第17話「超ブラコンお市エリザベスの恋①」

 信秀オヤジことアーサー父クライヴ・バンドラゴン王から……

 バンドラゴン王家、王位継承の内諾を貰った俺であったが……

 嫁イシュタルの下へ戻る前に、もうひとり会っておかねばならぬ人物が居た。

 

 俺と入れ替わって『次の世界』へ旅立ってしまったアーサーから、

 念入りに頼まれた、彼の愛する妹エリザベスである。


 アーサーから知識の受け渡しをして貰った際、俺は吃驚びっくりした。

 前世も含め、今迄見た中で、エリザベスは一番の美少女だったから。

 

 それに、彼女は可憐な超美少女というだけではない。

 アーサーがそこまで言うのは、特別な理由があったからだと後で分かった。


 というわけで、俺は今エリザベスの私室前に居る。

 扉の前には警護の騎士が居るが、当然俺=アーサー王子の顔を知っている。

 なので、警戒などせず、満面の笑みを浮かべていた。

 

 そう、兄が妹の部屋を訪ねるのは全く問題ない。

 真夜中ならばいざ知らず、まだ陽が沈まない夕方前なのだから。


 俺は扉をノックした。

 しかし……


「どなたでしょう?」


 返って来たのは……

 エリザベスではない若い女の声である。

 多分、エリザベス付きの侍女だろう。


 ここは、普通に名乗った方が良い。


「アーサーだ」


「アーサー様……はい、確かにお声はアーサー第一王子様ですね。ジーン様、間違いありませんか?」


 ジーンとは、扉前に居る護衛の騎士の名である。

 侍女は俺の『声』を認識していた。

 名乗った俺が、アーサーに間違いがないか確認したのだろう。


「はい! ここにいらっしゃるのは、アーサー王子に間違いありません」


「そうですか……しかし姫様は本日、ご体調がすぐれない為、ご親族を含め、どなたにも会わぬと仰っております。兄上様とはいえ申し訳ありませんが、お引き取りを……」


 成る程……

 エリザベスは、具合が悪くて、自室に引きこもっているのか。

 それで俺が王宮へ帰還した時、姿が見えなかったんだ。


 でも……体調不良というのは、嘘だ。

 多分、仮病だろう。

 アーサーから聞いた話では、昨日までは全然元気でいたらしいから。


 まあ、引きこもりの理由は、大体想像が付く。

 ズバリ俺の結婚から来るヤキモチだ。

  

 エリザベスは12歳の少女で繊細且つ多感な年頃。

 無理は禁物である。


 だが、ここで「じゃあ、帰ります」などという、

 子供のお使いみたいな事を俺は言わない。


「おい、侍女、ぐだぐだ言っていないでさっさと扉を開けろ」


 今迄のアーサーであれば、当然、素直に引き下がると思ったのだろう。

 想定外の大声を掛けられた侍女は吃驚した。


「は?」


「妹の部下として、命令に忠実なお前には感心する。だが、もっとあるじの性格を理解した上で、場の空気を読め」


「ア、アーサー様、扉越しで申し訳ございません」


「ん?」


「わ、私はアーサー様もご存知の、エリザベス様付きの侍女頭ブレンダでございますよ。仰っているのは、どのような意味でしょう?」


 今迄のアーサーだったら、素直に引き下がる筈なのに……

 という、戸惑いの波動が伝わって来る。

 侍女の心の内が分かったのは、ロキから与えられたチート能力『サトリ』によってであった。


 まあ……

 ブレンダに悪気はないので、俺は「優しく」物言いをする。


「分からぬか? ケースバイケース、臨機応変さを考えず、杓子定規しゃくしじょうぎに命じられた事だけを遂行するのは、愚の骨頂だと申しておるのだ」


 主に対する忠義心を『愚の骨頂』とおとしめられ……

 侍女ブレンダは、『怒り』と『驚き』の波動を送って来る。


「ん、まあ!」


「聞き分けろ、ブレンダ! 何度も言わぬぞ。至急エリザベスに取り次ぎ、この扉を開けよ。開けなければぶち破る」


「え? ぶ、ぶち破るって!? お、お戯れを!」


「たわけ! けして戯れではない! 俺は、遊びでここへ来たのではないし、つまらぬ冗談が大嫌いだ」


「え?」


「有言実行! 先ほど、くだらぬ冗談を抜かした宰相をぶん殴ったばかりだ」


「な!? さ、宰相を!?」


 ブレンダの驚きが最高潮に達した時、

 騎士ジーンの最高ともいえるフォローが入る。


「本当ですよ、ブレンダ殿。王子は宰相をこぶし一発でノックアウトされました」


 ジーンの口調には、「してやったり!」という爽快感が含まれていた。

 もうはっきり分かる。

 

 先程の事件でもオライリー麾下の騎士以外、非難する者は殆ど居なかった。

 俺の迫力に臆しただけではない。

 オライリーは、若手の騎士達からは相当嫌われていたのであろう。


「…………」


 ブレンダはさすがに絶句したが、もう逆らう気はないようだ。

 暫し経って、扉は開けられたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 応対したブレンダと侍女数名が、まるで背後に守るようにして、現れたひとりの美少女……


「お兄様!」


 純白色の絹製らしきガウンに包まれた、小柄ながら伸びやかな肢体。

 真ん中で分け、2本のお下げにして垂らした、さらさらな金髪。 

 その姿はまるで古代の神話に出てくる伝説の妖精。

 但し……顔は少しやつれている。 


 少女の名はエリザベス・バンドラゴン。

 アルカディア王国第一王女。

 正室アドリアナの子で俺や弟のコンラッドと母を同じくする実妹である。


 エリザベスの立ち位置は、この異世界信長ワールドで言えば、絶世の美女である信長の妹。お市の方だろうか? 

 

 確かに、この美少女っぷりであれば、充分に納得だ。

 例えれば超一流職人マエストロが精魂込めて作り上げた、

 可憐なフランス人形である。

 

 和風美人のお市様とタイプは全く違うが、ここは西洋風異世界。

 ここまで可愛いなら問題は全くない。


 ちなみに、前世の俺には妹など居ない。

 ひとりっ子で育って来た。

 だから想像しか出来なかった。


 残念だが、今迄知らなかったのだ、この感動を!

 世間でいう『妹萌え』とはこんなに素晴らしいと!

 可憐なエリアベスを見て、心の底から感じているのだ。


 そう、エリザベスの肌は白磁の如く、抜けるように白く美しい。

 鼻筋がすっと通った端麗な顔立ちは、

 母アドリアナ譲りの気品を残しつつ、碧眼には夢見るような輝きが宿っている。

 

 エリザベスの可愛い頬が僅かに膨らみ、桜色をした小さな唇が開く。


「今日はお兄様にとって、特別な日……なのにわざわざ私の下へ、いらして頂くなんて、一体何用でしょう?」


「おお、エリザベスに大切な用事があるから来たぞ」


 俺が理由あって訪ねたと言えば、エリザベスは嬉しそうに、

 綺麗な青い目をキラキラさせている。

 『希望』『期待』という、強い波動が放たれる。


「大切な用事? もしかして?」


「何だ? もしかしてって?」


「決まっていますっ! 私との宿命たる純愛を選び、あの女とは、きっぱり別れる! そういう事なのですね? 嬉しいっ! 凄く嬉しいですっ!」


 エリザベスは歓喜の表情で叫ぶと、

 思いっきり、俺の胸へ飛び込んで来たのであった。

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