第5話「太郎、転生相手に出会う」

 異世界の管理神とうそぶいたロキと別れた後……

 俺は相変わらず大空を飛んでいた。

 奴曰はく……『このまま飛んでけ~』だと。

 飛んで飛んでひたすら飛んで行けば……

 俺が入れ替わって転生する『地方領主の息子』に会えるというけど。

 

 『地方領主の息子』って、一体、どんな人なんだろう?

 さっきロキと話した時に、記憶を手繰ったが……

 ラノベで良く登場する、『お人よしで温厚な貴族の子弟』って感じなのだろうか?


 ロキとは何故か、ぺらぺらと話す事の出来た俺であったが……

 本来の俺は結構なコミュ障である。


 初対面の俺が、上手く話してコミュニケーションをとる事は可能なのか?

 疑問に思ったが、その他の事象を含め、全く説明なし。

 

 ゲームの取説はほとんど読まない俺だが、

 今回は遊びではなく、人生がかかってる。

 予備知識なしでは、大いに不安がある。


 いつものパターンだが……

 とことん考えて、どうにもならなければ、開き直る。


 まあ、いいや。

 何とかなるってと。

 

 それに爆炎の魔法とか、転移魔法とか、一瞬にして回復する治癒魔法みたいに、

 けして派手ではないが、素敵なチートもいくつか貰った。

 

 中でも、常人以上の魔人だといわれたビルドアップされた肉体と、

 俺みたいな戦国マニアには待望の信長スキル。

 死ぬ前に送っていた超裏街道的な人生よりは、ず~っとマシになるはずだ。


 そして転生するのは小なりとはいえ、領主の息子。

 何となくしか想像出来ないが、生活だってガラリと変わる。

 間違いない!

 平民の俺は下級とはいえ、貴族になるんだもの。

 可愛い女性使用人にメイドさんの恰好でもさせようかという、

 ささやかな夢もある。


 とりあえず今は、大空の散歩を楽しもう。

 

 頬を「びしびし」叩く風を感じると……実感する。

 これは絶対に夢なんか見ているんじゃない。

 間違いなく俺は、大空を飛んでいるんだって!

 

 五感を備える身体がないのに、吹き付ける風を感じるのは凄く不思議だけど……

 この状況に焦ったが、よくよく考えれば、なかなか出来ない貴重な体験だ。


 と、その時。 

 

 何か不思議な、得体の知れない強い力が、

 「ぐいぐい」俺をある方向へと引き寄せている。


 ロキが最後に告げたセリフがリフレインする。


『このまま飛んでけ! そしたら奴が待ってる! ノープロブレム! 俺様には分かる! おめえはいきなりの本番に強いタイプだ』


 そうか、分かった!

 転生する相手が居る先へ、導かれてるって事だ。


 そんなこんなで……

 精神体である俺は、成層圏ともいえる、

 雲ひとつない高所を飛んでいたのだが……

 自分の意思ではなく、徐々に高度を下げて行った。

 

 地上へ「ぐんぐん」近付く俺が、ふと眼下を見やれば……

 とある森の中へ、真っすぐに向かっている。

  

 あっという間に森が迫って来る。

 

 ん?

 一頭の小柄な馬が木につながれている。

 

 そして木の根元には?

 誰かが居る!?

 

 ああ!

 男がひとり居た!

 ……倒れているのが見て取れる。

 

 これって……

 もしかしてあの男は木に登っていて、ズッコケ、落ちたりでもしたのだろうか?

 もしそうだとしたら……

 俺とは違う形だけど、なさけない現世とのオサラバ。

 

 まだ、そこそこ距離があるのに……

 ロキから貰った肉体補正のお陰なのか、視力がぐんと良くなった俺には、

 はっきりと見てとれる。

 倒れている男の様子が……しっかりと分かったんだ。

 

 うん!

 倒れている男は……かなり若い。

 多分、俺と同じくらいの年齢、少年であろうかと。

 簡素な仕様ながらも、見た事がない品のある服を着込んでいる。 

 

 これもすぐに分かった事だが……

 少年は既に息をしていなかった。

 可愛そうに、お亡くなりになっていた……

 

 そして、少年の『遺体』の足元には何と!

 俺と同じ精神体……

 

 つまり幽霊らしき者が、「ちんまり」と座っていた。

 どうやら……この『彼』が死んだ少年らしい。

 

 じゃあ、もしかしてこの少年が?

 俺が入れ替わる地方領主の息子?

 

 座り込む精神体の少年は、空を見上げると大きく手を振った。

 自分の方へ飛んで来る『俺』に、気が付いたようだ。

 

 やがて俺が地面に降り立つと、うんざりしたような表情で話し掛けて来る。


『おいおい、待ちくたびれたぞ、ようやく来たのか』


 少年は俺の事を知っていたようだ。

 多分ロキから聞いたのだろう。

 ず~っと待っていたらしい。

 

 改めて見やれば……

 やはり彼は日本人の俺とは全く人種が違う。

 完全に外人である。

 

 中肉中背、茶髪、細面、鼻は低く、唇はやや大きくて薄い。

 ダークブラウンの目が細く、少し垂れていて愛嬌がある。

 どこかの有名な某俳優に似ていると俺は思う。


 良く言えば、フレンドリーな。

 悪く言えば、平凡な。

 でも俺よりはず~っとマシな顔かも。

 

 全然エネルギッシュではないが……

 見る限り、いかにも人の好さそうな、優しそうな面影をした草食系の少年……

 

 だが、外見だけで人間は判断出来ない。

 どんな奴かも分からない。

 散々待たせた理由で、怒らせたらまずい。

 勝手が全く分からないので、ここは念の為……低姿勢&敬語で行く事決定。


 今更ながら日本語が通じるのは……

 『ご都合主義の異世界』という事で許して頂こう。


 閑話休題。


 仕方なく俺は、丁寧に深く頭を下げる。

 無難な対応って奴だ。


『ご、ご、ごめんなさいっ! お待たせてしてしまいまして! お、俺は雷同太郎と申します。それで貴方は?』


 盛大に噛んだ俺に対し、外人の少年は……


『うむ、貴殿が雷同太郎殿か? 話は聞いているだろうが、私がアーサー・バンドラゴンだ』


『アーサー・バンドラゴンさん? よ、宜しくお願い致します』

 

 はたから見れば、相当変だけど……

 

 日本人の俺と外人の少年は死んだ幽霊同士、微妙な雰囲気の中、

 挨拶を交わしていた。


 あれ?

 ついついスルーしちゃったけど……

 アーサー少年が告げた、話は聞いているだろうって何?

 

 いやいや!

 全然聞いてないって!

 ロキの奴、絶対に説明が面倒くさいと思ったのだろう。


 やっぱ、ダメじゃん!

 勝手が全然分からん!

 

 『お前はいきなりの本番に強い!』なんて真赤な大ウソだ!

  

 俺は頭を下げながら、超いいかげんな管理神、

 ロキへの怒りに燃えていたのである。

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