第2話「JK助けて死んじゃった」

「きゃああああああああっ!!!」


 『片思いの君』幼馴染のコンビニマドンナちゃんが、大きな声で悲鳴をあげた。


 何事かと!

 驚いて店内を見渡したら……

 ひとりの女子がチンピラに絡まれている。

 

 それだけじゃない!

 チンピラはナイフをぶんぶん振り回していた。

 あっぶねぇ!!


 だからマドンナちゃんは悲鳴をあげたのだ。


 ヤ、ヤバイぞ、これは!

 本当にヤバイ!

 

 絡まれてる女の子はJKらしい。

 紺色の可愛いデザイン……

 見覚えはないが、どこかの制服を着た女子だった。

 

 何故絡まれているのか、原因は良く分からなかった。

 しかし……

 誰が見ても怖くなるほど、チンピラは目が据わっていた。

 何やら相当にヤバそうな雰囲気だった。


 いきり立つチンピラを刺激しないよう、野次馬根性で「そっ」と近付いてみたら、絡まれているのJKも、めちゃ可愛い女子だった。

 

 年齢は俺より、ちょい下くらいか。

 バイトちゃんとはまた違う、お人形のように可憐なタイプだった。


 チンピラはJKを無理やり連れ出し、往来へ出た。

 相変わらずナイフを振り回している。


 野次馬も移動して遠巻きにしているが、誰も助けに行かない。

 俺も含め、皆が見ていると……


「お願いっ! あの子を! あの子を助けてあげて!」

 

 麗しのマドンナ、幼馴染バイトちゃんのすがるような声。

 俺も含め、見物人の耳へ深々と響いた。

 

 だけどチンピラは、誰かが近付こうとすると、

 思いっきりナイフを振り回していた。

 

 下手に近付くと巻き添えを喰ってしまう。

 チンピラのナイフを喰らうのは真っ平だ。

 なので、俺を含めた店内の客は

 「早く、警察が来てくれよ」と、思っていただろう。


 そうさ、俺も所詮は『臆病者』

 凶悪そうなチンピラを見て、完全にびびってしまった。


 ホントに世の中、世知辛せちがらいや。

 誰もが自分に災難が及ぶなんて、

 絶対に御免被ごめんこうむるよ、って思ってる。

 

 何かあっても、殆どが知らんふりの傍観者。

 かくいうこの俺も、その中のひとり。


 あ~あ……

 深いため息をついた俺。

 

 臆病な自分が情けないのと、可哀そうなJKの様子を見ていられなくて、

 思いっきり視線をそらした。

 

 だけど……不思議な事に……

 怯えて嗚咽おえつしている、

 JKの声らしきものが、いきなり心へ聞こえたんだ。

 

『ねぇ! そこの貴方、助けて! お願いよ!』

 

「え?」


 思わずJKを見ると、「じっ」とすがるように俺を見つめていた。

 

 その瞬間!

 何故だか、勇気が湧いて来た。

 でも後から良く考えたら、愚かな『蛮勇』だった。


 今思い出しても……

 どうして俺は?

 って、その時の自分へ問い質したい。

 何故、そんな気持ちになってしまったのかって。


 誰もJKを助けに行かないなら、俺が行けばすっごく目立つ!

 『愛しのバイトちゃんへ、最高にカッコイイ所を見せよう!』 

 なんて気の迷いが起こってしまったのかな……


 だから俺は……

 一世一代の勇気を振り絞った。

 わけの分からない大声をあげて、チンピラに体当たりしていた。


 俺に体当たりされたチンピラはよろけ、案の定、逆上した。

 態勢を立て直すと、雄叫びをあげながら、俺を捕まえた。

 そして、ナイフで「ぶっすり」と何度も刺しやがった。


「おらぁ! 死ねやぁ!」


 見知らぬ男から発せられた、殺意をこめた叫びと同時に、

 激しい痛みが何度も俺を襲った。

 17年の人生を生きて来て経験した事のない、

 冷たい異物が身体へ侵入する感触が妙にリアルだ。


 あ、ああ、い、いてぇ!

 す・ご・く、いてぇよぉ!!!


「きゃあああああああっ!!」


 向かい側には、真っ青になり絶叫するJK。

 目を大きく見開き、「信じられないよぉ!!」って顔をしていた。

 JKは動かなかった。

 というか、どうやらショックで動けないらしい。

 

 お、おい!

 な、何、やってるんだ!

 君、叫んでないで、逃げろ!

 逃げろったら、逃げろ!


 俺は大声で叫ぼうとした……

 だが声は……まともに出なかった。

 かすれた唸り声が出ただけだ。


「う、う……」


 信じられないシーン。

 激しい痛みと共に、自分の身体のあちこちから、真っ赤な血が噴き出していた。

 「ぶしゅ」って、音を立てて……


「「きゃあああああ~~っ!!」」

 

 俺が刺されたのを見て……

 脅されていたJK、野次馬と一緒に居たらしき、

 バイトちゃんの張り裂けんばかりな悲鳴が響く。

 

 当然、大騒ぎとなり、店長がすでに警察へ通報していた為、

 駆け付けた警官がチンピラを即逮捕。

 

 俺は救急車で病院へ運ばれたが……

 刺された箇所が急所に近く、呆気なく死んでしまったらしい……

 

 らしい……

 と言うのは後からある人物に

 ―――否、人あらざる存在から聞いた顛末だから。

 

 あの血が噴き出すシーンは鮮やかだったが、俺はすぐ気を失ったようだ。

 だから、その先の記憶が無い。


 死ぬって……こんなものなのか?

 天国とか、地獄なんてない……一切が無なんだ……


 最後に耳にした、助けたJK、片思いだった幼馴染みの悲鳴が、

 はっきりと耳に残っていた。


 永遠に、さようなら……

 

 別れの言葉を呟いた、俺の意識は……

 どこかへ飛ばされてしまい、

 何も考えられない『無の存在』になっていたのだった。

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