第7話「詰んだ人生、俺に任せろ!②」

 しばし間を置き、改めて俺は深呼吸をした。

 目の前のアーサー王子から、いろいろな未確認情報を聞かされて、

 さすがに混乱している。 


 うん、今の俺は、精神体アストラル……

 すなわち幽霊のはずなのだが、不思議と胸が「どきどき」する。

 細かい事はもう考えず、

 そんな時はベタに深呼吸だと思い、やってみたら、何と簡単に出来た……


 そして、ようやく落ち着いたら……

 逆にえらくムカついて来た。

 

 ロ、ロキの奴ぅ~!

 話がちが~~う!!!


 「おめぇが転生するのは、お気楽な単なる地方領主の跡取り息子」に、

 とか言ってたじゃないか。

 あの、大嘘付き野郎! ペテン師! 詐欺師!


 しかもだ、凡人で単なるパンピーの俺へ、

 「いきなり王位継承して王家を盛り立てろ!」と言ってもだいぶ無理があるんじゃあ……

 

 仕方ない。

 とりあえず、アーサーへもっと詳しい事情を聞いてみるか。 


『あのアーサー王子……言い難いけど実は俺、貴族ではないっす。前世では、と~っても地味~な、何のとりえもない平民だったのですよ』


『何? 太郎殿が平民? そ、そうなのか?』


『そうっす! バリバリの平民でっす。だから、王子の引き継ぎしても果たしてお役に立てますかね?』


『ふうむ……』


『申しわけありませんが……予定変更出来るモノなら、自信ないからパスしたいっす』


 と、お伺いを立てると、アーサー王子の顔がみるみる青くなって行く。

 「今更、話が違う!」という感じだ。


『いやいや! 太郎殿! そんな事、言わないでくれ! 私の代わりになってくれ、頼む!』


『んな事言っても。俺……貴方が今まで生きてきた過去を全く知らない。王族の物言いは勿論、作法も分からないっす』


『ぬぬぬ……』


『このままでは、俺が入れ替わったら絶対にボロが出ますよ。一体、どうすれば良いっすか?』


 俺は思わず泣きを入れてしまう。

 これはズバリ本音。

 

 だって、現状のままでは余りにも情報不足。

 ロキから何の説明もなし。

 このまま入れ替わって、もしも俺が『偽者』だとばれれば……

 

 ざっくり! 

 市民の前で公開処刑されてしまうかもしれない。

 中二病の俺は、中世西洋の『死刑方法』も本で読んだ事があるけど……ぞっとする。

 

 うわ!

 折角転生出来たのに、すぐ死ぬ?

 

 さすがにそんなの嫌だ。

 いっそ、このまま逃げようか。

 身軽な幽霊のままで……

 悪霊とか浮遊霊と、後ろ指さされても構わないから。

 

 しかし、その辺はさすがに悪辣あくらつとはいえ神様のはしくれ、

 ロキはしっかりと考えてくれたようだ。

 アーサーが「安心しろ」と言うように、にっこりと笑った。


『大丈夫! 太郎殿が平民でも王族未経験でも心配無い! その解決方法もロキ様から聞いている』


『え? 解決方法を聞いているんですか? あいつ、俺には何の説明もなかったのに……』


『ああ、太郎殿には、未経験者大歓迎と伝えれば、バッチリOKしてくれるとも聞いている』


『は、はあ……未経験者大歓迎……で、あれば俺がバッチリOKする?』


 な、何があ!

 未経験者大歓迎だよ!

 どうしてバッチリOKだよ!

 どっかの求人広告じゃないか!


 と、俺が渋い顔をしていても、アーサーは笑顔だ。


『記憶の受け渡し方法も、ロキ様から、ちゃんと伝授されているぞ。男同士で嫌かもしれないが、私と手をつないでくれ』


『え? 手を?』


『ああ、私の持つ全ての知識と経験をお前に与えよう、注意すべき人物や事柄も全てな……』


 げげっ、引き継ぎの為に仕方ないとはいえ、

 確かに嫌だな……男同士で手を繋ぐのなんか……

 多分、幼稚園のお遊戯で、女子が足りなくて友達と手をつないだ以来だ。

 

 そんな俺の気配を察したのか「すまんすまん」と、

 アーサー王子は平謝りである。

 仕方なく、俺が恐る恐る手を伸ばすと、王子はしっかりと俺の手を掴んで来る。

 

 うわあ、でも、しゃあねぇ。

 一回覚悟を決めれば、後は開き直りだ!

 

 俺は『なけなし』の勇気をふるい、ア―サーと恐る恐る手をつないだ。


 すると!

 魔法なのか、何なのか……

 全く分からないのだが、

  

 うわ!

 すんげぇ!

 

 アーサー王子の記憶が、鮮明な映像付きで、俺の頭へ流れ込んで来た。

 まるでドキュメンタリー映画のように、

 アーサーのナレーション付きで語られて行く。

 

 俺は……改めて思い知らされた。

 とんでもなく厳しい状況を!

 

 アーサー王子の住むアルカディア王国は……

 周辺を大国のガルドルド帝国や、微妙な間柄の魔法王国アヴァロンに囲まれた辺境にある弱小国なのである。

 

 現在、やまいに臥せっている父王は40代半ば。

 病はなかなか回復せず、長きに渡って寝込んでおり、重くなるばかり……

 それゆえに早くも、『跡目相続』の話が出ている。

 

 しかも3つ違いの弟、次男の第二王子コンラッドが全てにおいて、

 アーサーよりも出来が良いと来た。

 なので、母親である王妃、宰相を始めとした家臣の大部分が、

 コンラッドを推しているようなのだ。

 

 逆に長男のアーサー王子に、味方は殆ど居ない。

 数少ない味方は、子供の頃からの御付きである公爵の爺やと実直な騎士数名くらいだ。


 ああ、この設定は、もろ同じ!

 父王は織田信秀、弟コンラッドは織田信行だろう。

 やはり中世西洋風の……『信長ワールド』なんだ。

 俺が信長の居る日本の中世へ転生するのが叶わなかった代わりに、

 ロキの奴、こんなに凝った設定を用意したんだろう。

 

 そしてまた、意外な事実が……

 驚いた事に、アーサー王子は既婚。

 既に、イシュタルという嫁が居たのである。


 はあ!

 生まれてから、彼女完全居ない歴17年のこの俺が!?

 

 いきなり結婚、というか既婚者かあ~~!!!


 ど、どこまで!

 超ドラマチックな人生なんだ!

 俺の心の中には、ロキの特徴ある高笑いが、

 はっきりと大きく響いていたのである。

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