第1話「平凡な俺に大事件発生!」

 俺は雷同太郎、17歳。

 日本の某所に住む高校2年生。


 顔はいたって平凡、運動神経は並みの下。

 何ら特徴のない、どこにでもいる男子。

 

 つまり集団の中のワンオブゼム。

 以前〇〇君を探せって、間違い探しというか……あったけど。

 

 存在感は皆無。

 それがこの俺、雷同太郎。


 このような自己紹介の流れでよくありがちだけど……

 俺はヘビーな中二病ど真ん中。

 

 アニメやマンガが大好き。

 加えて、ファンタジーマニアなのはお約束。

 だけど、意外にもオタクなのはそれだけじゃない。

 

 あのさ、話はいきなり変わるけど……

 少し前に女子で歴史大好き、

 いわゆる『歴女』って流行はやったじゃない?

 

 そうなんだよ、強引な話の持って行き方なんだけど、

 アニメ、ラノベ、ファンタジーと共に、俺は歴史も大好きなんだ。

 

 だから超歴史オタクの『ノブ太郎』って言われてる……

 それが、同級生や友人からつけられた俺の渾名あだなだった。

 つまり、歴史オタクの『ブタロー』とも言われていた。

 まあ、そんなに太ってはいないんだけど。


 俺は日本人だし、世界史よりも日本史にず~っと思い入れがある。

 特に戦国時代が大好き。

 まあ日本史の中では、戦国時代と幕末が特に人気があるって聞いた事がある。

 多分、幕末派は新選組とか、坂本龍馬が「推し」なのだろう。

 

 俺は完全に戦国派で、オタクの方。

 そう、『ノブ太郎』の渾名あだな通り、ノブ……

 織田信長が大好きなのだ。

 信長がたどった道、行った政策は勿論、

 戦争の際、危機に陥った心情にまで思いをはせる。 


 まあクラスメートからしてみたら、俺が持つオタクっぽい歴史トリビアなんか、

 完全に「ハズレスキルだ!」って馬鹿にされちまった。

 

 何故ならば、クイズ番組で、解答者のタレントよりも、

 先に答えるくらいが関の山。

 そんな知識、全然役に立たないって。


 え?

 もうそんな話は要らん?

 それよりお前、『彼女』は居るのかって?


 いやいや!

 居るわけない。

 

 キスどころか、生まれてこのかた、デートさえもした事がない。

 女子とふたりで話した事もほんの数えるくらい。

 つまり彼女居ない歴17年。

 

 そんなさえない俺だけど……

 たったひとつだけ、楽しみがあった。

 

 実は、恋をしている。

 まあ、当然ながら『片思い』

 加えて、「ふられる」のが100%確定な自身皆無の、

 悲しい恋なんだ。

 

 え?

 お前に恋なんて似合わない?

 オタクなら、2次元女子にでも恋していろ?


 いやいや!

 確かに俺は2次元女子は大好き。

 だけど、リアルな女子はもっと好きなんだ。

 

 まあ、こんなに没個性の俺だって、

 誰かを好きになって良い権利くらいある。  

 

 で、恋の相手は誰かというと……

 じつは俺の幼馴染。

 『初恋』の相手なんだ。

 

 一見つんとしてるけど、ときたま見せる笑顔がまぶしい、

 そんなギャップ萌えが、とびきり素敵な子。

 

 ……幼稚園の頃、大好きになって、

 それからず~っと一途に彼女の事を想ってる。

 思えば、彼女は小さな頃から可愛かった。

 幼稚園卒園後、互いに別の小学校へ行ったから、

 多分、俺の事など……すっかり忘れてる。


 それが『行きつけのコンビニ』で、ばったりと再会した。

 遠目から、何となく、そうじゃないかと思っていたら……

 店長から呼ばれた名前で彼女だと判明した。

 

 すると熾火おきびのようにくすぶってた、

 俺の初恋に再び激しく火が点いたってわけ。


 離れ離れになってから早や9年……

 成長し、俺と同じ高校生になったであろう幼馴染みの彼女。

 現在の容姿は先日引退した、某アイドルタレント似の可愛い女子なのである。

 

 タレントレベルの可愛い子だから、当然、恋敵こいがたきは多い。

 彼女の勤務時間には、何故だか男の客が大幅に増えていた。

 もしかしたら……彼氏も居るやもしれない。


 ああ、でも恋って辛い。

 特に半永久ともいえる片思いはとても苦痛だ。


 本当は、勇気を出して言いたい。

 レジ越しに、

 「幼稚園の時、ひとめぼれしました。ず~っと君が好きでした」とコクりたい。

 「容姿ではなく、俺の内面を見て下さい」と伝えたい。

 

 さりげなく甘く、愛をささやきたいのだ。

 うん! 

 けしていい加減な気持ちではない。

 真剣なんだ。


 だけど……

 自分でも分かっいる。

 そんな甘い恋など柄じゃない。

 全然似合わない。


 俺は元々意気地なし。

 幼馴染の彼女にふられたら、全治10年はかかってしまう。

 この物語の作者同様、傷つく事に超敏感な豆腐メンタルなのだ。


 それにクラスの女子からは普段、後ろ指をさされてる。

 傍を通るだけで「近付くな、ばい菌!」って怒鳴られている……

 酷いよ、あんたら。

 でもさ、これって、男に対するセクハラじゃないのか?


 だから、幼馴染の彼女へ下手に声をかけでもしたら……

 多分不審者として、即座に店内の防犯ベルを押され、警察へ通報される。

  

 格好良い男だったら、自信を持っておしゃれにデートを申し込むけど……

 この俺だよ。

 陰キャの『ブタロー』なんだもの。

 情けないけど、自分に全く自信が無いんだ……

 

 でもズルイよな。

 そう思わない?

 

 もし同じ事をしても、カッコいいイケメンなら全然許される。

 絶対セクハラになどならない。

 だが、俺は即座に訴えられ、

 下手をしたら牢屋行きに間違いない……

 

 男は性格重視って世間じゃ言うけれど、違うよ、絶対に違う。

 俺は、よ~く分かってる。


 だから、ささやかな幸せだけで満足している。

 

 買い物して、彼女がつり銭を間違えたら優しく指摘してあげる。

 商品がなくなりそうな時に、わざとその商品を買い、

 品出しと店の売上げ貢献をするようなフォローをしていた。

 

 え?

 そこまで好きなのに、お前は消極的過ぎる?

 いや、いいんだ!

 「遠くから見守る愛もある!」って、誰かが言っていたじゃないか。


 だが……

 平凡な日々を送っていた俺にも、遂に運命の日って奴がやって来た。

 人生のターニングポイントって奴だ。

 

 え?

 10年以上温めた初恋が叶うとか、

 奇跡の幸せが突然に来たのかだって?

 

 全然違う!

 これが、まったく逆!

 最悪の不幸になったんだ!


 ある日の事だった……

 俺がいつものように、遠くから幼馴染を眺めて幸せに浸っていたら、

 とんでもない事件が起こった。


「きゃああああああっ!!!」


 その事件が起こった瞬間!

 レジに居る片思いの『マドンナ』が、いきなり大きな悲鳴をあげたのだった。

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