

 あるいは萬子(マンズ)か筒子(ピンズ)で染めに来ているのか――。


 戦々恐々しながら待つこと一巡後。

 今度の捨て牌は手からの索子の8だ。麻雀では順子(シュンツ)という連続する三つの数字――1~3、5~7など――を作ることを目的の一つとしている。

 その準完成形である7,8を連続で手牌から出してきたとなると、染めなどの高めの手を作っている可能性が――


「クックック、その牌――我(わ)が手の和了(あが)り牌なるぞ」

「えっ……?」

 高得点エフェクトが入り、まな子の手牌が倒される。

 その手牌、眩しいぐらいに全ての牌が緑色だった。

「ロンッ! オールグリーンッッッ!!!!!!」


「「りゅっ、緑一色(リューイーソー)!?」なのです!?」

 俺とコイズミはほぼ同時に叫んでいた。

「……って、なんデスカ?」

 一人きょとんとした顔で首を傾げている夢咲。


 俺は冷や汗をハンカチ――女装した時に持つ、レースのついたもの――で拭(ぬぐ)って、説明した。

「緑一色ってのは、役満って呼ばれるすごい高い得点の役の一つだ。緑色の牌だけを集めて完成する。まな子が言ってたみたいに、オールグリーンとも呼ぶな」

「ククク。我が力の前に、跪(ひざまず)くがいい!!」


 親の夢咲に16000点、俺とコイズミから8000点がまな子へと移る。

まな子の持ち点が一気に43800まで増え、トップに躍り出た。

「クハハハハハ! 天下は我のものなり!! 者共、頭(ず)が高いぞ! えぇい、控ぇい控えおろう!!」

「少し静かにしろよ……。っていうか、調子に乗ってたら痛い目見るぞ?」

「慢心せすして何が王かっ! それに我が威光を食らう者がいるというなら、一目見てみたいものよ」


 平家物語でも語られているように。

 いくら力のある者でも、いつかは勢いの衰える時が来る。

 もしもその事実が永遠不滅のものとなるならば、それは世界の終わり――ゲームセットの瞬間だけだ。


「ロンなのです」

 次の局、二巡目にコイズミがダマでまな子から出和了りした。

 しかも高得点確定のエフェクトが表示されている。

 まな子は一瞬顔を強張らせたが、すぐに例のごとき笑いを漏らして言った。

「ま、まあ、よかろう。今はひとたび、そなたにこの地の支配権を譲ってやろうではないか」

「別にそれはいらないのですよ」

「いらぬとは、何ゆえ?」

「だって、天下はもう終わるのですから」

「は――?」


 まな子の捨て牌はイーピンだ。

 加えてコイズミの余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な口ぶり。

 ……俺は最悪な予感を覚えた。


 倒された手牌を見た瞬間、さっとまな子の顔の血の気が引いていく。

「そっ、そなた……その手牌は――まさか!?」

 コイズミの手には全ての1・9牌に、かつ字牌までそろっていた。

 彼女はにこやかに笑って言った。

「国士無双(コクシムソウ)――十三面待ちなのですよ」


「ダブル……役満」

 まな子は膝の上にスマホを取り落とし、たちまち陽光に焼かれたドラキュラのように白い灰と化した。

「ダブルって、どういうことデスカ?」

 首を傾ぐ夢咲に俺は説明した。

「ダブル役満は、通常の役満よりもさらに作るのが難しくて、ルールによっては役満の倍の点数になる。破邪麻雀もそれを採用してるな」

「じゃ、じゃあ、つまり……」

「64000点。しかも直撃だから、これで対局終了だ」

「ふっふっふー。みーの勝ちなのですー」


 三日天下という言葉があるが、まな子の場合は二巡すら保(も)たなかったわけである。

 俺は失意の底に沈む彼女にそっと手を合わせた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告】


夢咲「ゲーム実況者の麻雀って、見てて楽しいデスヨネ」

生流「だな。無茶苦茶な打ち方をするヤツもいれば、真面目な人もいるし」

夢咲「トークも麻雀中心の方もいれば、雑談される方もいらっしゃったり、十人十色デス」

まな子「ククク。麻雀という遊戯は、常に役満を狙うものである!」

生流「そんな猛者(もさ)はさすがに……、うーん?」

夢咲「いないと言い切れないのが、ゲーム実況界の怖いところデスネ……」


生流「次回、『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その15』だ」


夢咲「ちなみアワセ(作者)サン、徹夜するぐらいにネット麻雀にハマっちゃったらしくてデスネ」

生流「……わかる。麻雀ってすっごく面白いもんな」

夢咲「プライベート・タイムがほぼそれ一色に占(し)められていたので、、今日からは一旦やめることにしたそうデス」

生流「別のゲームもプレイしたいだろうし、何より取材|(動画視聴)もあるだろうしな」

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