第3話「管理神? 否! 邪神降臨①」

 凶暴なチンピラに刺され、意識を手放した俺が目覚め、気が付いた時……

 既に俺は『生身』ではなかった。

 そう……肉体が無い精神体アストラル状態になって、

 広い大空に居たのである。

 

 え?

 精神体アストラルって何の事だか分からない?

 

 今の俺の状態って、ええっと、魂だけとか……

 そう、実体がない『幽霊状態』だと言えば、分かり易いと思う。


 改めて辺りを見回して……

 

 何だ?

 この夢みたいな世界は!?

 って思ったよ。


 だって!

 俺は幽霊となって、だだっ広い大空を飛んでいるんだぜ。

 

 「ぐる~り」と見渡せば、周囲は素敵なパステルカラー、

 綺麗なスカイブルー一色なんだもの。

 

 思い浮かべてみてよ。

 ちぎれ雲ひとつない快晴ってさ、

 気持ちが思い切り「すかっ」と爽快になるじゃない?

 

 とっても感動した!

 所詮は現実逃避かもしれないけど。

 死んだ原因となった悲惨な事件の事なんか、思わず忘れてた。


 悲惨な事件……

 二度と思い出したくもない悪夢。

 

 そう、俺は……

 とんでもない事件に巻き込まれた。

 

 ちんぴらに絡まれた可愛いJKを助けようとして、

 逆に運悪く、被害者となってしまった。


 JKが助けを求める声が聞こえた気がして、

 思わずチンピラへ体当たりしていたんだ。

 そして俺は刺されて死んだ…… 


 でも……

 まあ、いいや。


 チンピラに囚われていた、あのJKは……多分助かっただろう。

 刺された俺を見て、驚愕して固まり、大きく目を見開いてた……

 凄く可愛いかったし、俺の分まで、元気に生きて欲しいと切に思う。

 

 死んだ俺は生き返るのは勿論、元の世界には戻れない。

 とりあえず今は、大空の散歩を楽しもう。

 

 頬を「びしびし」叩く風を感じると……実感する。

 これは夢なんか見ているんじゃない。

 間違いなく俺は、大空を飛んでいるんだって!

 

 五感を備える身体がないのに、吹き付ける風を感じるのは凄く不思議だけど……

 この状況に焦ったが、よくよく考えれば、なかなか出来ない貴重な体験だ 

 

 なので……折角のチャンスだと思い……

 空を自由に飛び回りたいと思って、手を「バタバタ」動かしてみる。


 しかし………残念ながら

 俺自身の意思は全く反映されなかった。


 「すいすい」と空をとんでいるだけ。

 つまり、単に流されているだけだった。

 ただ流されるのみって……まるで、無抵抗だった俺の人生と全く同じじゃん。


 「がっかり」した俺が、大きなため息をついた瞬間。

 

『ぎゃ~はっはっははははははははは!!』


 とても下品な笑い声が響いた。

 それも俺の心へ直接。


 え?

 何?

 誰?


 こんな高く広い大空に、幽霊になったこの俺以外誰が居るのいうの?


 と、思ったら……まるで俺の心をズバリ読んだように、


『ばあか! それが居るんだよな、この俺様がよぉ!』


『は?』


『こっちだよ、こっち、タロー! お前の、ま・う・え!』


『な、何?』


 驚いて真上を見上げた俺の視界には、10歳くらいだろうか、

 金髪碧眼の白人少年がひとり、宙に浮かんでいたのである。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今、置かれている状況が分からない。

 頭の中が混乱する……

 

 何故ならば、俺自身は遥か高き大空の真っ只中。

 

 片や、真上に、生身の人間が浮かんでいるなんて。

 それも外人さんの子供?


 もしかしてあいつは魔法使い?

 ラノベでお馴染みの西洋風異世界ならアリ?

 

 と、ヘビーな中二病の俺は思った。

 それとも?


 付け加えれば、いつの間にか俺の飛行も停まっていて、

 外人の少年同様、宙に静止していた。


 でもよくよく考えてみれば、すっごくシュール。

 雲ひとつない大空に金髪少年と一緒に浮かんでるなんて。


 まあ、良い。

 いろいろと聞いてみようか。


『ええっと……あ、貴方はど、どなた?』


『ふん! 俺様はロキだ! 愚かなる愚民め、よっく俺の名を憶えとけ!』

 

 ぬぬぬ、愚民だと?

 見てくれは、そこそこ可愛いのに、くそ生意気なこのガキンチョ。

 偉そうな超・上から目線。

 

 まあ神様だったら、仕方がないか……

 今の、可愛らしい少年の姿が実体とは限らないもの。 

 否、絶対実体じゃない。

 もしも実体だったら……世も末だ。


 でもロキって……

 北欧神話に出て来る、トリックスター、

 ずるがしこい邪神じゃないか。


 まあ、念の為に聞いておこう。


『ねえ、ロキ様って、もしかしてあのロキ様?』


『何だ、それ? もしかしてあのって?』


 まあ、良いか。

 何かヤバイ気配がするから、これ以上の深追いはNG。

 突っ込むの、や~めとこ。


『い、いえ、何でもありません。ところで俺……死んだんですね?』


『おう! おめえを刺した野郎は衛兵みたいな奴に捕まった。おめえは病院へ運ばれ、手当てを受けたが、死んじまった』


『やっぱ、そうなんですか?』


『おうよ! 俺様はよ、死んだおめえが、これから生きてく世界の管理神様だよ』


 管理神って?

 そうか!

 多分……

 ラノベの転生話に多く出て来る、異世界のレクチャーをしてくれたり、

 チートなんかをくれる神様だ。

 

 ロキは俺が刺された後の顛末をいろいろ話してくれた。

 衛兵みたいな野郎って……多分、警察官の事だろう。

 うん、刺された俺がその後どうなったかが、よ~く分かった。


『で、ロキ様』


『何だ?』


『もう少し聞きたい事が』


『あんだよ?』


『ええっと、俺が身体を張って、助けたJKはどうなりました? 彼女、無事に救われたんですよね?』


『ま、まあな……』


 何故か……

 ロキは少し口ごもった。

 

 思い起こせば……ロキの態度は、ちょっと変だとは思った。

 だが……

 その時の俺は自分の事で、精一杯だった。

 

 なので、質問を自分自身の事に切り替える。


『ところでロキ様、これから生きてく? 管理神様って? もしかして?』


『そうさ! 今思った通り、タロー、おめえは新たな世界で赤の他人へ転生するんだ。その世界の管理者が俺様よぉ!』


『赤の他人へ転生?』


『おうよ! ちょうどこの王国在住の、地方領主の息子が死んだから、奴と入れ替えで転生なっ!』


 ロキはそう言うと、嫌らしくニヤリと笑った。


 え?

 今思った通り?

 

 もしかして……

 俺の心の中、読まれてる?

 それが本当なら、さすが神というだけの事はある。


 まあ、良いや。

 と、更に俺は尋ねてみる。


『お、俺が? ち、地方領主の息子と入れ替えって? もしかして良く読んでたラノベみたいな話ですか?』


 俺は必死に、

 過去に読み込んだラノベの記憶を手繰り、ロキへ尋ねたのである。

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