第24話「デレ嫁、デレ夫①」
イシュタルの侍女兼護衛役オーギュスタとのアームレスリング勝負終了後、
そのままイシュタルの居間で食事をしてから、ある申し入れがあった。
それが何と!
イシュタルから俺へ……
「ふたりきりで、一緒に寝たい……」って、
誰にも聞こえないよう、「そっ」と
その3時間後……
ここは、俺の寝室である。
今……俺とイシュタルはふたりっきりだ。
周囲の部屋にも他人は居ない。
完全に人払いをしたので、護衛の騎士も侍女も下がらせてある。
イシュタルが意を決して同衾の申し込みをしたのは……
多分俺が、「侍女のオーギュスタを嫁にする」というコメントが、
焼き餅みたいに心へ残っていたに違いない。
そして二度と故国アヴァロンには戻れないという事実。
または覚悟を決めたに違いない。
イシュタルと抱き合う前……
先ほど俺へ『愛』を告白したエリザベスの事が頭によぎったが……
やはり彼女は実の妹。
結ばれるわけにはいかない。
というわけで……
俺とイシュタルはしっかり抱き合った後……結ばれた。
心と身体、あらゆる意味で、夫婦になったのだ。
頼むからイシュタルを、チョロインって言わないで。
ここは西洋風戦国の世界。
最初に政略結婚っていう下地があった。
さてさて、それにしてもエッチなんて俺は未経験。
イシュタルも同じらしい。
お互い全く初めて……だったので、中々上手く行かなかった……
お互いの身体をおそるおそる触れ合い……ぎこちなく抱き合い……
試行錯誤の末、何とか『愛の行為』が終わった……
そして、ふたりとも……
一糸もまとわずに仰向けに寝転がり、手だけしっかりとつないでいる。
「不思議なものですね……アーサー様」
「ぽつり」とイシュタルが呟いた。
当然ながら、俺も同意。
というか、彼女居ない歴17年、没個性のブタローである俺の場合、
何度も言うけれど、結婚出来た事自体が『奇跡』なのである。
「ああ、そうだな」
「少し前までは何の縁もゆかりもなかった女と男が、こんなにも近しく感じられるなんて……」
成る程、そういう意味か。
確かに、それも同意だ。
俺だって、こんな『不思議な感覚』を味わった事はない。
女子と付き合った事もなかったブタローには、
大自然の驚異?以外の何物でもない。
「アーサー様ぁ……」
でも……
繰り返し俺の名を呼ぶイシュタルを、「そっ」と抱けば、実感する。
未体験の柔らかく温かい、すべすべした肌の感触がある。
やはり、俺は結婚したんだと。
え?
思いっきり爆発しろ?
ああ、何とでも言ってくれ。
リア充で、爆発でも何でもしてやる。
俺の胸の中で甘える可憐な嫁が、とても愛しくなって来ているから。
「うん! 俺もだ。イシュタル、お前が愛しい。なくてはならない大事な自分の一部分のような気がする」
「うふふ、そう仰って頂けると凄く嬉しいです。私も同じですから」
「で、あるか」
「はい! 夫婦になるという事はこういうものなのでしょう」
「だな。でも王族同士の結婚は普通とは違う」
ふと思った事を口にした俺。
イシュタルが言葉尻を捉えて聞いて来る。
「普通とは違う?」
「先ほどイシュタル、お前が言った通りさ。見ず知らずの者同士が国の都合、親の都合、兄弟の都合でいきなり結ばれる」
「成る程。私達の場合は完全に政略結婚ですよね?」
「ああ、もろそうだ」
「……では普通とは、一体どのような結婚なのでしょう?」
王族貴族と、一般庶民の結婚の違い……か。
俺は思うままに教えてやる。
「うん、最初の見ず知らずは変わらない。だが会ってこのように、いきなり結婚する事はほぼない。徐々に気持ちを確かめ合うのだ」
「徐々に気持ちを?」
「ああ、それで果実が少しずつ熟すように気持ちを高め、やがて最高の時期が来たら……結婚してくれと、どちらかが申し込む。まあ男の方からが多いかもしれんがな」
「結婚してくれ……それが、本来のプロポーズというものなのですね」
「ああ、だから俺とお前がもしも平民同士だったら、まだ挨拶程度なのは間違いない、つまり完全に赤の他人同士だ」
「挨拶程度、赤の他人同士……うふふ」
「はは、面白いか?」
「はい! しかし、今や私とアーサー様は赤の他人ではありませぬ。心も身体も結びついた真の夫婦でありますもの」
「おいおい、真の夫婦って……身体はともかく心はどうだ?」
「心も……完全に参りました! 面白い最高のプロポーズもして頂きましたし」
驚いた!
改めて思うけど……
たった3時間前には、俺に会おうともしなかったこの子が、ここまで言う?
これが、世間で言うデレってモノ?
前世の俺は女子に、全く縁がなかった。
彼女達の考え方、行動に関しては、全ての初体験。
だから、凄く新鮮なのだ。
ならば俺も、イシュタルがどう答えるか、
分かっていながら聞いてやる。
これがリア充の特権?
「イシュタル」
「はい!」
「俺に参ったのか?」
「はい! アーサー様にしてやられました」
やはり、予想通りの答えだ。
ならば、こう切り返してやる。
「してやられたのは、お前だけじゃない、オーギュスタも。いや、お前のオヤジ殿もそうだ」
「私の父が……してやられた……のですか?」
「そうだ! どうせ、アーサーのようなひ弱な男は喰い殺してやれとオヤジ殿に言われ、嫁いで来たのだろう?」
ああ、目に浮かぶ。
イシュタルの嫁入りが決まった時……
彼女の父アヴァロン魔法王国国王アルベール・サン・ジェルマンは、
愛しい娘へ厳命しただろう。
もし隙があれば、いつでもアーサーを刺して命を奪って来いと。
まあ、イシュタルは魔法使いだから、魔法で殺せと言ったかも。
故事で伝えられる、短刀を帰蝶へ託した、あの斎藤道三のように。
但し俺を殺したら、イシュタルの命もない。
いくら高名な魔法使いでも多勢に無勢。
王子を殺した刺客は、容赦なく無残に殺されるだろう。
父王から見て、イシュタルは……所詮捨て駒なのだ。
「……はい」
案の定、イシュタルは静かな口調で肯定した。
故国の為に、死んで来いと言われた事を。
俺は微笑んで言葉を続ける。
「まあ……オヤジ殿にどう命じられて嫁いで来たのか、大方想像は付く。イシュタルよ、お前ひとりでアルカディアが盗れるのなら安い物だとでも言われたか?」
「…………」
「ははははは、やはり図星か? しかし本当は違うぞ」
「え?」
俺に違うと言われ、意外だったに違いない。
イシュタルは驚いて、大きな漆黒の瞳を真ん丸にした。
真っすぐに俺を見つめる。
「ち、違うのですか?」
「おう! お前のオヤジ殿はな……実は別離の悲しみに耐え、涙を無理やり隠し、愛するお前を送り出したはずだ。……俺はそう思う」
「アーサー様……」
「イシュタル、お前と話し、愛し合い、俺には良く分かった」
「…………」
「アヴァロン漆黒の魔女と敬い称えられても、お前は全然普通の女子だ」
「アーサー様……」
「俺はな、素の優しいイシュタルが大好きだ」
「…………」
「だから俺の前では、素のままで居ろ。俺もお前には素のまま、本音で接する。それが一生連れ添う真の夫婦というものさ」
「ア、ア、アーサー様ぁ! あああああっ!!」
イシュタルは俺の言葉に心を揺さぶられたのだろう。
己の気持ちをはっきり見せ、大きな声で叫んだのであった。
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