第29話「城を出て街へ行こう①」
愛する嫁、漆黒の魔女イシュタル。
同じく愛する妹、禁断の妖精エリザベス。
ふたりの超絶美少女をはべらし、
もうひとり、愛はほぼないけれど逞しき戦女神のような麗人もはべらせ、
俺は茶の湯風なスペシャル朝食を食べ終わった。
今の俺はアルカディア王国第一王子アーサー・バンドラゴン。
つまり異世界転生し、信長スキルがたっぷり加わり、
超ビルドアップした俺、雷同太郎。
でも辺境の弱小国、更に身内から命を狙われるぼっち王子という、
明日の命をも知れぬ危機的運命。
でも女子運だけは、どん底から奇跡ともいえる大逆転勝利だった!
そんな俺は、先ほどから自室で考え込んでいた。
今日の午後には……
平手爺やことマッケンジー公爵から、
林佐渡こと宰相オライリーの調査報告がある。
オライリーが大嫌いなマッケンジーは、満面の笑みを浮かべ、
たっぷりと運んで来るに違いない。
俺を殺そうとした陰謀の密書を始めとし、贈賄の証拠品をわんさか山ほど。
証拠品が届いたら、マッケンジーと共にそれらの検証をしなければならない。
だから王都ブリタニアの視察は、午前中のうち「さくっ」と済ませておきたいのだ。
うん!
俺はその王都視察をするにあたり、事前にしっかりと情報整理をしたい。
入れ替わる前のアーサー王子の知識と、新たに加わった俺、雷同太郎の新たな判断、チートスキルとの3つを刷り合わせし、実行可能な施策を確認しながら。
アルカディアのような弱小王国でも、どんな大国でも、変わらない。
国を発展させる為には必須の条件がある。
大まかに順番をつければ、まずはダントツで経済、
次に情報、続いて人材、最後に軍備といったところか……
もし信長に
先だつ物はまず金!
第一に金、第二に金、三四がなくて、五に金なのだ。
ズバリ!
信長が戦国で勝ち抜けたのは、財力が原因だと言い切って過言ではない。
祖父、父から津島の海運事業を引き継いだのを皮切りに、
どんどん有効な経済政策を実施した。
関所の廃止、楽市楽座の施策、堺や大津など当時の有力商業都市の直轄化等の政策を見てもはっきり分かる。
次に大事なのは情報。
桶狭間の際、実際に今川義元を討ち取った服部子平太、毛利新介よりも、
敵の所在に関して有益な情報をもたらした
まあ、こちらも『金』が重要だと言える。
いつの時代でも大切な『情報』収集には金がかかるのだ。
家臣を使っての諜報活動は経費はかかるし、
それ以上に、外部の情報屋みたいな
莫大な金を求められる……
人材の確保だってそう。
働きに見合う充分な報酬を払わねば、金の切れ目が縁の切れ目、
人はどんどん離れて行く。
金の代わりに精神論を振りかざして不当な扱いをすれば、即下克上。
家臣に背かれ、切腹もしくは捕まって打ち首となり、ジ・エンド……
ちなみに信長は、宿舎の本能寺を配下の明智光秀に襲われ、
燃え盛る炎の中で切腹。
むむむ、下剋上。
基本的には好きな言葉だが、今は大が付くほど嫌いだ。
王が味方に裏切られるなんて!
俺は、そんなの絶対に嫌だ!
ごめんこうむる!
『本能寺の変』の際、信長は「是非に及ばず」と言い切って死んだという。
彼は潔く、桜が散るように炎の中で美しく死んだ。
だが、俺はまだ死ねない。
転生し、別の異世界へ旅立ったアーサーとの約束を守る為に。
そして
さて、話を戻そう。
発展条件の最後にあげた軍備だって金が全て。
現代より簡素とはいえ、兵を雇うのは勿論、装備を手立てしたり、動かすのだけでも莫大な金が必要なのだ。
豊富な資金力があって大軍を動かせたのは勿論、
信長軍自体の大部分が金で雇った寄せ集めの足軽達だった。
そして信長軍は、画期的ともいえる、今までにはない専業の軍隊でもあった。
農業と兼務していた、当時の農民兵とは全く違っていた。
その為、兵の数を常に揃える事が可能だったし、
他の大名が戦えない農繁期でも存分に戦えた。
結論!!!
何につけても、最大の武器は『経済力』
よし、決めた。
信長を見習おう。
彼の施策で使えるものはそのまま踏襲する。
そして俺のラノベ知識が活かせるものは大いに使う。
まずアルカディア王国の経済発展、バンドラゴン家の財政強化を考える。
そして、施策として考えている事をまとめながら、
我が王都ブリタニアを、自分の目で見ておこう。
考えがまとまった俺は、部屋前に控えている御付きの騎士に声を掛けた。
転生してすぐマッケンジー公爵と共に会った、
エリック・マイルズという若い騎士だ。
先ほどは、俺と共に襲撃者と戦った。
アーサーに幼い頃から仕えているエリックは実直な性格である。
且つ武技に優れた青年騎士という趣きであり、そこそこのイケメン。
最初に直感した通り、異世界信長ワールドの役回りとしてはややおとなしめな前田利家といったところか。
「おい! エリック、おるか?」
「はっ、ここに! 王子のお
エリックは、呼べばすぐ「ワン!」と答える忠義者。
つい犬千代っていう、利家の幼名で呼びそうだ。
マッケンジー公爵同様、俺がワイルドに変貌したのが嬉しいらしい。
まあ、仕えるのが信長だったら、部下としては惚れないわけがない。
「犬千代じゃない、エリック! 午前中、俺はブリタニアの街を視察したい。供をしてくれ」
「ぎょ、御意! かしこまりましたっ!」
「領主の身分を隠して行くから、目立たない格好で行くぞ。至急侍女に命じて用意させい!」
「は!」
ブリタニアに関しては、貰った様々な記憶と知識がある。
だから、アーサー王子は生まれ故郷の街を散々見ていただろうが……
やはり俺も自ら直接見ないといけないと思う。
こうして、俺は初めて王都ブリタニアの街を視察する事にしたのである。
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