第4話「管理神? 否! 邪神降臨②」

『そうだよ、今思った通り、タロー、おめえは赤の他人へ転生するんだ』


『赤の他人へ?』


『おうよ! ちょうどこの王国在住である地方領主の息子が死んだから、奴と入れ替えでなっ!』


 ロキはそう言うと、嫌らしくニヤリと笑った。


 え?

 今思った通り?

 

 もしかして……

 俺の心の中、読まれてる?

 それが本当なら、さすが神というだけの事はある。


 まあ、良いや。

 と、更に俺は尋ねてみる。


『お、俺が? ち、地方領主の息子と入れ替えって? もしかして良く読んでたラノベみたいな話ですか?』


 俺は必死に、

 過去に読んだラノベの記憶を手繰り、ロキへ尋ねた。

 何故なら、ロキが告げたパターンの話はた~くさんあるんだもの。


『ああ、おめえが転生するのは、単なる地方領主のお気楽な跡取り息子だ』


『……単なる地方領主の、お気楽な跡取り息子……』


『おうよ! タロー、おめえは、のほほ~んと楽して暮らせるぜ』


『のほほ~んと……ですか?』


 う~ん、

 俺の勘が告げていた。

 コイツの名は『ロキ』だし、うのみにしない方が宜しいと。


『それと! おめえの記憶を読ませて貰った。だから嗜好は、ばっち把握したぞ!』


 え?

 記憶を読むとかって?

 やっぱ、心の中とか覗かれてるじゃん!


 じゃあ今、疑ったの……ヤバイかな?


『え? 俺の記憶? じゃ、じゃあ!』


『そうだよ! おめえのだ~い好きな異世界転生を特別に体験させてやる!』


『お~、異世界転生ですか? 確かに死んだままじゃ、つまんないし、何卒宜しくお願い致します』


『了解だぁ! ひゃはははは! ついでによぉ、おめえの陰キャなくら~い性格も180度変えてやる!』


『え? 性格も180度? それってどういう意味ですか?』


『ああ、おめえ心にあった、憧れる信長様って奴、そのものにしてやるぜ!』


『ええっ!? 俺が? 信長そのもの?』


 お~!

 それはラッキー。

 

 つい喜んでいたら、ロキの奴、親切にもダメ押しして来やがった。


『おうよ! 剛毅果断ごうきかだんな性格にしてやる!』


『剛毅果断って、すなわち……意志が強く、物事にくじけない事……ですよね? 確かに意志薄弱いしはくじゃくですぐ諦める俺とは大違いっす』


『おうよ! 他にも、大胆不敵、即決即断、忍耐強い、早口で雄弁、まだまだあるけどよ! 陰キャ、愚図で超臆病なお前とは真逆だよ!』


 ああ、言いたい放題。

 でも俺は反論出来ない。

 

 まあ信長の性格にして貰えるのなら嬉しい。

 俺は、自分の性格が大嫌いだから。

 尊大とか、せっかちとか、

 いろいろ短所はあるが、信長の性格の方が数万倍マシだ。

 

 そして俺はロキへ頼みたい事がある。

 いちばちかだ。 


『ま、まあ、俺がダメダメなのは充分自覚してますけど……ひとつお願いしても大丈夫っすか?』


『は? 何だよ、お願いって』


『ロキ様のお力で、日本の中世戦国時代に転生とか、本物の信長様の部下にして貰えないですか?』 


 俺が尋ねると……ロキは無言、無表情。

 何か、空気が微妙。


『…………』


 対して俺も同じく無言。


『…………』


 やがてロキは呆れたように冷たい笑みを浮かべ、


『タロー……おめぇは真性の馬鹿か?』


『は? 真性?』


『救いようのないアホって事だ。俺の風貌を良く見ろ、和風の雰囲気は皆無だろが!』


『確かに……金髪碧眼ですもんね。言葉だけべらんめえで、エセ江戸っ子みたいですけど』


『大きなお世話だ、バッカヤロ! というわけでおめえが行きたいっちゅう、日本の戦国時代は俺様の範疇外はんちゅうがい。そこまで高望みはしないこった』


『は……い。何か脱力しちゃいました……』


『落ち込むな、ま、い~じゃねぇか。おめぇの大好きな剣と魔法の世界へ転生出来るんだ。そこで信長になって大暴れ、最高だろよ!』


 ロキの言う通りかもしれない。

 上を見ればきりがない。


『ですね。割り切りました』


『よっし! じゃあ、タローよ、割り切ったご褒美に、俺様が特別に魔王の初期装備を付けてやる。上手く使えよ』


『え? 勇者じゃなく、魔王の初期装備?』


『ああ、魔王だ! 具体的にいえば、おめえのガタイと力を常人の10倍強くしてやる。それとスタミナと俊敏さも大幅ビルドアップだ』


『え? じゅ、10倍!? そんなん、に、人間じゃない』


『あはは、タロー。安心しろ、姿は人間のままだからよ!』


『それはありがたいっす。魔王の初期装備で容姿まで怖ろしい魔族になったら、街も歩けないっす。しゃれにならないっす』


『あはは、俺様を信じろ! 例えればおめえは人間の姿のままで鋼鉄の肉体。加えて疲れ知らず、素早さも兼ね備えた超人。すなわち魔王までは行かなくとも、人間を軽く超えた魔人って奴だぜ』


 おお、素直に嬉しい。

 魔王っていうから、とんでもない姿に変えられるかとビビってた……


『ま、魔人!? ……お、俺が魔人、す、すげえ! かっこい~』


『だろ? おめえは猛き魔人となる! 思い切り大暴れしろや! それに大サービスでおめえの記憶から創った信長スキルをフル装備でつけといてやる!』


『俺の記憶から創った信長スキル? フル装備って自動車みたいっす? あ、もしかして!』


 うっわ!

 信長スキルと聞いて、俺の胸が高鳴った。


 ロキは得意げに空中で一回転。


『おお! 剣技、射撃、弓、乗馬、水泳、相撲とか、実務に役立ちそうな奴ばかりだ。そうだ! 勘の鋭さ、頭の回転の速さ、合理主義、おまけで唄と踊りと、女にもてるってのもあったな』


 おいおいおい!

 特に!!!

 最後のスキルがすっげえ、気になる~~!!!


『え!? おおお、女に!? も、もてるう? ロロロ、ロキ様!!! そ、それ! もっと詳しく教えてくださ~いっ!』


『ぎゃはははは! 最も気になるスキルがそれかよ、このドスケベ! 歩く生殖器!』


『何言われても、ひ、否定出来ません。人生の中で一番嬉しいです、女にもてるスキルって』


『ま、自分の本能に忠実ってのは正直で良いぜ!』


『ありがとうございまっす!』


『俺様の見立てでは、信長スキルは、結構役に立ちそうだ。頑張って異世界で生き残れよ』

 

 おお、俄然やる気になって来た。

 前世で詰んでた分、取り戻してやるぜ~!!


『分かりましたっ! 日本の戦国時代はすっぱり諦めます! 俺、異世界で信長になり切ります!』


『おうよ! おめえの言葉遣いも今とは全然変わる。ひたすら強気で行くこった』


『了解しましたっ!』


『そうだ! あとふたつ! 本能と欲望に素直なおめえが大いに気に入った! 大サービスだ! まず最初、サトリの能力も授けてやる!』


『サトリ?』


『おうよ! サトリってのはな、相手の心を瞬時に読み、その上や先を行けるっていう、超優れ技だ! 応用もいろいろきくぜ!』


『サトリ……まるでニュータイプか、テレパシー能力みたいな奴ですね!』


『ニュータイプ? テレパシー? その表現はいまいち良く分からねぇが、多分おめえが思ってる通りだ!』


『はい! ありがたく頂戴しまっす』


『よっし! サービスふたつめ! 次は俺様も得意な、魔王の威圧だ!』


『ロキ様も得意な? 魔王の威圧?』


『おうよ! 睨むだけで、相手が金縛りになる、これまた便利な技よ!』


 睨むだけで、相手が金縛り?

 つまり戦闘不能か!

 それは、とってもありがたい!


『ええ、魔王の威圧……ありがとうございまっす。凄く役に立ちそうっす!』


『よっし! タロー、俺様が与えたスキルを忘れずガンガン使えよ!』


『了解っす! 何か希望が見えて来ました!』


『結構! ……じゃあタロー。俺様、疲れたからそろそろ行くわ』


『ええっ? 疲れた? も、もうですか?』


『ひゃは! おめえの子守りして、えらく疲れたんだよ!』


『むむむ……』


『へっ、寂しいか? でもよ、多分また会えるだろうさ』


『ええっと……寂しいと言うか、《もう会いたくないけど》すっごく不安です』


『大丈夫だって! これからおめえは入れ替わる地方領主の息子に会う。宜しく言っといてくれや!』


『え? 地方領主の息子へ宜しくって……ちょ、ちょっと。よくよく考えれば、俺と入れ替わるその人の事、ロキ様から全然聞いてないんですけど』


『このまま飛んでけ~! そしたら奴が待ってる! ノープロブレム! 俺様には分かる! おめえはいきなりの本番に強いタイプだ』


 いきなりの本番に強い!?

 

 全く根拠の無いアドバイスをした後……

 ロキは「自分の役目が既に済んだ!」とばかりに、

 「すうう」っと消えてしまったのである。

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