第6話「詰んだ人生、俺に任せろ!①」

 ここで俺は何だか違和感を覚える。


 ん?

 正対する幽霊少年が告げた名はアーサー……バンドラゴン?

 中二病の俺には、どこかで聞いた事がある名前だ。

 

 ええっと、ああそうだ。

 思い出した!


 アーサーって……

 あの円卓の騎士とか聖剣、聖杯で超有名な『アーサー王』じゃないか。

 

 でもほんの少し『苗字』が違う。

 

 確か、あっちはフルネームが……

 ええっと、ペンドラゴンじゃなかったっけ?

 

 うん!

 確かフルネームは、アーサー・ペンドラゴンだった。

 

 でも!

 ペンドラゴンじゃなくて、この少年はバンドラゴン?

 そう、アーサー・バンドラゴンだ。

 

 失礼な言い方だが……バッタっぽい。

 というか、名前がベタ過ぎる……

 

 そもそも、小説や映画に登場するアーサー王は、

 強く逞しく凛々しいと3拍子揃っている。

 だから、この少年は、はっきり言って名前負けしている……

 

 だって……

 目の前に居るのは偉大な英雄というより……

 中肉中背、平凡な外人の少年なんだもの。

 まあ、さえない俺よりは、ぜんぜ~ん、ましなレベルだけどさ。


 ……俺は、ここまでの記憶を手繰った。

 死んで、大空を飛んでいた時、

 管理神と名乗る邪神ロキに出逢った。

 

 金髪少年の姿をしたロキは、転生を望む俺を新たな世界へ送ると告げた。

 ダメ元で頼んだ、日本の中世戦国時代へ転生し、

 信長の部下になりたいという希望は、残念ながら却下されてしまったけど。

 

 しかも……

 ロキは転生にお約束の派手なチート能力はくれなかった。

 

 貰えたのは常人の10倍といわれた魔人レベルの頑健な肉体、身体能力。

 加えて『信長スキル』というマニア受けするスキルをくれ、

 サトリ、魔王の威圧というスキルも……

 

 中でも『信長スキル』は俺の臆病で弱気な性格を、剛毅果断に変え、

 信長が得意だった様々な特技もくれるという。

 

『あ、あの……アーサー様』


『何だ?』


『俺達、具体的にこれからどうするとか聞いてます?』


『いや、あまり詳しくは聞いておらん。私は本番に強いタイプだと言われてな』


 はあ?

 俺に言った事と、全く同じ事言いやがって!

 あいつ、ホント超いいかげんな奴だ。


 仕方なく俺は、このアーサー少年に対し、

 自分がここに来た以上の経緯いきさつを簡単に説明する事にした。


『ええっと、貴方と同じ幽霊状態だから分かるかもしれません。実は……俺って、一旦死んだんです』


『だろうな、そこまでは聞いている』


『はい! そうしたら……ロキって名乗る、すっげぇ怪しい奴から、貴方と入れ替わって転生するように言われたんですよ』


『ロキ? ああ、それはもしや神の事か?』


『神? はい、あいつは一応そう言ってました』


『ははは、一応か? まあ確かに、ロキ様は神にしては言葉遣いがハイカラで、とても調子の良い方だったな』


 ロキが神にしては言葉遣いがハイカラ?

 

 いや違う。

 あいつはハイカラなんて言葉遣いじゃない。

 ガラが超悪く、口汚い言葉をマシンガンのようにガンガン放っていた。

 

 そう、俺とアーサーが会ったあいつは、絶対に神じゃない。

 悪魔としか思えない。

 それに凄く横暴、且つ、超いい加減な悪魔なんだって。


 複雑な表情をする俺。

 アーサーは続けて言う。


『うむ、思い出した……ロキ様からは太郎殿の死んだ事情だけはざっくりと聞いた』


 ふ~ん、そうなんだ?

 じゃあ、少しアーサー王子の価値観って奴を探ってみるか。 


『成る程、俺って愚か者ですよね? 事件のとばっちりで、いいカッコした挙句、呆気なく死にましたから』


『いやいやけして愚か者ではない。太郎殿は人質となった女性を救う為、身体を張って戦った末の立派な死に方だ。いわば騎士らしい名誉の戦死だぞ』


 愚か者じゃなく、名誉の戦死か……

 あっちの世間で同情されて、かけられるであろう言葉とほぼ一緒。

 でもこれでアーサー王子が紳士的で真面目な事は分かった。

 

『う~ん……騎士らしい名誉の戦死ですか……』


『いや、太郎殿に比べれば、私なんか本当に情けない。たまには気晴らしにと登っていた木から、誤って落ちた。そのまま死んだ』


『えええっ? 木から落ちて死んだあ? そ、それは何と不運な……超が付くアンラッキーですね』


 ビンゴ!!

 やっぱり、俺の勘は当たった。

 

 だって!

 この人、いかにも運動神経なさそうだもん。

 でも、同じ運動音痴の俺が言ったら「目糞が鼻糞を笑う」って事だ。


 そんな俺に、アーサーは屈託のない笑顔を見せる。

 まあ、苦笑だけど。


『ははは、慣れない事はするもんじゃないな。だが死んでしまったものは仕方がない。それより話を戻そう』


『は、はい……』


『……太郎殿はこのまま私の身体に魂を移し、転生することになる。引き換えに私はもっと良い条件で、次の異世界へ転生出来るそうだ。ロキ様が約束してくれた』


 ロキが約束?


 あっ、そう。

 もう転生の話がついているのね。

 あいつ、ホント手回しが良い事で……


 だが……

 死んだらもっと良い異世界へ行けるなんて……

 

 どうせ、書面にした契約書なんかなくて、単なる口約束だけでしょ?

 詐欺さぎの臭いがプンプンする。

 話がうますぎて怪しい事極まりない。

 

 でも……まあ、

 このアーサーも、俺と同じ状況だったかもしれない。


 「たったひとつしか選択肢がないぞ」とか、ロキから散々脅されたんだろう。

 俺と違って、この人、凄く真面目で素直そうだし……

 つい、「はい!」ってOKしちゃったんだろうな。

 

 そんな事を俺が考えているとは露知らず、

 アーサーは俺に拝むように手を合わせて来た。


『見たところ、太郎殿は私よりずっと恰幅かっぷくが良くて強そうだし、頭も切れそうだ。我がバンドラゴン家を盛り立ててくれ、どうか頼む』


 は?

 恰幅が良い?

 物は言いようだ。


 もしかして……

 彼が見る今の俺の見た目が著しく変わっているとか、

 または顔の造作が、少しくらい底上げされたんだろうか?


 それにしても、我がバンドラゴン家ねぇ……

 ロキから聞いた話では……

 確か転生対象は異世界のお気楽な地方領主の息子。

 つまり地味な、下級貴族になるって話だった。

 

 まあ地方で下級貴族の息子ってのも気楽で良いか……

 ラノベでいくつか読んだ気がする。

 退屈な日常かもしれないが、

 中央のめんどくさい政権争いとかは、ほぼ関係ないだろうから。

 

 ……まあ良いや。

 もう少しアーサーに事情を聞いてみるか。


 という事でさりげなく、笑顔で質問。

 今後の事もあろうかと、アーサー少年を少し持ち上げておく。


『えへへ、アーサー・バンドラゴンって、すっごくカッコいいお名前ですよね。でもどこかで聞いたような気がしますけど』


『お、おい! 太郎殿、な、何を言っている! ロキ様から教えられていないのか? 聞いてはいないのか?』


『え、ええ……詳しい事は教えて貰ってません、貴方と入れ替わって、転生しろとだけしか……』 


 お前は、いきなりの本番に強い!

 だから説明無しでも、全然大丈夫とかさ。

 

 俺が事情を全く知らないと認識し、

 アーサー少年は少し不機嫌になったようだ。

 

 つまり『引き継ぎ』がしっかり出来ていないぞって怒りだ。

 でもそれは、俺のせいじゃない。

 転生に際し……頼んでもろくに説明してくれないロキ、

 あいつが超の付くいい加減なせいだ。


『むううう……仕方がない。じゃあ私から改めて太郎殿へ説明しよう』


『す、すんません。宜しく、お、お願いしまっす』


『うむ……我がバンドラゴン家はな、このアルカディア王国を統治する王族……いわゆる王家、私は第一王子だ』


『へえ、そうなんですか、第一王子なんですか、そりゃ大変ですね……って、おいっ!』


『ん? 太郎殿、おいって? いきなりどうした?』


『い、いえ! な、な、何でもありません!』


 お、王国!?

 アルカディア王国ぅ!?

 

 そこの第一王子!?

 このアーサーさんがぁ!?


 うっわ~。

 違う!!!


 あいつから、聞いていた話と全然違う!

 違い過ぎる!


 おいおい!

 確か神を名乗ったロキは、転生して入れ替わるのは、

 『単なる地方領主の跡取り息子』だと言っていた。

 

 それなのに、第一王子って……

 もしかして次期王様?


 と、言う事は……

 俺の運命が劇的に変わる?

 

 平凡でブサな単なる『いち高校生』から、

 王位第一継承者の高貴なる王子様へ、華麗なる転生!?


 うわあっ!

 上がり幅大きすぎ!


 ショックを受けた俺は、期待と不安が交錯し、

 大いに混乱したのであった。

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